第6話 陰陽師って何?

「さて、解らないについては食べながら話を聞こうかな。儂を頼って来たということは、しかもなんぞ解らんことがあるということは、一筋縄ではいかん話だろ」

「ううん、まあ、そうね」

 そう大仰に言われるとちょっと困るが、確かに一筋縄ではいかなそうだなと桂花は頷く。しかし、それよりも鼻を擽る美味しそうな匂いに負け、喋るよりも前に目の前にあった西京焼きに箸を伸ばしていた。

「ううん。美味しい」

「それは良かった。儂も一人だとここまで用意するのは面倒だからなあ。たまに桂花が来てくれると色々食べられて助かるよ」

「解ったわ。まだ仕事に慣れなくて余裕がないけど、もうちょっと慣れたら頻繁に押しかけることにする」

「それはそれで困るけどなあ。まあ、適度に来ておくれ」

「了解」

 そこで互いにくすくすと笑い合い、しばらくは料理を食べることに集中してしまう。そしてある程度お皿が空になりお腹が落ち着いたところで

「お祖父ちゃん。陰陽師って何だっけ?」

 唐突にそう質問していた。それに龍玄ははてと目を丸くし、ついでにこっと笑ってくる。

「陰陽師って言ったら、ほら、一条にある晴明神社、あそこのご祭神の安倍晴明が有名だろうねえ」

「あっ、そうか。それでどっかで聞いたことがあると思ったんだ。そうか、安倍晴明か」

 陰陽師という単語そのものは馴染みがないはずなのに、どこかで聞いたことがあると思っていた。それは安倍晴明の話からか。一条にある晴明神社には桂花も行ったことがあり、アニメや漫画やゲーム、さらには小説に映画とキャラクター化されることが多いからか、若い女の子で溢れ返っていたのを思い出す。

 その安倍晴明とは平安時代に実在した人物で、職業は当然ながら陰陽師。あれこれと不思議な力を使って活躍した人のはずだ。しかも一条戻り橋の下に式神という、手下の鬼を棲まわせていたなんて説話もある。まさにびっくり人間のような人だ。

 さらにライバルに道満という陰陽師がいて、その人と呪いバトルをしたこともあるという。政治と呪いが絡み合う平安時代って一体どんな時代だったのかと、桂花はその話を聞いて目を丸くしたのを覚えている。

 しかし、それとあの陽明という人はどういう関係があるのだろう。同じ職種というだけだろうか。いや、そもそも陰陽師とは何かという問いに答えてもらっていない。一体どんなことをする人なんだろうか。まさか陽明もびっくりするような術が使えるのか。あのスーツ姿からはイメージできない。というより、マジシャンみたいになってしまう。

「安倍晴明は知っているわ。でも、詳しくは知らないのよ。だから陰陽師って具体的に何をする人なかの教えて」

 結局、再び龍玄に訊ねる。すると、本当に解らないのかとびっくりされてしまった。

「おや、まったくイメージ出来ないのかい。あの薬局にいるんだから、東洋医学を扱う時にある程度は聞いていると思うぞ」

 ううむと悩む桂花に対し、にやりと笑って龍玄が付け足してきた。明らかに楽しんでいるように見える。

「東洋医学で、ってどうして」

「どうしてと来たか。じゃあ、陰陽五行説という言葉を聞いたことはないか」

「ああ、あの難しい」

 それは聞いたことがあると、桂花はぽんっと手を打った。そして大学の授業でよく理解できなかったんだよなあと苦笑してしまう。

 さて、その陰陽五行説とはこの世を構成するものを陰と陽、さらには木火土金水の五つに分けて考えるものだ。その五つの要素は互いに相生相克の関係にあり、例えば木は火を生じ、土を損なうというような関係を持っている。

 医学的な観点から見ると、その五つの要素の相克関係が体内における様々な働きに変わるというものである。五臓はこの五行に対応していて、肝は木、脾は土、肺は金、腎は水にあたり、六腑のうちの五腑、胆は木、小腸は火、胃は土、大腸は金、膀胱は水に対応していると考えるのだ。

桂花は薬学部で苦戦させられ、さらには四月から猛勉強している内容だった。しかし、苦手意識があるせいかなかなかに手強いもので、合っているっけと首を傾げること多数だった。

「その陰陽五行説を上手く利用していたのが陰陽師だな」

「へえ。じゃあ、今の時代に合わせるとお医者さんみたいなものかしら」

「いや、ちょっと違うなあ。医者のようなことも時にはやっていただろうけど、どちらかというと科学者みたいなものかなあ」

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