#8.DT
【イアストラ王国_ハンケイン区_王立図書館_過去】
「そうね。あなたがそう思うのなら間違いないわ」
やはり、アミリさんと話すのは楽しい。
間違いないこの時間、彼女との会話は愉悦でしかない。
「そういえば……アミリさんの親御さんはどんな人なんですか?」
「あなた、挨拶にでも来るつもり?」
「いえ!そんなんでは……」
静かに彼女は微笑んだ。
「わかってるわよ、そうね……例えるなら元気で明るい人たちかしら。実はあまり会話したことがないの」
「それはいったい」
「たしかに私の父と母は私を産んだのだけれど、それが父と母である証明にはならないでしょ?」
「?」
「複雑なの、察して」
「あぁ…」
また踏み込んでしまったか。
「それじゃ、あなたは?お父さんとお母さんはどんな人なの?」
……え?
「……」
「どうしたの?」
いったいどっちを……言えばいいんだ。
「僕の…父さんと母さんは……」
「いえないことならいいのよ」
「いえ……アメリさんの答えと一緒です。優しい人です。だけど、それが本当に僕の親かと言われれば…」
「私の発言で少し困惑させてしまったのね、いいのよ。大丈夫、あなたの親御さんはちゃんとあなたの両親なのよ」
…ちがっ、そうじゃなくて
「気晴らしをしましょう、こっちに来て」
「…?」
アメリさんは手招きをしている。
僕が彼女の近くに寄ってもいいのか。
「なに?緊張してるのかしら。大丈夫よ、ここには誰もいない。とりあえず寄りなさい」
ベンチ型の椅子……とりあえずアメリさんの横に座ればいいのか……?
「ほらここ」
彼女は自分の膝をぽんぽんと叩いている。
我ながら心が…今までにない熱を帯びているのが肌身で感じる。
それは、つまり、いや、なにが……だから…それはっ
「あなた、した事ないの?膝枕」
「なっ…ぃです」
声が裏返ってしまった。
なんなんだこれは…この感覚は…激しく動揺しているのは…いつもの僕らしくないじゃないか。
「珍しく取り乱しているわね、私の事好きなの?」
「いっえ」
違う、そういう類のものでは無いと…思うんだ。
そういう類のものでは無いと切に願いたい。
「ならいいでしょ、ほら」
「し、失礼しまっす」
そうして、僕の頭は…彼女の柔らかい太ももに…埋もれてしまったわけだ。
嗚呼、いい香りがする。嗚呼、嗚呼、嗚呼……
「悲しい時や気持ちが落ち着かない時、膝枕というものはその効果を強く発揮するの。例えばね」
僕の頭をその繊細な手で優しく撫でる。
「こうすることで…人はまた再起できる」
ここちよい
「なんだか仲のいい兄弟のようね。あなた何歳なの?」
「9…です」
「そう、8歳差なのね……なら有り得る話ね」
アメリさんは17歳だったのか……僕の見立ても外れてないな……。
「ふふ……こうして…私の好きだった人にも…撫でて上げれていたら…結末は変わっていたのかしらね」
「……そうだと思いますよ」
「そうかしら」
「アメリさんの手と温もりは……まるで暖炉のように…僕を感情ごと包み込んでくれます」
「詩的なのね」
つい、癖が……
「そう言ってもらえてよかったわ…続けましょ」
「……」
この感情が一時のものでないのなら、僕はきっと彼女に恋をしているのだろう。
【サラファン_冒険者ギルドサラファン支部_ギルド長室】
「おっ、帰ってきた」
「すみません、取り乱してしまって」
「大丈夫、そんなことより今はじいちゃんと交渉するぞ」
「交渉とはなんだ、いったい」
「だから!アタシ達は普通に旅がしたいだけなの」
「嘘をつくな、イアストラ王国が滅んだ真相を探っているのだろう」
「そんな証拠どこにもっ」
「探してます」
「サゴリン?」
「僕はイアストラ王国が滅んだ真相を探しています。そして、ハンケイン区を解放する手段も」
「…やはりそれが本音か」
「サゴリン?いつもと熱の入り方が…」
「ハンスさん、向こうでこんな人と出会いました」
「誰だこれは…カラヴァーニ・ジェズアルド?」
「あっ、それは違います。こっちです」
「フィア・ソフィア……こいつは」
「悪しき魔力を研究していると言っていた人です。この謎さえ掴めれば…ハンケイン区解放に近づく」
「だからなんだと言うのだ、そもそもフィア・ソフィアは…」
「冒険者ギルドに惜しみなくその人材と資金を使い彼女の研究をサポートして欲しいのです」
「スレイ・シャンクトワール。わしの話を聞け」
「……?」
「フィア・ソフィアは数年前に死亡報告が来ている。最寄りのうちにな」
「……は?」
「うぬはその亡霊でも見たのか?確かに彼女は優秀な研究者ではあったが、それが仇を為したのか死亡したと通達がきた。冒険者ギルドとしても死人に支援をかけることは出来ん」
「いやでも、ここに来いって…彼女本人が…」
「彼女はなかなかに有名な研究者であった、名を騙る者も多いであろう」
「いや、しかし」
「はいはーい!!わかった!わかったよー!!ここでヤギさん流の解決策を教えてやろう!!」
「……?」
「うぬよ、急に声を張りすぎではないか」
「サゴリン、ここいくぞ!」
ヤギさんはオーバーリアクションともとれる動きで来いと指定された場所が書かれた紙を指さした。
「これで真偽を確かめてくる!いいでしょ、じいちゃん」
「いかん、それ以前にワシはうぬらが高名な王族の子供達であるが故に保護をしているというのに」
「へぇ、アタシらを止めるんだ」
「んぬ?」
「世界でいちばん強いこのアタシと、なんかすごいらしい魔法を使うコイツ……ここで暴れたらどうなるのかなぁ~じいちゃん!!」
ヤギさん、それは脅迫じゃ
「ワシは屈さな…い」
「まぁ、簡単に町はひとつは潰せるだろうね~。冒険者ギルドもろともね!」
「……ぁ、好きにしろ……ただ、一つだけ忠告させろ」
すごい交渉術だな……。
「なんだい?」
「その名を明かすな。うぬらが思うよりその名は強い。ギルドカードも うぬらが帰ってきた頃にはヤギとサゴリンで登録を済ませておく…かならず明かすでないぞ」
「おう、任せて。ありがとね、じいちゃん。ほら行くぞ!サゴリン」
「う、うん」
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