第三話 みうみう

 誕生日は二日違いで、同じ病院で産まれて、幼稚園も小学校も中学も高校も全部一緒。姉妹みたいな、あたしちゃんの大親友、狐雲こぐもうみ。今日、あたしちゃんがピンクを選んだからと言って、水色の髪に染まった長い髪をゆらゆらさせながら、鳥居迷路の外、神社境内の庭みたいな場所の真ん中で、別れた時のままの姿で、立っている。

 境内の周りにはおみくじの建物や、五百年前からある記念の建物、年末年始だけ開放されて、みんなで年を越しながらお雑煮を食べる食堂みたいな建物など、なんか円を描くような配置で建っている。


「みおみおー、マジでまだ生きてたのかよ、みおみおー」

「みうみう! それこっちのセリフだよ! みうみう!」


 と、近付こうとした。でも、進めなかった。あたしちゃんは、四ちゃんからの光と声に気付いた。みうみうを赤い光が包んでいる。四ちゃんの声は、そこに敵の、間違いなく、確実に、それが敵であると示す体力ゲージが在る事を伝えてくる。つーかその体力ゲージ、あたしちゃんも見たいんだが?

 って待って待って。みうみうってば、あいちー達と同じく乗っ取られている?

 いいや、違う。違うんだ。そうじゃない。考えたくないけど、絶対にそれは嫌だし、受け入れたくないけれど。

 ああ、どうして。どうしてあのガチャで手に入れたご先祖スキルが、ここで、この形でわかってしまうんだろう。


 十三段流戦闘術二代目師範、十三段みとには、産まれた時から姉妹のように育った妖怪の友達がいたの。その子の名前はヒナコっていうんだ。あたしちゃんは勝手にヒナピって呼んでるんだけど。

 十三段みとの子孫はあたしちゃんだよね。じゃあ、ヒナピの子孫は、明らかに妖怪なあの眷属どもだけ? 確かすっ飛ばしたパパの話にもチラッと出てきたような。スッ飛ばしたから六ちゃんは分かってないかも? それともアーカイブ見てくれたらわかるかも?

 十八代目師範十三段さかい子さんのご先祖スキルが、あたしちゃんの意思に反してバキバキに発揮されている。妖怪の根源を探る能力が、みうみう・・・・・・うみって名前の狐蜘蛛きつねくもに対して!


「澪、みうみうの手を見ろ・・・・・・既に、狐石は!」


 荒国さんがなんか言ってるけど、なんか言ってるんだけど、全然頭に入ってこない。六ちゃん、お願い。今は荒国さんの声を聞いておいて。あたしちゃんの代わりにそれが出来るの、六ちゃんしかいないんよ。

 荒国さんの声を聞かず、あたしちゃんは叫ぶ。叫びたかった。


「最初から! 出逢った時から! 産まれた時から! あんたは! みうみう!」


 あたしちゃんの絶叫を、みうみうは黙って聞いている。手に、なんか石みたいなの持ってるけど、ぶっちゃけどうでも良い。


「澪、何を言ってるんだ。みうみうもヒナコの眷属に操られてる。早く救けよう」


 違う! 違うんだよ、荒国さん!

 分かっちゃうんだ。あたしちゃんには、分かっちゃうんだ。

 みうみうも、もう気付いている。一度も見た事のない、一度も見たくない、邪悪な笑顔を浮かべて、封印の狐石を掌の上で、コロコロ転がしている。


「荒国さん、みおみおの反応見て、気付かない? 紳士なイケオジ刀って思ってたけど、こういうの、鈍いんだ」

「コラ、みうみう! 荒国さんを悪く言うなよ! 時々おバカなだけだよ!」

「澪?」


 ひょっとしてなんだけど、荒国さんは、多分、荒国さんなりのやり方で、あたしちゃんの心のダメージが軽くなるようバカなフリをしてるんかな。生まれたときから側にいる、イケオジ日本刀は、そういう優しい妖怪退治の専門家だ。


「やはり、そういう事なんだな。澪、海」

「悲しい事に、そういう事なのよ。十三段流の澪、そして、同田貫荒国殿」


 みうみうの身体が変化かわっていく。敵から目を逸らしちゃいけないのに、目を向ける事が出来ない。でも、これは、目を向けなければならない、現実なんだ。

 そうして現れた、八本の蜘蛛みたいな脚が生えた狐の妖怪は、髪の毛のような水色の立髪を、見惚れるくらい綺麗に可愛く靡かせている。その尻尾はふっわふわのもっふもふで、蜘蛛のお腹のようにデカイ。


 あれ? これ、普通に可愛くないか?


「待って待って。みうみう待って。本当の姿メッチャ可愛くね? あたしちゃん好きだよ、そういうの。だって、その脚! よく見たら肉球ぷっにぷにじゃん。しかもそれが八本あるとか天国オブヘヴンじゃん。みうみう、そこ触っていい? ぷにっていい?」

「あ、わかる? みおみおがこっちの姿も好きって言ってくれるの信じてたのー。肉球は・・・・・・もうちょいしたら母上の気配がしてマジでシリアス回避不可能になるから、今のうちにぷにっといて。尻尾も好きなだけもふっていいよ」

「マジかよ! みうみうは、やっぱ昔からあたしちゃんの天使や」

「みおみおも、ずーっと昔からうみの女神だよ」


 もふもふ。ぷにぷに。いちゃいちゃ。

 やべー。何この触り心地。一生ここでマインドフルネスしたい気分だわ。猫を吸うマインドフルネスがニャニャンコフルネスなら、これは・・・・・・えっと・・・・・・友吸い・・・・・・フレンドフルネスか。

 荒国さんにじろじろ見られながら、何も変わらないいつものみうみおコンビを続ける。

 これから何が始まるのか、お互いに理解しているからこそ、あたしちゃん達は全力で最後の触れ合いを続ける。


「ほら、荒国さんも混じる! おっけ?」


 みうみうが言う。


「えっ? そんな、あいちー達と一緒にみうみおタイムって呼んでた尊い空間に、俺みたいなおじさんが混じるのはなァ」


 モジモジする荒国さんに向かって、みうみうは、言う。


「最後なんだよ? 来てよ。お願い」


 そうだ。最後なんだ。

 みうみうの心に気付いた荒国さんはあたしちゃゆ達の間に挟まる。多分本人はあたしちゃん達を抱きしめてるんだろけど、刀なので挟まる事しか出来ないのだ。

 見上げれば、夜空には赤くてデカい光が、いつの間にか現れている。四ちゃんによるものじゃない。

 アレがヒナピだ。デケェよ。もう空が全部ヒナピじゃん。

 もうちょっと待ってって言う、あたしちゃん達の気持ちは届いてるんだと思う。目の前にあるのに、全然降りてこない。


「みうみうのママピさー、デカすぎでしょ。どうなってんのアレ」

「あ、あれは母上じゃないよ。うみが封印を解いたから、母上にここだよって信号みたいなのを送ってるの。あの先にどこでもドアみたいなのがあって、多分地球に到着するのは明日・・・・・・二十四時間後くらいかなぁ」


 本体じゃないんかーい。そっか、宇宙の最果てにいるんだから、これくらいデカい目印が必要って事なのかな。


「母上が地球に近付くと、うみも今までみたいに居られない。母上の意思に支配されちゃう。母上は、あの日から、文明を破壊して食べやすくしてから食べる化物になった。文明って歴史じゃん? だから、うみは歴史のある何かを襲う化け物になるの」

「歴史のある何か・・・・・・十三段流か!」

「じゃあ、何? あたしちゃん達、みうみうのママピのご飯にされちゃう・・・・・・ってコト!?」


 みうみうは静かに頷くと、あたしちゃんと荒国さんから身を離し、こちらに背を向けて、神社の外に向かってカサカサと歩き始めた。

 赤い光に照らされて歩く親友の姿に、あたしちゃんってば、惚れてしまいそうになる。

 でも、もうこれで、みうみおコンビは解散なのだ。

 そうしてみうみうは、あたしちゃんからだいたい十メートルくらいの所で立ち止まって、こちらを振り向いた。


「準備運動したい」


 は? 何言ってんだ親友。


「ねぇ、準備運動しよう。準備運動したくない?」


 みうみうはキラッキラの笑顔でそう言った。

 えっ? 今? この流れで準備運動すんの?


「そうだな。それはそれでアリだ」

「荒国さん何言っちゃってんの」


 いや、待て。準備運動なんて、多分、こ、こ・・・・・・えっと、えーと、なんだっけ、コーラサワーみたいな・・・・・・あ、そう、それ、四ちゃんありがと。口実ね。全然違うじゃん! コーラサワー全然違う!

 そう。みうみうは準備運動したいんじゃない。多分、みうみうも何か別の言葉を言いたかったけど、出てこなかったんだ。

 ん? 口実ってこう使う言葉じゃない? この四ちゃん厳しいなー。六ちゃんを見習えよ! 黙って見てるだけだぞ!


 覚悟は決まった。こちらも立ち上がり、荒国さんも手の中に入ってくる。


「やろう。準備運動。思いっきり行くよ、みうみう」

「うん! うみも全力で行くからね、みおみお!」


 みうみうが、八本の脚を広げる。腕は下げたままで、でも、何か指先に光るものがある。この光は四ちゃんの光だ。気を付けろって事かな。

 あたしちゃんは荒国さんを腰にくっつけるように持ち、柄に手を添える。一刀式維、下段の構え。・・・・・・これもなんかカッコいい名前欲しいな。一刀式維まではええんよ。でも構えの名前全体的に雑なんよ。一刀式なら上段中段下段の三種類だけ。十三段流の初手は当たって当たり前だから、そこら辺はテキトーに決められたんかな。でも良いのないかなー。


 あたしちゃんが構えの名前をあれこれ考えている内に、みうみうが一段と腰を下げた。来る。


「じゃあ、行くよ。よーい」


 みうみうの合図に、あたしちゃんも応じる。


「ドン!」

「ドン!」

「ゴー!」


 はい、中断。中断、中断、中断!

 荒国さんだけがゴーと言ったので、あたしちゃんとみうみうは手を挙げて肩をすくめてやれやれと溜息をついた。


 荒国さんはオロオロとした雰囲気で浮かぶ。

 まさか、ひょっとして、このイケオジ、バカなフリをしてあたしちゃんとみうみうが戦うのを阻止しようとしてるんじゃないか?

 なんて優しいイケオジなんだろう。


「えっ、よーい、レディー、ゴー! じゃなかったか?」


 普通にバカだった。レディー無かっただろ、今。だいたい用意とレディーは同じ意味だろ。


「あのさ、荒国さん。五百歳の日本刀なんだし、さらっと横文字使っちゃダメでしょ。みおみおもそう思うよね」

「ねー。ホントだよー。やり直そか」

「だね。じゃあ、うみが振り向いて、準備運動しよって言うとこからやり直す?」

「そこまでやり直さなくてもよくね?」

「冗談だよ、みおみおー」


 二人でケタケタと笑っていると、強い風がぶわっと吹いた。ざあざあと森を揺らすその風に吹かれて、葉っぱが一枚、ヒラヒラと落ちてきたのが見えた。荒国さんも、みうみうもそれに気付いた。


 これが落ちたらに、する?


 みうみうに目配せすると、みうみうはウインクして応えた。荒国さんにも伝わっている筈だ。


 これは、もう覚悟を決めなさいっていう、何か神様とかそういう奴からのメッセージなのだ。


 お互いに、戦いの構えに戻る。ヒラヒラと、葉っぱは落ちてきて、地面にチューした。


 四ちゃんの光がみうみうの足を示した。色は青。踏み込んで、真っ直ぐみうみうの足元を狙う。

 同時にみうみうは高く飛び上がり、まるで映画のスパイダーマンのようにおみくじの建物の屋根に登った。


「スゲー! スパイダーマンじゃん! スパイダーマンじゃん、それ!」

「いいでしょー」


 指先が光って見えたのは、これのせいだ。そんでもって、これで封印の狐石を取ったんだ。


 すぐにあたしちゃんもジャンプして追いつく。屋根の上に登って、脚に目掛けて荒国さんを振る。しかし、またみうみうは逃げる。

 逃げながら、糸をあたしちゃんに投げてくる。これ絶対当たったら動けなくなる奴だ。四ちゃんの声に従って、回避する。

 森の木々や建物を使って、みうみうはあちこちから攻撃をしてくる。あれズルいな。

 準備運動って言うの、アレは本当なのかもしれない。少しずつだけど、飛ぶスピードが上がってきてる。

 建物や木を見てたら。四ちゃんの光が四つに増えた。白い光、そこに行けという光。どれでもいいんかな。

 

 考えずに食堂の建物に飛ぶ。何もない所に青い光が見えて、そこに向かって荒国さんを振るう。

 そこに、誘われるようにみうみうが飛び込んで来た。


「わっ! びっくりした!」


 ようやく荒国さんがみうみうの脚に当たった。どうなってるのか分からないけど、脚に斬撃の傷は無い。そんな事も出来るのか、このイケオジは。

 反撃も逃走も許さないあたしちゃんの維は続く。脚、腕、お腹、光った部分を縦横斜め、飛んだり跳ねたり転がったりしながら、あらゆる角度であらゆる方角から攻撃する。


「これが、みおみおが言ってた十三段流の維・・・・・・本当に止まらない奴なんだね」


 隙を見つけて反撃しても、その隙はあたちゃんが作った隙だ。あたしちゃんを蹴り飛ばそうとした脚を払い除けて、よろけたみうみうの頭を掴んで膝蹴り、露わになった首元を、狙う。

 今度はみうみうの腕が赤く光った。絶対に避けなきゃ行けない、しかも、上手く避けないと死ぬ攻撃が来るっていう合図だ。ここは回避の為の絶を使おう。

 みうみうの腕から触手のように糸が伸びて固まって行く。この形、アレだ。カブトムシの角だ。

 先端がカブトムシやクワガタ、カマキリとか、虫っぽい角や爪の形になっている触手は、全部尖った方をあたしちゃんに向けている。こえーよ。


「大丈夫だよ、みおみおー。準備運動だからぷにぷに質感にしといたよ」

「それはありがとう。でも見た目アウト」

 

 合図も無く、触手があたしちゃんを襲う。蜘蛛の糸で出来た触手は、斬ろうと思えば斬れるんだろうが、四ちゃんは全部触らずに避けろという指示を出している。どんな意図があるんだ?

 今度はあたしちゃんが止まない連続攻撃を受ける番。みうみうは糸を使って飛びながら、いつの間に張っていた巣まで使って、いろんな所から攻撃を仕掛けてくる。

 オレンジ色、払ったり跳ね返したりして隙を作るための光が時々見えるようになった。狙える時に狙えって事のようだ。

 あたしちゃんとみうみうとの決定的な違いは、四ちゃんの存在だ。四ちゃんは、六ちゃんがあたしちゃんを小説という形で読んでいるのと同じように、あたしちゃんをゲームという形で認識しているように思う。そうして、ゲームキャラであるあたしちゃんに指示を出しているのだ。

 一瞬、触手攻撃が止まった。この、みうみうが作ったであろう隙に四ちゃんが気付いた。

 あたしちゃんは大きく踏み込んでお腹を刺しに行く。


「そこだ!」

「させないよ、みおみおー」


 させてくれないのはわかっていた。ここに、お尻から飛んでくる触手攻撃が来るのもわかっていた。あたしちゃんじゃない。四ちゃんだ。

 四ちゃんってば、スゲーゲームウメーゲーマーなのかな。こんなんわかるわけないじゃん。どう見ても初見殺しって奴でしょ?

 光はオレンジ色。タイミングよく払えば、カウンターのチャンスが生まれる。

 

「それっ!」


 みうみうは可愛い口調で触手を飛ばしてきた。これを払う。払うと今度はあのもふもふふわふわ尻尾が飛んでくるから、それを掴む。

 そして、尻尾を斬る・・・・・・。この流れを四ちゃんは読んだ。


「えいっ!」


 やっぱり来た。みうみうは後ろを向いて尻尾をぶつけてきた。いや、そんなもふもふ攻撃、効くわけが・・・・・・って待って。飛んで来た尻尾を示す光は赤! ヤバい奴じゃん! もうあたしちゃんってば払いのける動きに入っちゃってるんですけど? 避けるのは間に合わない。受けるしか無い。


 キィン! という音が耳に響く。尻尾はもふもふじゃなかったし、ふわふわでも無かった。

 糸で作ったらしい、カブトムシとかの甲羅がいつの間にかみうみうの尻尾を包んでいた。重くて硬い尻尾にもなれるのか。

 ヤバヤバな気配がビュンビュンに来てる。一度維を止めて、距離を置く。みうみうを屋根の上に残して、地面に降りる。

 みうみうは得意気に尻尾を振り回してる。


「どう? うみ、こんな事も出来るみたい」

「今、覚えたのか、みうみうよ」

「違うよ、荒国さん。出来るけど忘れてたの」


 あんま変わんないじゃん。みうみうはずっと人間として生きてきた。だから、妖怪としての力はまだ眠ったままなのかもしれない。

 でもそれって、あたしちゃんも一緒だ。ガチャを使って無理やりご先祖スキルを解放出来るようになったけど、元々ご先祖さまの力は全てあたしちゃんの中に眠っている。まだよくわかってないあたしちゃん固有の力だってあるはずだ。

 こうして戦って行く度に、そういう力が解放されて行くのだろう。

 今だってそうだ。一つ、ご先祖さまの力が解放したかもしんない気分になった。


「!? 澪! この力は・・・・・・」


 荒国さんが先に気付いた。これで確定だ。多分コレは二十四代目無名さんの力だ。


「みおみおー、ヤバヤバな気配がバチバチなんだけどー」

「みうみうと一緒だよ。思い出したんだ。そのみうみうカチコチ尻尾の攻略法をね」


 あたしちゃんは胸を張って荒国さんを構える。


「ダメだ、澪。それは六代目様の世界に手を伸ばす禁忌の技・・・・・・しくじれば六代目様との繋がりが途絶えてしまうぞ」

「わかってるよ、荒国さん。でも、やるしかない。あたしちゃんだって、こんな事が出来るってドヤ顔ブンブンしたい!」

「やめとけ・・・・・・。無名殿の技は禁忌だ」


 なんだよキンキって。多分コレ歴代一位か二位くらいの強さだよ。

 でも、強すぎるからこそ禁忌と呼ばれているのかも。何故ならこの技は、六ちゃんの世界の情報にアクセスするという技だからだ。六ちゃんが小説としてあたしちゃんを認識してるなら小説、アニメならアニメから・・・・・・技をパクってパクってパクりまくってオリジナルだけどオリジナルじゃないでも少しオリジナルな技に仕立て上げるっていう、最強の技だ。一度使うと二時間は使えないし、何より六ちゃんと近くなり過ぎた反動で六ちゃんと離れてしまう可能性もある危険な技だ。

 そんな技をあたしちゃんは準備運動で使おうとしている。でもこれを使わないとあの尻尾には勝てない。

 構えたまま動かないあたしちゃんに、みうみうが飛びかかってくる。これは、回転しながら尻尾をぶつけて来る予感がする。


「トドメだよ、みおみおー!」


 色は赤とオレンジが交互に光っている。無理ゲーだ。とてもじゃないけど、これにタイミング合わせて払いのけるのはあたしちゃんでも不可能だ。でも、二十四ちゃんの禁忌の技ならこれを回避出来る。既に六ちゃんの世界からヒントをもらった。あとは組み合わせてパクリとは呼ばれない程度の技に仕上げるだけだ。

 覚悟は決まった。これは維ではなく、絶として使う。だからこそ、これには技の名前が必要だ。


 さあ、叫ぼう。この技の名前は・・・・・・


















 禁断禁忌キンキンナロウアタック!

















 キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!


 キィンッッッ!


 みうみうの尻尾の同じ場所だけを絶え間なく連続で打つ。やがてピシリとヒビが入り、みうみうの尻尾の甲羅は粉々に砕け散った。


「キンキンうるさ過ぎー」

「ごめんね、みうみうー」


 みうみうの動きは止まった。


「これで、お互いに今出来る最大の技は出し切ったのかな。それとも、みおみお、何かまだやれる?」


 みうみうがその場に倒れ込んで、人の姿に戻って行く。尻尾硬化アタックは妖力をかなり使うんかな。すこし気だるそうに、みうみうは立ち上がる。


「あー。キンキンうるせー。まだ耳に残ってる・・・・・・」


 本当にごめんよ。

 でも。


「楽しかったね、みおみお」

「うん。楽しかったよ、みうみう」


 ヨロヨロと、よろけながらみうみうは振り返り、あたしちゃんから離れて行く。次に会う時は、もうみうみうはいない。妖怪の膿がいる筈だ。だから、今の内に聞ける事は聞いておく。


「みうみう。一つだけ教えて」

「今ならいくつでも聞いたら教えてあげるよ」

「じゃ、三つくらい。あたしちゃんの家族は復活出来る? ゆにっぺあいちーれりりんは元に戻る? で、その為にあたしちゃんは何をすればいい? あと、妖怪モードマジで可愛いから後で自撮り送ってくれる?」


 みうみうは、こちらを向かずに立ち止まる。

 少し間を開けて、みうみうは空を見上げた。空にはもうデカくて眩しい赤い光は無い。星一つない真っ黒な空に、ぽっかりと浮かぶ赤い月。その横で、燃えるような赤い星だけが輝いている。

 赤い星を見つめて、みうみうは言う。


 「みおみおのパパ達を封印したのはうみだよ。うみがやらなかったら、多分、妹のサクが死体を異次元に捨てて、復活出来なかった。ゆにっぺ達をあんな風にしたのは姉のハク姉様。ごめん。止められなかった」


 みうみうは、続ける。赤い星が少しずつ大きくなっている気がする。あれは多分、みうみうのママピのヒナピだ。


「うしお姉様とうみは、父親は違うけど、人間との間の子供。爆姉様と朔は妖怪の父親との間の子供。だから、姉妹達はうみよりも母上の影響を受けやすい。眷属も生み出せる。でも、妖力によって生み出された物は、その根源を経てば、消えて無くなる。だから・・・・・・」


 みうみうはうつむいた。俯いて、こちらを振り向いて、あたしちゃんを真っ直ぐ見つめた。


「うみと姉様と妹を殺せば、みおみおの家族も、ゆにっぺ達も元に戻るし、眷属も消えて、母上も地球ごとうみ達を見失って、どこかに消えるはず」

「はぁっ? じょーだんでしょ」


 運命と書いてイジワルと読むって、誰かが言っていた。その通りだ。あたしちゃんは、親友と、その家族を殺さないと、家族も他の親友も助けられない。

 だから、冗談だと思いたかったけど、やっぱり運命はイジワルだ。


「残り二十二時間くらいかな。母上が地上に降りたらこの地球は破壊されて、母上が食べやすい形になる。そこで人間は生きていけない。うみ達も、今よりもっとヤバヤバな怪物になる。だから、急いでね」


 みうみうの身体を青白い煙が包んでいく。


「バイバイ。大好きだよ、澪」


 みうみうは・・・・・・あたしちゃんの大親友、狐雲海は、その言葉を残して消えていった。


「澪。大丈夫か。つらたんなら、泣いていいんだぞ」


 荒国さんのイケオジボイスでつらたんとか言われると、笑ってしまう。本当は泣き出したいくらい悲しいけれど、あたしちゃんに備わる力のお陰なのか、せいなのか、心はやっぱり軽い。


「ハチャメチャが押し寄せてきたら泣いてる場合じゃないって、影山ヒロノブさんも歌ってたでしょ。だから、今はつらたんとか言ってる場合じゃないよ」


 そうだ。残り二十二時間しか無いんだ。誤差とかを考えたら二十時間は余裕を持って考えておかないと、ヤバヤバのブゥーだ。

 あたしちゃんと荒国さんは、四ちゃんの光が指し示す、みうみうが消えた方へ向かって走り始めた。

 


 ピロン。

 スマホが何かの通知を受け取った。

 開くと、そこには妖怪モードのみうみうが、見慣れた笑顔で写っている自撮りが表示されていた。

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