第二話 究極無敵次元最強家族について

 柔らかいモノで叩かれながら目を覚ますと、聞き慣れた「ねえちゃん起きて!」の声がして、慌てて跳ね起きて、辺りを見回せば、住み慣れた部屋の見慣れたデッドプール様のポスターと叩かれ慣れたゴリラのぬいぐるみゴリ太郎とケン坊の馬鹿みたいに元気な姿がそこにはあった。全くこの最愛の弟って奴は、可愛い上にどんなコスプレも似合う。今日はセキローのコスプレをしている。ママが前に作った奴だ。

 って、待て待て待て。ん? なんなん?

 さっきまであたしちゃんはこの愛すべき弟、十三段堅慈郎やパパママアニキゴリ太郎の仇を討つ為に隣の神社で荒国さんと一緒に狐面の妖怪達と戦って、私の親友達をお面代わりにしている三つの頭のクソデカ犬、名付けてクソデケルベロスを倒そうとして、意識を失ったはずじゃん。あれ夢? それともここはあの世って奴?

 あの世にしてはケン坊はあたしちゃんを見てニコニコとしている。でも、どこか悲しそうな感じもする。あの世かな?


「姉ちゃんも井戸の水を飲んだんだね。あと髪の色変わり過ぎでしょ」


 ケン坊はゴリ太郎を抱きながら、確かに井戸の水と言った。夢じゃないって事はわかった。って事は、やっぱりあたしちゃん、あの攻撃で死んだのかな。

 なんにも出来なかった悔しさで涙が止まらない。こんな事ってありかよ。

 ケン坊とゴリ太郎を抱きしめる。暖かく柔らかい感触が伝わってくる。


「ケン坊、ごめんな。ねえちゃん、やられちゃったみたい」


 と、あたしちゃんは言おうとした。

 言おうとした途端、頭の中、心の中に何かが、複数の何かが入ってくる。漫画でキャラの過去編に移る時のような、名探偵アニメの解決シーンのような、あたしちゃんの憧れのデッドプール様が映画で過去を改変してる時のような、自分ではない何人もの人の過去が、ハチャメチャが押し寄せて来る感じであたしちゃんの中に入ってきた。ほんの一瞬だったけど、それは一度に、一気に、一斉に、確かに入ってきた。

 そして、その中には、ある記憶も混じっていた。それはあたしちゃんにとってとても衝撃的で刺激的で絶対に見逃せない記憶だった。


「誰かデップー様ごっこしてなかった? ほら、あの剣ぶるんぶるん振るけど弾が当たりまくるやつ」

「それ確か八十五代目さんだよ」


 そうだ。確かに見た。家族が殺される瞬間よりも、もう、それしか心に留まらなかった。荒国さんをぶるんぶるん振るけど、矢が刺さりまくってた。

 あれが出来るという事は、真実は一つだ。


「あたしちゃんもアレが出来るって事?」


 あたしちゃんの言葉を聞いて、ケン坊は目をキラキラ輝かせて言う。


「うん。僕も出来たよ! めちゃ楽しかった。セキローごっこもしたよ。タイミング外して身体は封印されちゃったけど」


 ケン坊は悔しそうに頬を膨らませた。なんと可愛いんだろう。あたしちゃんの弟として産まれてきてくれてありがとう。

 それにしても、やっべーぞ。これはヤバい。ヤバい以外の語彙力を失う程ヤバい。なかなかにヤバい。ヤバヤバが押し寄せて来てる。泣いてる場合じゃない。

 だいたいの事はあたしちゃんにも理解が出来た。あの水、異世界と繋がるだけじゃない。不死身になるんだ。んで、水を飲んだご先祖様の力や技をいきなり使える。チートオブチートじゃん。しか勝たん奴じゃん。優勝以外の何者でも無い奴だ。お前を月に牛乳でやるの本来の意味じゃん。


「ケン坊もあたしちゃんも死んでないって事はわかった。今のあたしちゃん達は魂か何かみたいな感じなんだね」

「うん。ソウル体みたいなもんだよ」


 ソウル体ってなんだっけ。ケン坊がめちゃくちゃ気に入った昔のゲームの言葉なのはわかる。よくわかんないけど、わかったフリをしておこう。


「それで、ここは何? なんであたしちゃんはあたしちゃんの部屋で目が覚めたの?」


 そして荒国さんは無事なのかな。


「僕らの家のコピーだよ。ひいお爺ちゃんの能力で、よくわかんない空間に僕らの家のコピーが出来てるみたい。そこら辺はパパがよく知ってるよ。パパは十三段家の歴史を検索する能力を手に入れてたみたいだから。こっちに来てからずっと検索してる。さっきねえちゃんが記憶を覗けたのも、パパの力だよ」


 このクソチートパワーは遺伝する奴なの?

 でも、それならあたしちゃんにも四ちゃんみたいな異世界に散らばる能力とか、他の能力が目覚めてるはずだけど、使える感じがしない。使い方がわからないから?

 うにうに考えようとして、思い出す。


「そう言えば、あたしちゃん達の身体はどうなってるの? 封印って何?」


 そうじゃん。あたしちゃん、あのクソデケルベロスになんかめちゃくちゃグロい殺され方してたじゃん。まだサイコロステーキ先輩の方が綺麗な死に方だよ。こちとらハンバーグだよ、ハンバーグ。ハンバーグ!

 その時、ドアをノックする音が聞こえた。


「ケン坊。澪、起きたか」


 アニキの声だ。ドアを開けて、とりあえずアニキを抱きしめる。アニキ・・・・・・十三段蓮司は、ゴリラみたいな坊主頭と細身のゴリラみたいな身体をしている。身長も百九十センチくらいある。そのゴリラなアニキは小さい頃のあたしちゃんにしてくれたように、優しく頭を撫でる。

 昔はあいちー達がガチコクしたくらいイケメンだったのに、いつからか鍛え過ぎてムキムキゴリラになったアニキが若干苦手になったので、こんな風に抱きしめるのは随分久しぶりだ。


「ゴリラだからあんな猿には負けねーと思ってたのに、負けたんだね」

「すまねーな。油断しちまったわ」


 アニキは照れ臭そうに笑う。


「嘘だ。さっき見たぞ。ゴリ太郎守ろうとしてくれたんだね」


 その優しさが嬉しい。ゴリラになってもやっぱりアニキはアニキだ。

 アニキはあたしちゃんの身体を離すと、屈んで目線をあたしちゃんに合わせて


「澪、まずリビングに行ってくれ」


 と、言った。

 そして、こんな風に続ける。


「親父がなんでこーなったかとか教えてくれる。んで、母さんは多分台所にいる。前よりもいろんな服とか作れるようになったから、着替えたかったら頼むといい。俺はまだ澪が目覚めていないご先祖様の力を目覚めさせる方法を見つけたから、道場で待ってる。武器が荒国さんだけで物足りない時はケン坊に言ってくれ。んで、準備出来たら玄関のドアから出て行けば、澪がやられた直後の時間に戻る事が出来る」

「戻る?」

「このよくわからねー空間は時間の流れが違う別の世界らしい。んで、今の所身体を封印されてない澪だけはここから元の俺たちの街に戻れるんだ。俺も親父も前からここを使って修行したり、死んでから作戦立て直して戻ったりしてたんだよ」


 この家族、全てにおいてチートが過ぎるだろ。

 究極にして無敵、次元最強の家族・・・・・・その名も究極無敵次元最強家族じゃん。

 とにかくパパにあれこれ聞こう。そして、謝らなくちゃいけない。ママはがっかりするだろう。あたしちゃんは、さっきの過去を見る力のお陰で、どうして女は大人になるまであの水を飲んじゃいけないのかを知った。でも、今はそれどころじゃない。

 階段を降りて、廊下を進めばリビングだ。台所とも繋がっている。あたしちゃんとケン坊が廊下の壁に描いた落書きもそのままだ。パパは少しだけ怒った後に、「上手だ」って言って消さずに残しておいてくれた奴。これは家の歴史まで再現されているのか。ちょっと泣けてくるじゃん。

 四ちゃんもパパの所に行けって言ってる。素直に従う。

 パパはソファに座って、リビングの机の上にある地図を眺めてる。狐石町の地図だと思う。ママは台所で何かご飯を作ってる。

 いつものようにメガネをかけてる。仕事用のスポーツ用の加圧スーツみたいな、なんか漫画のヒーローっぽい服を着てる。ママはいつものエプロン姿だけど、パパはいつもの優しいパパと言うより、仕事に行く前のカッコいいけど少し怖いパパの姿だった。

 パパはあたしちゃんを見るなり、立ち上がってあたしちゃんを抱きしめた。ママもすぐに駆け寄ってくる。


「澪、あの水を飲むなと言っただろう! お前は町から逃げれば、それだけで良かったんだ! 荒国さんにそう聞かなかったのか!」


 んー。確かそんな事を言ってた気がするけど、あたしちゃんはそれを聞いてウチに帰らなきゃ行けないって思っちゃったんだよね。それで、今に至るって事。


「パパ、ママ、ごめんなさい。なんでダメだったかさっきだいたいわかった。その、えっと」

「言わなくていい。言わなくていいんだよ」


 あの記憶が入ってきて、一桁台のご先祖様達が気付いたヒミツも理解してしまった。この水を飲んだ女は、子供が産まれなくなる。もし産まれても、なんか虫人間みたいな子供が産まれて、すぐに消えてしまう。言ってくれたら飲まなかったけど、言ってくれなかったから、あたしちゃんは今ここにいる。

 パパもママも泣いている。あたしちゃんもなんだか涙が止まらない。


「ごめん・・・・・・なさい」

「いいんだ。生きてくれさえいれば・・・・・・。なあ、母さん」

「そうね。お陰で澪だけは封印されずに生きてる。何かの意味は、きっと・・・・・・あるわ」


 ママはパパと一緒にあたしちゃんを抱きしめる。

 あたしちゃん達は究極無敵次元最強家族だけど、それ以前にやっぱり普通の家族でもある。しかし、究極無敵次元最強家族である以上、この悲しみを乗り越えて、妖怪と戦わなければならない。意味って多分そういう意味だ。


「で? パパ。一体全体何が起きちゃってるの?」


 そうだ。まず敵が何か知らなくちゃいけない。

 

「そうだな。話は五百年前、全ての始まりの日から・・・・・・」

「うん。だいたいわかった」


 なんか話長くなりそうだなって思ってたら、関係する記憶が頭に流れ込んできて、パパの話も一瞬で聞き取れて、あっという間に全てを理解していた。まるでスマホゲーのイベント消化する時に画面タップしまくるみたいな感じで時が過ぎていたった。


「澪、今お前六十代目様の力使っただろ」

「よくわかんないけど、多分そう」


 パパは頭をかいて困ったような表情をしたけど、すぐに笑顔になった。


「澪は二代目様によく似ていると思ってたが、その才能まで似ているのかもな。パパは嬉しい。パパの仕事ほとんど無くなっちゃったけど、四代目様と六代目様達には何が何だか全然分からないと思うから、澪の方でサクっと説明しといて」

「おっけ」


 パパの話をまとめると、五百年前、二代目師範が、傷を癒す為にたまたまこの星に来ていた宇宙人をイケメン妖怪と思って結婚したら、無敵のチート一族が爆誕してしまった。二人が産んだ最初のチート赤ちゃんが爆誕した日に、二人の友達だった狐の妖怪ヒナコが突然宇宙を滅ぼす鬼になる病気みたいなのにかかっちゃったので、宇宙人の血と鬼を倒すための金属で作ったコインを混ぜて例の井戸を作り、途中から同じ金属で造られた荒国さん達が合流して、狐の妖怪を封印した。けど、その封印がどうも解かれたからこうなっちゃったって事みたい。ホントはもっと長い話だったけど、簡単に説明するとこんな感じ。後でパパがアーカイブ? って奴を用意するから、四ちゃんも六ちゃんもヒマがあったら見といてね。


 で、その宇宙破壊鬼狐ヒナコが目覚めた結果、その眷属も復活して、町中の人に取り憑いた・・・・・・って事みたい。みうみうもあいちー達みたいに取り憑かれてるんだと思う。


 パパは続ける。

「神社に封印されているのは、本当はヒナコさん本体ではない。全力では無いとは言え、三代目の力を持ってしても全部は封印出来ない程の力を持っていたからね。神社に祀られている狐石に封印されているのは、その体の一部で、宇宙破壊鬼にとっての道標だ。我々にとっての四代目様が指し示す光と同じ。ヒナコさんはまだ宇宙の最果てで体の一部を探している状態だから、完全体では無い」


 そこまで言って、あたしちゃんの頭を撫でて、一言「スゲー色にして来たな」ってボソッとツッコミを入れてから、


「少し休んで、蓮司からご先祖様の力を何か一つ解放してもらったら、すぐあっちに戻ってくれ。本当は行かせたくないんだけどね」

「私達の身体の封印さえ解ければ、パパもママも蓮ちゃんも堅ちゃんも復活出来るわ」

「それと、分家の叢雲家も、明後日には影国さんと一緒にサンフランシスコからこっちへ来てくれるそうだ。兎に角、奴の封印が解かれないように守ってくれ」


 全部は封印出来なかったから、一部だけ封印して、残りは宇宙の果てに封印せざるを得なかった・・・・・・それが、あたしちゃんがこれから戦う敵、宇宙破壊鬼狐ヒナピだ。


 え、勝てんの? これ。

 宇宙の最果てにいる奴が目覚めたら地球の眷属も蘇ってる時点でヤバいでしょ。あたしちゃんもうヤバい以外の語彙力捨てるよ。ヤバヤバのビェーじゃん。

 狐石の封印さえ解かれなければ、ヒナピは地球にやって来ない。宇宙の最果てと地球までの距離をヒナピがどれくらいのスピードで来るのかは想像出来ない。だから、なんとしても、あのクソデケルベロスをボコにしてあいちー達を助けなきゃいけない。そして、家族にかかった封印を解く。

 鬼を滅ぼす覚悟は決まった。キメキメのツ・・・・・・あ、こういうの程々にした方がいいのかな。怒られるまでやるか。


「パパ、ママ。任せて。あたしちゃん、我が家に伝わる水の呼吸で鬼を滅ぼしてくるね」


 あたしちゃんのキメキメツーな覚悟完了ポーズに、パパは真顔で応える。


「やめなさい」

「でもパパ、四ちゃん光ってさ、『見えた! 隙の系!』 っぽいじゃん」

「ぽいけど、やめなさい」


 渋々キメキメのツーネタを諦めたあたしちゃんは、パパとママに見送られて、アニキがいる道場へ向かう。地下だ。

 十三段流戦闘術はとにかく攻撃を止めない事が何よりも大事なのね。流れるような攻撃や回避行動であるユイと、トドメの攻撃や緊急回避であるタチ、この二種類を組み合わせる事、それ自体が基本中の基本で、カッコいい名前の奥義とかは無い。そんで、道場は普通の格闘技とかの道場に比べて二回りも広い。学校の体育館二つ分くらいは広い。その広さを全部使っても、パパやアニキみたいな達人になると狭過ぎるくらいだそうだ。でも、水の呼き・・・・・・力を得たあたしちゃんならわかる。確かに狭過ぎる。こんなに動き回る格闘技は他には無いと思う。

 そして、維と絶なんだけど、四ちゃん光で言うと、維は青い光で絶は紫の光らしい。あたしちゃん自身はまだ絶の光を見ていないから、らしい止まりね。

 道場にあまり行かなくなってから何年経つんかな。少し懐かしみながら、アニキの言葉を思い出す。まだあたしちゃんが覚醒していないご先祖様の力を解放する方法って言ってたな。どんな方法だろう。






 道場に着くと、アニキと、その後ろでガチャ以外の何物でもないガチャがガチでガチャしてるガチャっぽいガチャな物体がガチャりながら待っていた。


「ご覧の通り、ガチャだ」

「ガチャ」


 アニキは楽しそうに解説する。


「ケン坊と一緒に作ったんだ。俺達はご先祖様全ての力と固有の力・・・・・・あー、ケン坊はスキルって呼びたがるんだけどな・・・・・・」

「その結果、一時間に一度回せるご先祖スキル解放ガチャが出来た、と」

「澪、六十代目の力をナチュラルに使うなよ。これも後でアーカイブにまとめとくから、四代目と六代目に見てもらってくれ」

「わかったよ、アニキ」


 要するに、ガチャじゃなくても中にあるコインの破片に触れれば、ご先祖スキルってやつが解放される。ガチャにしたのはその方が面白いから、っていう、実に我が家らしいアイディアだ。

 早速回してみよう。アニキから専用のメダルを貰って、投入・・・・・・そしてインド人を右に回す。

 あ、うん。そういうの、今は要らないよね。大丈夫。わかっててやってるから。わかってて、やってるから。


 出てきたコインの破片を握る。どんな能力かな。ワクワクしながら結果を待つ。

 五分が経過して、気付いた事がある。あたしちゃんの気付きは、アニキにも伝わったようだ。


「そもそもご先祖スキルってその時にならないとわからないよな」

「だよね」


 一度に二度ガチャいご先祖スキル解放ガチャイベントを消化して、玄関に立つ。ケン坊から武器をもらいたかったけど、今は急がなくてはならない。六十ちゃんスキルで飛ばしまくって四ちゃん六ちゃんにはわからないと思うけど、実は今、ここにそんな長くは居られないのだ。

 ここは異世界のような場所で、来た時の時間に戻る事が出来るのだけど、この空間の存在がバレてはいけない。戦闘中、この場所には三十分しか居られない。それを超えると、この空間の気配が漏れてしまうようだ。

 家族に見送られながら、あたしちゃんは振り向かずにドアを開ける。ここにくる直前にあたしちゃんが見たそのままの景色が飛び込んできた。めちゃんこ肉片飛んでんじゃん。

 ここから回復すんの? マジで? 信じていいの?

 悩んでも迷っても、あたしちゃんに出来る事は信じる事だけ。だから思い切って足を踏み出す。


「いってきます!」


 あたしちゃんがそう言うと、パパ、ママ、アニキ、ケン坊、ゴリ太郎が、大きな声で返事をする。


「いってらっしゃーい」





 身体が思うように動かない。ハンバーグのタネを混ぜる時みたいな音がする。身体は動かないけど、さっきまでの、魂状態の動き方を思い出しながら移動するとなんとその場から離れる事が出来た。しかも肉片が魂についてくる事がわかった。ラッキー。そして、二秒も経たない間に肉片はあたしちゃんの魂を覆い尽くし、無敵のあたしちゃんは再誕した。しかし、二秒弱だ。敵に攻撃できない時間が二秒弱。これは大きい。このロスは確実に再びあたしちゃんをハンバーグにする。


「澪、戻ったか!」


 荒国さんの嬉しそうな声が聞こえる。


「うん! なんかゴリ太郎が喋ってた!」

「うん?」


 ゴリ太郎お喋り事件は後で解決するとして、まずはクソデケルベロスを倒さなくちゃ。四ちゃんが示す青い光と紫の光に沿って、縦、横、斜め、縦・・・・・・相手との距離や角度を考えて、最適な維を続ける。時々、絶を混ぜて、すぐに維に戻る。これを自分が動けなくなるまで繰り返す。この全てが維であり、これが終わった時に絶となる。

 ってのが、パパから教わった維と絶の説明なんだけど、要するに動きながら出来るのが維、止まらなきゃいけないのが絶。絶を使うと大体そこで維が終わる。

 四ちゃんには、多分敵の体力ゲージみたいなのが見えているんだろう。もう少し、あと一撃、絶を決めれば勝てる。そんな声がする。確かに、クソデケルベロスは弱っているように見える。あたしちゃんの攻撃は全て直撃し、あちらの攻撃は全て避けた。精神的にも参っているのかもしれない。

 三つの首の中心が紫に光っている。それ以外の幾つかの部位が青く光っている。これを辿りながら絶の光まで維を続ければいい。

 クソデケルベロスが最後の力を振り絞り、飛び掛かって来た。しかし、その動きは既に四本ちゃんが読んでいる。飛び掛かりの後はまず三連噛み付きが来る。右、真ん中、左のどれかから来るんだけど、こうやって左から来たら首がオレンジに光るから、荒国さんでそれを弾き返す。こうすると、こいつの右前脚が紫に光るから、突き刺す絶を一度入れて、抜きながら反撃に備える。

 クソデケルベロスの周りを攻撃しながら飛び回り、なんとか弱点である首の根本に絶を入れられる場所に来た。


「見えた! 隙の・・・・・・」

「やめなさい」


 荒国さんがパパと同じ口調で言った。悔しい。十三段流戦闘術にも何か必殺技の名前を呼ぶ奴とかが欲しい。決め台詞ドチャクソ欲しい。そんなクソデカ感情は、抑えられる訳もなく、あたしちゃんは叫ぶ。

 そうだよ。オリジナルなら何叫んでもいいんじゃねーの?

 この姿勢、位置、角度・・・・・・。ここから出される絶は、こういう名前にしよう。


「スーパーヒーロー着地斬り!」


 アメコミのヒーローのように首の根本に着地しながら三つの首を同時に斬った。

 つもりだった。手応えがまるで無い。


 ああ! こいつ! こいつ! こいつら!

 こいつらって奴は!


「澪に斬られる直前に! そんな!」

「みんなの背中に戻りやがった!」


 みんなが人間に戻るのを見て、勘が良い天才のあたしちゃんはある事をハッと思い出し、封印の狐石を探す。それはウチの井戸と同じ、やはり七芒星の屋根がある祠の中にあった。破壊されたようには思えない。

 違う。あたしちゃんが何故狐石が気になったのかは、そう言う事じゃない。それは四ちゃんも気付いている。

 人間に戻れば、奴らは七芒星の祠に入る事が出来る!

 ゆにっぺが祠に向かって走り出した。荒国さんの鞘を使った維で転ばせるも、今度はあいちーとれりりんが走り出す。こちらもあちらもJKの動きじゃなくて、ニンジャ対ゾンビみたいな動きをしてる。

 なんとか三人を止めたと思ったら、再びクソデケルベロスの姿になった。

 あの姿になったら攻撃して来て、人間に戻ったら狐石の奪取に集中する。そうして回復したらクソデケルベロスモードに戻る。あたしちゃん、てっきりそういう作戦かと思った。

 違った。クソデケルベロスは大きく遠吠えをすると、来た時のように鳥居を破壊しながら神社の外に出て行った。諦めたのかな。四ちゃん情報では体力は回復していたはずなのに。


「なんで? どうして? 意味わかんないんだけど」

「澪! 後ろだ!」


 後ろ? 荒国さんは確かにそう言った。四ちゃんからは何も聞こえない。そっか。四ちゃんはゲーム視点だから、多分これムービー中だから後ろが見えないんだ。マジかよ。そこまでゲーム形式じゃなくてもいいじゃん。

 荒国さんがあたしちゃんの手から離れて、自分で動いた。でも、それは途中で止まった。荒国さんを追いかけると、そこには見慣れた女の子が立っていた。


「やっほ。生きてたんだね、みおみお」


 みうみうが、今日、別れた時のままの姿で立っていたんだ。

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