商店街のお茶屋さん~運命の番にスルーされたので、心機一転都会の下町で店を経営する!~

柚木 彗

1話

「ふぁ…」


 眠い。

 朝の6時に起きてから台所に一人立つ。

 日課と言うか母親に言われてからずっと守っている朝食を作る。



 一人暮らしをするにあたって、朝は絶対に味噌汁と御飯にすること。



 厳守と言われて固く約束をしてから十年。

 高校に入ってから寮暮らしとなり、それから稀に実家に帰ることはあるがほぼ一人の部屋。

 大学に入ってからは更に都会へと引っ越しをしてしまい、東北の片田舎には足を向けなくなってしまった。既にもう実家周辺の事柄等、記憶から薄れつつある。

 覚えているのはただ、実家から数分歩いた所にある川ぐらいだ。


 小学生の時、近所の友人達と皆で放課後釣り竿を持ち、毎日のように釣りに勤しんだ川。

 夏になればほぼ半裸、パンツ一丁で飛び込んだ日々。

 それが中学になり、気が付いたら徐々に半裸で飛び込むことが無くなり。

 それでも釣りだけは楽しくて、高校の寮に入るまでは友人達と釣りを楽しんだ。


 川にある石を転がしては昆虫を捕り、それらを餌にして釣った魚は家に帰るとよく夕飯の献立の一部になり、家族を喜ばせた。ただ毎度毎度昆虫を使っていた為に一時期魚の食いつきが悪くなり、何が悪いのかと友人達と話し合い、食いつかないならこれだ!と、友人の家の畑からミミズを摂取して生き餌にし、季節に応じて色々な餌を使ったりした。

 また当時小学生の少ない小遣いを頑張って貯めから初めてルアーを購入。毛虫みたいな物が釣れるのか?と思っていたが、何故かその日から川魚の食いつきが良くなり、皆に勧めてみた。

 連日使っていた為か徐々に魚の食いつきが悪くなって、また試行錯誤を繰り返し。

 それからやがて釣り竿から仕掛け等に興味を持ち、竹細工やその辺りに落ちている木(川の対岸が森林なので、よく折れた木等が川には落ちている)を使って仕掛けを作ってみたりしたな。


 …おっと。

 閑話休題。



 未だに男の一人暮らしの我が家で、寝間着代わりにしている甚平のままで朝食作り。

 着替えるのはあとです。ああでも、寝癖が付いている髪の毛は軽くブラッシングをして終了。うん、鏡に映る俺、平凡。



「暑くなって来たなぁ」


 味噌汁の具はワカメと豆腐、それとネギ。

 ん~…今朝のおかずを考える。


「面倒くさい、全部入れるか」


 味噌汁に大根と人参を追加。更には豚肉も細切れにして突っ込む。

 これに御飯と納豆。

 手頃だけど手抜き朝食の一丁上がりだ。


「いただきます」


 両手で軽く拝んで何時もの一言。


「うむ、手抜きだけど美味い」


 でも栄養価が少ない気がするから、先日購入しておいた黒胡麻を御飯の上に投入。

 我ながら適当。


 テレビを付けながら本日の日本中のニュースを眺める。

 時刻は7時過ぎ。

 おっと、と慌てて一階の居間の窓を開ける。


「お、今朝も可愛いねぇ~店長ちゃん。おはようさん」

「お早う御座います、不破さん」


 この時間帯になると毎朝、ここの窓から見える喫茶店のイケメンの店主さんが箒を片手に掃除をし始める。年の頃は30代半ばかな?前髪を後ろに撫で付けている髪型は中々どうしてキマっている。

 渋い。格好良い。

 身長も中々の高身長だし、何より喫茶店で働いているのに確りと整った体格をしている。普通喫茶店とかだと細くてひょろっとした体格の人が多いのに…あ、偏見。ごめん、喫茶店で勤務している人。

 それにしてもこの喫茶店の店主は確りと鍛えているようで、背筋も良い。

 誰がどう見てもイケメンだと思うだろう。


 はぁ、癒やしだ…。

 喫茶店の店主と言うだけあってキッチリとアイロンがけされた服装に後ろに撫で付けた髪型。

 黒いワイシャツに黒いズボン、そして喫茶店の名前がプリントされているエプロン。時々白いワイシャツの時や面倒だったのかTシャツの時もあるが、その衣装も似合っている。

 何と言うか、年齢プラス経験値の差か。何をしても堂々としていて渋い。

 イケオジだわ~!と、ご近所のオバサマ方やΩの可愛い子達が騒いで居るの、とてもわかる。

 神か。神々しい。


 そう、俺はあの喫茶店の店主である不破さんがちょっといいな、等と思っていた。

 無論思っているだけだ。

 お隣に並び立てる程、俺は魅力が無いからな。それだけ平凡な顔なのだよ、妥協点は大きな二重の目ぐらいだ。女子か。叶わぬ願いだが、どうせならイケメンに成りたかった。


 この場所で店を出してから毎朝イソイソとこの時刻になると窓を開け、換気。そのついでと言った形で挨拶を交わすぐらいには気に入っていた。因みに冬場は挨拶が終わったら換気終了とばかりにさっさと窓を閉めてしまうぐらいには。


 だってさ、あの人既に運命の番持ちだし。


「不破~寝坊した!ごめん、おはよう!あ、小林さんオハヨー!」

「末明さんおはよう」


 寝坊したらしい不破さんの運命の番さん登場。

 数秒であっという間に不破さんの視線を独占し、朝から熱気を繰り広げている。



 やべ~…朝からラブラブって言うか、熱気がすげー…。



 自転車で通勤する人やら徒歩で移動している人々の視線を独占しているよ、あの美男美人さんカップルな二人組。


 特になにかしている訳でもないのに、いや、清掃はしているけど。

 何だか漂う空気が違うのだ。

 熱々カップルの幸せオーラって言うやつかな。

 30代の不破さんαと10代の末明さんΩ。

 イケオジと美少年。

 年の差カップル。

 何だろう、この色々なモノを捩じ込んだような羨ましいカップルは。


 朝から眼福である。


 思わず居間のカーテンを引いて視界から閉ざし、合掌。

 なむなむ。

 毎朝良いもの見させて頂いております。神様有難う。


「お~い、まだ?」


 拝んでいたら外から声が。

 田舎で毎朝学校へ行く時に迎えに来ていた同級生達を思い出してしまうが、声を掛けて居る人物は勿論同級生では無い。勿論今住んでいる場所も産まれ育った田舎では無い、都会だ。


 部屋に置いてある時計を確認。

 時刻は8時30分。


「開店は9時です」

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