3.新たな厄介ごと 3話

≪前回までのあらすじ≫

BLITZが引き受けた新たな依頼は、人探しと身柄の保護。

だが、その対象者の所属する組織は

最近問題となっているドラッグと関係がある様子。

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 「あーあー、結局今回も面倒なことになりそうじゃん」


 「今更だな。いつものことだろう、面倒な状況になるのは」


 久しぶりにストランドにて思う存分腹を満たした二人は店を後にし、先ほどフレイから聞いた情報の真偽を確かめに数ブロック先にある歓楽街へ足を進めていた。

 この辺りは普段ならそこらに人がいてもおかしくないのだが、今日はほとんど人気がない。

 

 これも例のドラッグの影響なのだろうか。

 強力な薬は使用し始めると相当強い意志を持っていても止めることは困難だ。

 大抵の者の末路は大抵決まっている。

 そういう連中は基本的に売人の側を離れられない。

 すぐに薬を手に入れることができるように、だんだんと廃棄区画の中でも特に危険な地域へと潜むようになるのである。


 「フレイの話は本当の様だな。来るぞ」


 「んん?」


 一本道、正面の曲がり角からゆらゆらと二人の男がカイルとリュウガの前に現れた。


 「よ、よう、兄ちゃん。ぁ………さぁ…俺、おれ、ら……ちょっとか、金が必要、でさ、か、貸してくんない?ぃ、い、か、かね金かねかぁ」


 現れたその男、明らかに普通の状態では無い。

 呂律が回っておらず、目の焦点が合っていない。

 肌は剥がれ落ちるように傷んでおり、薄汚れた安物のジャケットにはべったりとまだ新しい血の様な汚れが染みついている。


 「悪いね。俺らもちょっと前まではお金持ちだったんだけど今はもうすっからかんでさ」


 「そういうわけだ。他をあたりな」

 

 ひとまずは、穏便な対応で男達をやり過ごそうとしたカイル達であるが、話しかけてきた男とは別の巨漢が突然口角を飛ばして叫び始めた。


 「い、いるんだよぉ、かね、が。化け物から逃げるのにジャジャ、ジャ、、ジャンパーが。よこせっ、金、がねよこせぇっ!早くはやく、死んじゃうだろぉおお」


 何かに追われている幻覚でも見ているようだ。

 こういった麻薬中毒者の恐ろしいところは何をするかわからないところにある。

 言葉も常識も一切通用しない。

 実力差も自らへのダメージもまったく気にせず、襲い掛かってくる様は非常に危険で厄介だ。


 「!?」


 まさに刹那の出来事だった。


 おそらくカイルでなければ首を刺されていたであろう。

 血に濡れたジャケットの男が出鱈目だが常人離れした動きでカイルに肉薄し、

手にしたナイフをカイルの首筋目掛け一直線に突き出していたのだ。

 一瞬で反応して回避したカイルの反射神経は化物じみている。


「リュウガ!!こいつら見た目に反してデキる!気を付け......」


質量のあるものが砕かれた鈍い破壊音にカイルの言葉はかき消された。


「あぁ、身に沁みて実感してるぜ」


 すでにリュウガはもう一人の男と交戦を開始していた。

 こちらの巨漢はメリケンサックをつけた拳をハンマーのように振り回している。


 「お前が取ったんだろ!!返せよ、オレ、俺の、おれのぉおうぇいえjffだろぉお!


 リュウガは眼前の敵に対する対処方法に頭を悩ませていた。


 石材で構築された壁や路面を軽々損壊させるその拳の威力もそうであるが、それよりも驚くべきはリュウガの拳激を急所に何発も受けてもひるむことも、倒れることなく向かってきているということ。

 殺さないよう調整しているとはいえ、かなりの力で撃ち込んでいる。

 しかも表面的な打撃ダメージではなく、内臓や脳に衝撃が伝わるようにだ。


 「・・・どうなってやがる?普通多少なりとも怯むもんだが」


 観察している限り、カイルのように物理障壁を展開している分けでも何かしらの回復術式を行使している分けでもなさそうだ。

 何故なら、先ほど強めに殴ったときに砕いた顎の骨が治っていない。

 薬により痛みを感じていなくても脳震盪をおこし立ち上がることなど出来ないはず。

 それでもびくともしないこいつは一体………。


 一方のカイルは、巧みにを攻撃を受け流しながら相手の力を分析していた。

 再びナイフを持った男がカイルに接近する。


 「あは、あはははぁ………悪るいな、兄ちゃん。し、死ぬかもしれんけど。だい、大丈夫だぁ。ちょっと痛いだけだから」


 「意外過ぎて一瞬驚いたけど。まぁ、動きに無駄が多いよね」


 ナイフと言えば、先日戦ったダンテの事を思い出す。

 ソレと比べればなんてことは無い。

 体重を乗せて突き出されたナイフをファルシオンの刀身で斜め下へ払う様にいなし、刃の軌道を反らすとともに相手の姿勢を崩す。

 前につんのめる形で隙をさらした男の後頭部にカイルはすかさずファルシオンの柄で打撃を叩き込んだ。


 男の手から落ちたナイフが甲高い金属音を奏でる。

 少し遅れて男も前のめりに倒れ込む.....と思いきや身を翻し丸腰で再びカイルへと向かってきた。


 「クソッ、こいつ痛みを感じてないのか!!」


 男の顎にカイルの鋭い蹴りが突き刺さる。

 仰向けに地面に倒れ込んだ男は今度こそ気を失ったようである。


 「ふぅ………とりあえずこっちはなんとか。そっちは!?」


 ゴキャッ、ズウゥゥン!!

 振り返ったカイルの目の前を嫌な音を立てながら空中を舞う巨漢の姿が横切った。

 宙を泳ぐ巨体はそのままレンガ造りの塀に大きな音と共に叩きつけられた。


 「カぇセ、おえを、がネ・・・・」


 リュウガに投げ飛ばされた男は、半壊したレンガ塀の瓦礫の上でまだ起き上がろうともがいているが、四肢の関節を外されている様で立ち上がることができない。


 「寝てろ。手間かけさせやがって」


 ダメ押しの蹴りを頭部に叩き込まれようやく巨漢は大人しくなった。


 ………コイツは手加減という言葉を知らないのだろうか?

 一部始終を観戦していたカイルは少し相手に同情してしまった。


 「さぁてと、それじゃあちょっと失礼しますかねぇ」


 カイルが気絶した男達の懐を探り始める。

 リュウガは軽く伸びをしながらその様子を眺めている。


 「お、これかな」


 血まみれのジャケットの裏のポケットから引っ張り出された丸められた薄汚れた紙屑。

 その中には真っ赤な錠剤がいくつか包まれていた。


 「それが例の薬か。こんな気色悪い色の薬全く飲む気にならねえ。おい、カイル?どうした?」


 リュウガの言葉にカイルがハッと我にかえる。どうやら赤い錠剤を見つめながら何か考え込んでいたようだ。


 「あぁ、ごめん。なんでもない」


 ニコッ、と満面の笑顔を作るカイルを怪しいものをみるかのような目でリュウガは見た。


 「それにしてもこいつらその辺の三下って感じなのに異様に強くなかった」


 「あぁ、このレベルなら頭張っててもおかしくないくらいだ。だが・・・」


 「ちょっと変だったよね」


 珍しくカイルが真面目な表情を浮かべる。


 「ああ、動きに技術がつり合ってない。というか、身体のコントロールが効いていないような感じだった」


 「俺の戦った相手も自分の動きについていけてないような感じだったんだよねぇ。例えが難しいんだけど、すっごいエンジンの車を買ったけど運転の腕がついていかなくて上手く扱えないみたいな?これもコイツの影響なのかな?」


 「俺らが襲われる直前にこいつは「ジャンパー」がどうだって叫んでやがったよな。・・・そっから察するにコイツは」


 「使用者の能力を飛躍的に上昇させる効果がある、ってことなのかな」


 長い沈黙が流れる。


 普段なら「名前のまんまかよ。センスのねえ冗談だ。ありえねー。」などと二人とも軽く流してしまいそうな考えだが、今目の前で起こったことから考えるとそうとしか考えられない。


 「まさに命がけのドーピングってとこか。しかし、ここいらじゃ人気が出るのもわからなくもない。こりゃ想像以上に厄介な事態に巻き込まれたかもしれねえな」


 「うん、そうかもね。これはまだまだ下調べが必要かな。まぁ、詳しい相談は後にして早く帰ろう。あんまり遅くなるとまたサクラに怒られるし」


 「そいつはごめんだ。今日はここまでにするか」


 回収したジャンパーをポケットにねじ込んで二人はブリッツへの帰路を急いだ。


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~登場人物紹介~

・カイル・ブルーフォード:「なんでも屋 BLITZ」を営む。怖いものは怒った妹。             

・リュウガ・ナギリ(百鬼 龍牙):「なんでも屋 BLITZ」のメンバー。

苦手なものは悪意の無い女子供と生胡瓜。

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