15.暗躍

 ≪前回のあらすじ≫


血に狂う鬼を切り伏せたリュウガ。

舞い降りるもう一人の吸血鬼。

迎え撃つカイル。

ついに長い夜が明けた。


=====================================================


 ストランド同様、廃棄地区と上層地区の狭間にある、歓楽街の暗がり。

 積み上げられたゴミの影でソレはうごめいていた。


 赤黒い肉の上にかろうじて薄皮1枚張っているか怪しい、歪でアンバランス体躯。

 さきほどから無心で何かをむさぼっている。

 ソレは先刻リュウガに半身を断ち切られた吸血鬼だった。


 食らっているのは、先刻まで客を探して近くの通りに立っていた娼婦。

 好みの味とはほど遠い獲物だが、血を、命を食らう度、少しずつ失った肉体が再生してゆく。


 まだ足りない・・・・。

 まともに動けるようになるまでおそらく後2、3人の血が必用であろう。


 さっそく次の獲物が目の前の通りを横切った。

 金髪に、ミニのホットパンツ、上半身はビキニにショートスタイルのジャケットを羽織って非常に露出度の多い服装をしている。


 鋭い爪を壁面の突起にひっかけずるずると屋根まで這い上がり屋根伝いに獲物の後をつける。

 万全の状態であれば一跳躍で屋根まで駆けあがるところであるが、それには下半身の再生が不十分だ。


 1ブロック程進んだ獲物が曲がり角に差し掛かった。

 屋根から背後に降り立ち、一気に首筋に牙を突き立てる。


 何かがおかしい。


 牙に違和感を感じ口を得物の首筋から離したその時、女の首が180度回転した。


 「!?人形.....」


 危険を感じ娼婦の形をした人形を突き飛ばすが、遅かった。

 胴から飛び出した肋骨のような鉄の鋏が吸血鬼の身体に深々と食い込み、バラバラに外れた四肢から射出された無数のワイヤーが全身を絡めとり、地面に縫い付けた。


 「無駄だ」


 訳の分からないまま拘束を解こうともがく吸血鬼に、ふいに声をかける者があった。

 声の主、その姿を見た吸血鬼の顔が恐怖に歪む。


 「カッ・・カルラ・・・・・・様」


 カルラと呼ばれたその人物。

 鎧と革のコートが一体となったような装備で身を包み、銀に輝く奇妙な形をした大槌を肩に担いでいる。

 大槌の形状はリボルバーの様な形状をしており、銃であれば弾丸を装填するであろう部位には、幾本もの金属製の杭が装填されている。

 やや傷んだ長い髪を後ろで1つ縛りで束ねた暗灰色の瞳をした整った凛々しい顔立ち。

 だが、何より目を引くのは顔半分にも渡る大きな爪痕のような傷跡。


 「しかし、こうも簡単に釣れるとは。アーテの人形遊びも馬鹿には出来ないな」


 未だ拘束が解けず、地べたでもがく吸血鬼を冷たく見下ろしながら、カルラは詰問を始めた。


 「おい、化け物。私がお前に与えた命令はなんだ?.....そう、ミシュラン家の信用失墜だ。そのために、当主になり替わったところまでは誉めてやろう。木っ端貴族の娘を1人食い殺した事も市街地近辺で大立ち回りを演じたことも目をつぶろう。だが、誰が新たな吸血鬼を生み出せと命令した?」


 「お、お許しを・・・それは、任務の遂行に必用で・・・・・」


 「黙れ。お前、私に恥をかかせたんだぞ?よりによってあの方からの任務で。お前はこの場で廃棄処分とする」


 「この、ふざけ・・・・。舐めるな!人間風情がぁああああ」


 恐怖と怒りに任せ、ブチブチと肉の千切れる音とともに人形の拘束を引きちぎった吸血鬼が目の前の敵に飛び掛かる。


 「愚か者」


 カルラはろくに吸血鬼に目もくれずつまらなそうに大槌を一振り。

 そのまま吸血鬼を壁に叩きつけ、柄にあるトリガーを引く。


 ガオンッ!!!


 短い炸裂音と共に槌の打撃面に仕込まれていた杭が、吸血鬼の肉体を昆虫の標本のように壁に縫い付けた。

 杭は銀製なのだろうか、杭の接している部分の肉がブスブスと黒い煙を吐き出している。


 「・・・・・・・・ヵぁ・は・ぁっ・・・」


 「その人間風情に敵わず、検体にまで身を落としたお前は何だ?.....ガルー、後は任せる」


 ガルーと呼ばれた、カルラの背後に控えていたフードを目深に被った長身の男。

 立ち去ろうとするカルラに静かに頷く仕草を返すと、苦しみもがく吸血鬼の頭をまるで朝食のパンを千切るかのように軽々と胴体からもぎ取り、食らい始めた。


=====================================================

~登場人物紹介~


・カルラ(new):銀の大槌を携えた女性。詳細は不明。


・ガルー(new):カルラの部下の様だ。詳細は不明。


・吸血鬼:半身を欠損し回復に努めていた。

     カルラ達から検体として扱われていた様だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る