2.何でも屋

 「はぁあぁぁぁぁっ、暇だな・・・。」


 わざとらしいため息と共に、乱雑に物が置かれたカウンターへ突っ伏しながら青年は呟いた。


 彼の名前は「カイル・ブルーフォード」金髪碧眼で一見すると線の細い美青年に見えるが、そのどうにも気だるそうな雰囲気と軽薄そうな態度がすべてを台無しにしている。


 ここは、大国アルフェニアの中央に隣接する街モスグルンの片隅の廃棄区画、いわゆるスラム街に近い地域に立つ店、何でも屋「BLITZブリッツ」である。


 外観こそ年季が入って小さくこじんまりとした店だが中に入るとそれなりに広く落ち着いた印象を受ける空間が広がっている。


 しかし、現在は部屋のいたるところに乱雑におかれたよくわからないさまざまなものがその雰囲気をぶち壊していた。


 「おかしいよなー。俺らは「何でも屋」だぜ?一見さんお断り無しで、庭の掃除から魔獣の討伐まで何でも便利に手軽に依頼できて時代のニーズにあってると思うんだけどなぁ。」


 「・・・・。」


 「どうしてこんなにも客が来ないんだろうか、ねぇ?」


 「・・・・・・・・。」


 「もういっそのことさぁ、転職でもしちゃう?前から俺にはもっと隠された未知なる可能性という名の才能が眠ってると思ってたんだよねぇ。」


 「・・・黙ってろ。」


 来客用ソファーに寝ころんだまま、ずっとだんまりを決め込んでいた大柄の男がようやく口を開いた。

 しかし、その様子はカイルと会話をしようというよりも心底彼のことをウザイと思っているような口ぶりである。


 「じゃあさ、もっと宣伝しよう!今はすべからくメディアの支配する時代だよ!!リューガもそう思うでしょ?新聞に広告のせるとかさぁ。」


 黒髪黒目で服の上からでもわかる鍛え抜かれた肉体を黒の衣装に包み、カイルとは対照的な鋭い雰囲気を纏った青年「百鬼ナギリ 龍牙リュウガ」は大きなため息をついた。


 「お前、この前の依頼で自分が何したのか覚えてないのか?」


 「あぁ、あの「盗賊討伐」の依頼ね。あれなら無事に解決したじゃないの。それがどうかした?」


 「そこで盗品をチョロまかそうとしようとしたのは誰だ?」


 「・・・・・・・・・・さぁ。」


 「その前の「要人の護衛依頼」の時、護衛対象を口説こうとしたのは誰だ?」


 「えーっと、誰だったっけなぁ。」


 「・・・ならさらにその前「異常発生した魔獣討伐」時、討伐対象外の殺傷が禁じられている貴重種の魔物まで見境なく狩ってペナルティを課されたのは誰のせいだ?」


 「んー、そういえばこの前さ・・・・。」


 「都合よく記憶喪失になってる様だから教えてやるが、全部お前だ!!」


 心底うんざりしたとばかりの2度目の深いため息の後、店内に怒声が響き渡る。


 「毎回毎回そんなことばっかりしてりゃぁ依頼がこなくなるに決まってんだろうが!!お前は学習ってもんをしねーのか!!!」


 「まぁまぁ、リューちゃんそう興奮して詰め寄ってこないでよ。ほら、これあげるから。」


 「誰がリューちゃんだ!そんな食いかけいるか!!舐めんじゃねー!!!」


 怒声と共に放たれる拳の嵐をスイスイと躱しながらカイルは楽しそうに言い放つ。


 「そういうリューガもこの前依頼主をボッコボコにしてなかったっけ?」


 「あれは俺を囮にして利用しようとしてやがったからだ。むこうの契約違反だ。お前の奇行と一緒にするんじゃねぇよ。」


 「あーあぁ、そんなことばっかりしてるから依頼が減るんだよ。反省してるの?」


 自分の所業を棚に上げ、飄々と言い放つカイルに対し、「ブチッ」と限界に達した何か切れる音が聞こえたような気がした。


 「上等だ、本気で喧嘩売ってんなら買ってやる・・・。」


 いよいよリュウガが臨戦態勢に入ろうとしたその時。


 「こらっ!二人とも何してるんですか!?」


 店の入り口から凛とした声が店内を駆け回る二人を一喝した。


 そこには先ほどの大声を発したとは信じられない小柄な少女が、店内の惨状に肩を震わせながら仁王立ちしていた。


 カイルと同様同じ金髪碧眼で髪を大きなリボンで縛りポニーテールにしている、どことなくだらしない雰囲気の兄とは違いテキパキしていそうな印象を受ける。


 「あ・・あぁ、サクラ!おかえりー。どこ行ってきたの?」


 「えぇ、帰ってきましたとも。私はどこかの甲斐性なしのお二人のために朝早くから次のお仕事を探すついでに遠くの安いお店にまで買い物に行っていたんです。兄さん、リュウガさん。どうして私はこんなに食費を抑える努力をしているか分かっていますか?それにお店だって昨日の夜、私が綺麗に掃除をしておいたはずなんですけど、なんで今はこんなに散らかっているんでしょう?お二人はそんなことについて考えたことがあります?それから・・・・・・・。」


 笑顔のまま日頃の鬱憤を吐き出すかの様に大の男二人を問い詰め始めるサクラ。

 目がまったく笑っていない。


 「い、いやぁ、これはね、サクラ。リューガが全部悪いんだよ。なんかおやつが不味いって突然キレはじめちゃってさ。」


 「ふざけんな!適当なことばかり言いやがって。」


 再び小競り合いを始めた二人に対し、サクラの悲痛な叫びが空しく響き渡る。


 「もー!!!!だから、外でやってくださいってば!!お店を破壊しないで!!!」


 「ダメっ!!兄さん!!そのフライパンは買い換えたばかりの!!!あーーーー!!!!!また穴が空いちゃったじゃないですかぁぁぁああああ!!!!」


 今日も何でも屋「BLITZブリッツ」は平和である。

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