100話 サテラ
私が赤ちゃんをベッドに戻している間にも、村の方から悲鳴が何度も上がっています。
どうやら、村の近くまでミドル・ボア来てしまったようですね。
「いい子で待っていてね」
私はそう言い残して、家を飛び出しました。
「に、逃げろ! こっちだ!」
「急げっ! 早くしろっ!!」
ミドル・ボアは体高2メートルを超える大きな猪型の魔獣です。
その突進力はかなりのもので、普通の人間ではまず勝てません。
「「うおおおっ……!」」
村の男衆が数人、必死の形相で鍬や鋤を構えています。
しかし、彼らの武器ではイノシシの分厚い皮膚を貫くのは難しいでしょう。
「おお、サテラ! 無事だったか!」
「うん、お父さん。……大丈夫? 怪我は……」
「ああ。俺たちは大丈夫だ。それより、お前は早く避難するんだ」
「何を言っているの。この村はもうすぐ、あいつに襲われるんだよ? そんな時に、私だけ逃げ出すわけにはいかないわ」
「そんな……! バカなことを言うんじゃない! ここはもうダメだ! さあ、早く逃げるんだ!!」
お父さんがそんなことを言っている間に、ミドル・ボアは村へ入ってきています。
「これ以上村に入れるな!」
「我らの誇りにかけて、食い止めるのだぁあああっ!!!」
「ぬおおおおっ!! てえいっ!!」
「ブモオオオオッ!!」
「「「ぐああああっ!!!」」」
しかし、彼らは勇敢な抵抗も虚しく、あっさりと蹴散らされていきます。
このままだと、あと数分後にはこちらにも来てしまうでしょう。
そうなれば、家や赤ちゃんだって無事では済みません。
お父さんが言うように、逃げるのも一手。
でも、ここは――
「それじゃ、ちょっと行ってくる」
「えっ?」
私はお父さんの言葉を背にして歩き出します。
もちろん、ミドル・ボアの方に。
「な、何をしているんだ! 待ちなさい、サテラッ!!」
「大丈夫よ、お父さん。ちゃんと倒してくるから」
そう言って、私は走り出しました。
私が生まれ育った村。
愛着のあるこの場所。
絶対に失いたくありません。
「はぁあああっ!」
私は気合と共に拳を握りしめます。
すると、私の魔力に呼応し、右腕の部分が変質しました。
それは、赤く輝く竜の腕へと変わります。
「ライル様にいただいたこの力……、使わせていただきます!!」
私は大きく拳を振りかぶると――
「はあっ!!」
ミドル・ボアに目掛けて叩きつけました。
「ブモモッ!?」
一撃を受けたミドル・ボアは、そのまま勢いよく吹き飛びます。
やはり、ライル様のおかげで私も十分に戦えますね。
ミドル・ボアにトドメを刺すことにしましょう。
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