87話 【ブリケード王国にて】ロゼリアの帰還

 さらに1年と少しが経過し、ライルがストレアの町で活躍を見せている頃。

 ブリケード王国王城にて――


「王城に帰ってくるのも久しぶりね……」


 女性が懐かしむように呟く。

 彼女の名前はロゼリア。

 ライルの護衛隊隊長である。


「陛下から別命を受けたときはどうしてと思ったけれど……。終わってみれば、いい経験になったわ。今後の若様の護衛に活かせるでしょう」


 彼女はライル専属の騎士だ。

 しかし、ライルの父親でありブリケード王国国王でもあるバリオスから、辺境の魔物退治を命じられていたのだ。

 一時的とはいえライルの護衛の任務を放棄するのは不本意だったが、命令には逆らえない。

 だが、結果として彼女にとって、非常に価値のある時間を過ごすことができた。


「……あれ? ここにもいない。若様はいったいどこへ……?」


 ライルが幼少の頃より護衛を務めてきたロゼリアは、当然彼がよく居る場所を把握している。

 だからこそ、城内にいるはずの彼の姿がないことに疑問を抱く。

 そこへちょうど、ライルの弟であるガルド第二王子が現れた。


「ん? そこにいるのは、ライルの護衛の女か?」


「ガルド殿下。ご無沙汰しております。えっと、実は――」


「おっと、言わなくても分かっている。ライルのことだろ?」


「はっ! その通りでございます」


 ロゼリアは頭を下げて返答しつつも、違和感を覚えた。


(若様のことを、”ライル”と呼び捨てにされた? ガルド様は、若様のことを”兄貴”と呼んで慕われておられたはず)


 単純に呼び方を変えただけかと考えるが、すぐに違うと思い直す。

 なぜなら、ガルドがライルの名を呼ぶ際に、隠しきれない負の感情が混ざっていたからだ。


(私が離れている間に、何かあったのでしょうか?)


 ロゼリアは、ついさっき王都へと戻ってきたばかり。

 その間の出来事を知らない。


「あいつは王族を追放されたぞ」


「……は?」


 一瞬、ガルドが何と言ったのか理解できなかった。


「だから、ライルは王族としての地位を剥奪されたんだよ」


「な、何を仰っているのですか!? 冗談にしても悪質です!」


 思わず声を荒げてしまう。

 王族に対して失礼な態度であることは分かっていたが、あまりにも突拍子のない発言だった。


「冗談じゃねぇよ。あいつがスキルを誤魔化している疑惑が以前からあったのは知ってるだろ? 今年でもう3年だ。誤魔化しているにせよ、うまく扱えていないだけにせよ、もうこれ以上放置するわけにはいかなくなったんだ。親父――国王陛下の判断だよ」


 ガルドがそう説明する。

 ライルの追撃を行った彼が覚醒したライルに返り討ちにあったことは、敢えて口にしなかった。


「そ、そんな馬鹿な……」


「まっ、この話は俺からの伝言ってことで。よろしく頼むぜ」


 そう言い残して去っていくガルドを呆然と見送ることしかできないロゼリア。

 彼女は、自分の足元が崩れるような感覚を覚えていたのだった。

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