67話 前っ! 前ぇええええええ!!
俺たちはストレアの街へ向かう。
もちろん、徒歩ではない。
「うひゃあああああ!! また空飛んでますぅ!」
俺の背中でアイシャが叫んでいる
彼女は今、竜化した俺の背中に乗っている状態だ。
行きの道も同じように叫んでいたな。
「静かにしてろ。舌を噛むぞ」
「そ、そんなこと言ったって、これは無理ですよぉ! ひいいいぃっ!!」
「だから静かにしろって」
「だって、こんな高いところから落ちたら死んじゃいますからねっ!? 絶対に落としたりしないでくださいよっ!」
「大丈夫だ。俺がそんなヘマをするか。それに、万が一にも落ちたとしても、俺がちゃんと助けてやるさ」
そう言いながら、さらにスピードを上げて飛ぶ。
「あああああっ!!」
アイシャが絶叫を上げた。
「本当にうるさい奴だな……。他の2人を見習えよ。リリアは当然として、キーネも静かなもんだろうが……」
そう言って後ろを振り向く。
「…………」
キーネは無言だ。
そして無表情である。
というか、これは……。
「気絶してんじゃねえか」
キーネは白目を剥いて泡を吹き出してしまっていた。
「はぁ……、まったく情けないなぁ」
俺は溜め息を吐く。
「そう言ってやるな。人族にとって、この高さと速さで空を飛ぶのは慣れないものなのじゃろう?」
俺の背中に乗っているリリアがそう言う。
彼女も竜になれるのだが、アイシャとキーネの面倒を見るために人化状態のまま俺の背中に乗っているのだ。
この様子だと正解だったようだ。
「まぁ、それもそうだな。苦労をかける。リリア」
「お前さんのためなら、これぐらいは何でもないわい」
俺はリリアとそんな会話をしながら、高速で飛行を続ける。
「ひゃああああっ! 前っ! 前ぇええええええ!!!!」
「前?」
アイシャの叫び声に振り返ると、前方に小高い山があった。
本来は避けるべきだったが、リリアとの会話で余所見をしていた俺は反応し切れなかった。
ドゴオオン!!!
竜化状態の俺の体が山脈に激突する。
そして、そのまま突っ切っていき、山脈の向こう側へと抜ける。
「ふう……。うっかりしていたな」
「ちゃんと前を見ておくのじゃ。服が汚れたではないか」
リリアが少し拗ねたような口調で言う。
「悪い。次からは気を付ける」
土埃により服が汚れたのはちょっとした損害だな。
俺が余所見していたせいだ。
まあ、俺自身や乗っている者たちには、ケガ1つないのだが。
S級スキル竜化の恩恵の1つに、結界魔法のようなものがあるのだ。
これのおかげで、飛行中に物体や生物と衝突しても、ダメージを負わない。
ただし、土埃程度では効果がないのが玉に瑕だが。
「あばばばばば……」
「…………」
アイシャは言葉にならない言葉を漏らしながら、キーネは相変わらず気絶したままだ。
「仕方ねえな……」
2人の様子を感じ取って、苦笑する。
このまま飛び続けるのは彼女たちにとって負担かもしれない。
俺は少しだけ速度を落とすことにして、引き続きストレアの街に向かって飛び続けたのだった。
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