63話 公開処刑

 村人たちの賛同のもと、1人の盗賊を公開処刑しようとしているところだ。

 俺の火魔法なら、苦しみを与えずに一瞬で灰にすることも可能である。


 しかし、この公開処刑は村人たちの怨嗟を取り除くことが目的だ。

 なるべく苦しみを与え、なるべく見栄えがいい処刑方法をとるべきだろう。

 ここは……。


「【ヘルズ・ファイア】」


 俺は右手を盗賊の男に向けて唱えた。

 男の全身に黒い炎のようなものが出現し、一瞬にして燃え上がった。


「ぎゃあああっ!! 熱いッ!?」


 男は悲鳴を上げる。


「今、お前には地獄の苦しみを与えている。このままだと、確実に死ぬだろう。だが、慈悲深い俺はお前に最後のチャンスを与えてやることにした」


「あ、ああああ! 熱いッ!! チャ、チャンスだって!?」


「そうだ。今一度、村人に懺悔してみろ。改心したと印象付けられれば、炎を消してやらんこともない」


「…………っ! お、俺は二度と人を殺さないっ! い、いや、罪を一生をかけて償う! だから、だから許してくれえええぇっ! ああああぁっ! 熱いいいぃ……っ!!!」


 男がそう絶叫する。

 全身に燃え広がった炎により、地獄の苦しみを感じていることだろう。

 適切に火力を調整しているので、まだ死にはしないし、酸欠で意識を失うこともできない。


「では、村人諸君に改めて問う。この男を救うか否か?」


 俺は村人たちに再び問いかける。

 すると、今度はすぐに返答があった。


「殺せ!!」


「殺せっ!!」


「殺っちまええええええっ!!」


 再び怒号が巻き起こった。


「「「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」」」


「諸君らの気持ちは分かった! では、判決を言い渡す! 男よ……お前は有罪だ! このまま死刑とする!!」


 まあ、こうなることは分かりきっていたが。

 とんだ茶番だな。

 しかし、憎い盗賊団メンバーの生死を自らが決定したとなれば、村人たちの怨嗟の念は少しでも晴れることだろう。


「そ、そんなっ! あ、あああぁっ! 熱いっ、熱いっ!!! 助けてくれっ!! 嫌だっ!! 誰かっ!! 誰でもいいから、俺を助けろおおぉっ!!!」


 男は最期の力を振り絞って、そう叫ぶ。

 だが、この場に彼を助けたいと思う者など皆無である。

 自業自得だな。

 呪うなら、自らの生き方を呪うがいい。


「では、さらばだ!」


 こうして、男の命運は尽きた。


「「「「「わははははははははははははっ!」」」」」


「「「「「きゃーははははっ!」」」」」


 村人たちが楽しげに笑う。

 よしよし。

 彼らの心のケアとしての処刑は、一定程度の効果を得られたようだな。


 ミルカも満面の笑顔だ。

 リリアは興味なさげだが、アイシャは満足げな表情をしている。

 とりあえず、俺の出番はこれぐらいでいいだろう。


「それでは、以降の処刑は諸君らに譲ろう! 村長やミルカの言うことをよく聞いて、仲良く処刑するんだぞ!! 盗賊たちの食料なら、俺が道中で狩った魔物の肉を提供してやろう! 食料事情は心配せず、心ゆくまで時間をかけて苦しめ、殺していくがいい!」


 俺は最後にそう言って、みんなの前から去った。

 これで、村の人間による盗賊への復讐劇はひと段落だな。

 最後の仕上げは残っているが……。

 後は任せればいいだろう。


 俺には俺でやることがある。

 村人たちが盗賊団を処刑して楽しんでいる間に、俺はこっちの準備を進めていくことにしよう。

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