11話 とある山村へ

 俺とリリアは、さっそく人族の大陸にまでやってきた。

 シルバータイガーの生息域から少し離れた高山に着陸する。

 俺とリリアはそれぞれ竜から人に変化し、徒歩での移動を開始する。


「ギャオーッ」


「なるほど……。確かに、人族の生活圏から外れた高山なだけはある。それなりに強い魔物がいるな」


 俺は襲ってきた鳥型の魔物をワンパンで返り討ちにしながら、そう言う。


「ブルアアアアァ!」


「そうじゃの。お前さんが何気なくぶっ飛ばしたそやつでも、確か人族基準ではA級じゃったぞ。エリクサーの材料にはならんから、多少高ランクであっても使いみちはないがの。……ちなみにこいつもA級のはずじゃ」


 リリアが、襲ってきたイノシシ型の魔物をデコピンで返り討ちにしながら、そう言う。


「え? こいつらがA級? 竜化していない俺でも余裕で倒せるぞ?」


「お前さんは竜化した方が強いが、人族形態における力も強化されつつある。余との鍛錬の成果じゃの」


「そんなことが……。確かに、最近人族形態でもやたら力がみなぎるとは思っていたんだよ」


「人族基準で言えば、人族形態のお前さんでもS級はあるじゃろうな。竜化状態なら、計測不能じゃ。なにせ、竜王である余と同等の力を持つのじゃからな」


 竜王であるリリアは、竜族の中でも随一の力を持つ。

 竜化状態の俺は、そんな彼女と同等の力を持つらしい。


 俺とリリアはそんな会話をしつつ、足早に下山を開始した。



●●●



 下山を始めて数日が経過した。

 数日とはいえ、俺やリリアの身体能力をもってしての数日だ。

 実距離にすると、かなりの距離だろう。


「お、ようやく人里が見えたぞ。あれが目的地か?」


 俺は目の前に見える集落を指差し、そう言う。


「バカモノ。あれは、ただの山村じゃ。見たところ、人口は100人程度じゃ。こんな寂れた村に用はないぞ」


「そうか……。でも、久しぶりの人族だ。少し話していってもいいか?」


「ふむ。まあよかろう。目的には直接関係がないが、少しぐらい息抜きがないとお前さんの糸も切れるかもしれんからの」


 リリアの同意が得られた。

 俺はさっそく村に近づいていく。


 ちょうど1人の男性がこちらに気づいたようだ。

 俺は手を振ってあいさつをする。


「やあ。どうもどうも」


「あ、ああ。こんな山奥の村にどうしたのだ? 冒険者か? 旅人か?」


 男性がそう言う。

 着陸地点の高山からはずいぶんと下りたが、ここはまだまだ山奥である。

 普段は来訪者などほとんど来ないのだろう。


「そんなところだ。この村に特に用事はないが、せっかくなのであいさつだけでもしておこうかと思ってな」


「そ、そうだったのか。何もない村だが、水やちょっとした食べ物ぐらいであれば提供できる。ゆっくりしていくといい」


 俺にこの村に対してどうこうする意図がないことがわかり、男性は警戒度を引き下げたようだ。


「それじゃ、お言葉に甘えて水をいただこうかな。道中で狩った魔物がいるから、調理してもらえると助かる。もちろん、肉の一部は提供させてもらう」


「ほう。やはり冒険者だったか。肉をもらえるのであれば、調理ぐらいは喜んで引き受けよう」


 そんな感じで、俺たちは民家の居間に案内された。


「おおい! 来客だ。魔物の肉を少し分けてくださるそうだぞ! 代わりに、肉を調理して差し上げろ」


「あらあら。それはうれしいですねえ。ありがとうございます。調理なら、私に任せてくださいな」


 民家の奥から、1人の女性が現れた。

 年齢は30代くらいか。

 この2人は夫婦なのだろう。


「それで、その肉はどこにあるのです?」


「ああ、このアイテムバッグに入れてある。今取り出す」


 俺は先ほど狩ったイノシシ型の魔物をアイテムバッグから取り出す。


「なっ!? こいつは、ギガント・ボア! A級の魔物じゃねえか!」


「こ、これほどの魔物を一体どこで?」


 夫妻が驚いた表情でそう言う。


「ああ。この山を数日登ったところで狩ったんだ」


「この山を登ったところ……? まさか、雪原の霊峰か!?」


 男がそう問う。


「ふむ。確か、そんな名前じゃったか……」


 リリアがそう言う。

 彼女は竜王としていろいろな知識を持っているが、さすがに辺境の山の名前はうろ覚えのようだ。


 俺も、このあたりの地理には詳しくない。

 ブリケード王国の次期国王としてそれなりの教育は受けていたが、ここは辺境だ。

 山の名前を知らなくても仕方がないだろう。


「こ、これは久しぶりのごちそうだぜ! こいつの肉は栄養満点! あいつにも食べさせてやれば、元気になるかもしれん」


 男が上機嫌にそう言う。


「あいつとは?」


「私たちの娘です。長い間病床に伏せっています。何か栄養のあるものを食べさせたいと思っていました。ギガント・ボアの肉はとてもありがたいです。本当によろしいのですよね?」


 女がそう問う。


「もちろんだ。俺とリリアの分は、ほどほどでいい。残りは、お前たちと村人で好きに分けるがいいさ」


 ギガント・ボアとやらがA級だったのは予想外ではあるが、この程度の魔物であれば俺やリリアの敵ではない。

 エリクサーの材料にもならないし、特に拘るつもりはない。


「ふむ。余は空腹じゃ。馳走に期待しておるぞ」


 リリアは、目の前の食事にしか意識が向いていない。

 彼女も、ギガント・ボアの肉を出し渋ったり功を誇ったりはしないだろう。

 俺たちは、料理が出来上がるのをゆるりと待つことにした。

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