8話 特訓の成果

 俺が竜王リリアに拾われて、早くも1か月が経過した。

 最初の1週間は、俺の傷つき疲弊した体の回復に努めた。

 その次の1週間は、リリアの婿候補としてあちこち紹介されて回った。

 好意的な者(竜)も否定的な者(竜)もいたが、今は置いておこう。


 そして、残りの2週間で、俺は竜化スキルの鍛錬に励んだ。

 竜化スキルは、S級のスキルである。

 俺以外に持っている者は見たことも聞いたこともない。


 本来であれば、スキルを使いこなすために自分で探りながら鍛錬していくしかない。

 使いこなせるようになるまで、かなりの時間と労力を要していたことだろう。

 実際、俺は竜化スキルを得てからの3年間で、ほとんど使いこなせていなかった。

 竜化すら満足にできず、ただの巨大トカゲと間違われる有様だった。


 しかし、ルーシーの一件を通して竜化状態へ変化するコツを掴んだ。

 竜化スキルなど要らないからルーシーを返せ、と神に言いたいところではあるが、過ぎたことをいつまでも悔やんでも仕方ない。

 それに、リリアの話によればエリクサーという一筋の希望は残っている。

 その希望に向かって、俺はがんばっていくと決めた。


 竜化状態へ変化するコツを掴んだとはいっても、俺は竜の力を使って暴れ回るしか能がない。

 人族相手であればガルドのようなA級スキル持ちであろうと敵ではない。

 しかし、今後エリクサーの材料を集めるにあたって、ガルドとは比較にもならないような強大な魔物と戦うことになる可能性がある。

 竜化スキルをもっと使いこなせるようになるのは、必須事項だ。


 竜王であるリリアのアドバイスにより、俺の竜化スキルの取り扱いは格段に上達した。

 彼女は生来の竜なので、もちろん竜としての力の取り扱いには精通している。

 そして、彼女は【人化】スキルの持ち主でもある。

 本来の自身の種族から変化することに伴う違和感への適応方法などにも精通しているのである。


「よし。この2週間の仕上げじゃ。竜化してみせよ」


 リリアがそう言う。

 今の彼女は竜の形態だ。


「わかった。はあああぁ……!」


 俺は竜化スキルを使用するために、力をため始める。

 ゴゴゴ!

 ゴゴゴゴゴ!

 俺からあふれる闘気と魔力を受けて、周囲が揺れ始める。


「ふむ。悪くない。その調子じゃ!」


 リリアが満足気にそう言う。

 俺は最後の仕上げとばかりに、力をさらに開放する。


「ぬああ! ぬあああぁー!」


 ゴゴゴゴゴゴゴ!

 周囲にさらなる振動が伝わる。

 俺の周りに、砂ぼこりが巻き起こる。

 そして、その砂ぼこりが収まり始めた。


「すばらしい。見事な竜化じゃ。しかし、果たして力は使いこなせておるかの?」


「試してみるか? いくぞ!」


 俺はリリアに接近し、腕や尻尾による攻撃を繰り出す。

 もちろん、これはケンカではない。

 俺が力を使いこなせるようになったことを証明するための模擬試合のようなものである。


「ほほう。悪くないの。これはどうじゃ?」


 ビターン!

 リリアから強烈な尻尾攻撃が繰り出される。

 俺はそれをモロに受け、弾き飛ばされた。


「く……」


「うむ。耐久力もいい感じじゃの。人間なら即死しているし、並みの竜でもそこそこの痛みは感じる程度の攻撃じゃったはずじゃが」


 リリアがそう言う。

 確かに、今の一撃は重かった。

 人間状態の俺が受ければ、死は免れない。


「これぐらいなら、いくらでも耐えられるぜ!」


 竜化状態の俺にとってはそれほどでもない。

 弾き飛ばされはしたが、痛みはあまり感じない。


「では、次のテストじゃ。いくぞよ。はあぁ…………!」


 リリアが口に魔力を集中させていく。

 これはマズイ。

 こちらも対抗だ。

 俺は急いで口に魔力を集中させる。


「「ドラゴ・ブレス!!!」」


 ドガーン!

 ゴゴゴゴゴ!


 俺とリリアのブレスが正面からぶつかり合い、周囲に轟音が響く。

 この2周間の鍛錬で、俺のブレスは格段に安定性と威力が増した。

 しかし、リリアのブレスも同等以上の安定性と威力がある。

 俺たちのブレスは互いに威力を相殺し、消失した。

 煙が晴れて、リリアの顔が見えるようになった。


「すばらしい。見事に竜化スキルを使いこなしておるな。その凛々しい顔。惚れ直したぞ」


 リリアが顔を赤くしてそう言う。

 竜としての顔立ちの基準はよくわからないが、どうも彼女の反応を見る限りは俺は竜としてイケメンらしい。

 そういえば、挨拶回りをしているときにも時おり顔を赤くしている女性(竜)がいたな。

 俺もなんとなくではあるが、竜族の顔立ちの見分けがつきつつあるところだ。

 リリアの人族形態は美人だが、竜としての彼女も美竜である。


「ありがとう。リリアの的確な助言のおかげだ」


 俺はそう言う。

 本当に、彼女には何から何までお世話になりっぱなしだ。


「これなら、エリクサーの材料集めの旅に出てもよさそうじゃの。余も付いてはいくが、守りきれない局面もあるじゃろうからの。ライル本人にも強くなってもらわんとな」


「そうだな。ルーシーたちを生き返らせるためのエリクサーは、俺の目的だ。リリアに助けてもらうこともあるかもしれないが、基本的には俺自身の力で成し遂げたい」


「うむ。その心意気や良し。さっそくじゃが、第一の材料を集める旅に出ようかの」


「いよいよか! で、最初の材料は何なんだ?」


 とうとう、ルーシーたちを生き返らせるための俺の旅が始まる。

 リリアも付いてきてくれるそうなので、百人力だ。


「最初は……、”白銀の大牙”じゃ!」


 リリアが決め顔でそう言う。

 白銀の大牙か。

 名前は聞いたことがある。

 確か……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る