幼馴染の甘えと恩返し
「たっくうぅぅぅん。会いたかったよ」
旅行から帰ってきた夜、自室のベッドでのんびりとしていた隆史は家に来た麻里佳に抱きしめられた。
寂しいのは予想していたが、瞳に涙が溜まっているから想像以外に寂しかったらしい。
ちなみに姫乃は疲れたようで、自分の家に帰った。
旅行に行って初体験を済ませたのだし仕方ないだろう。
「たった数日じゃん」
「その数日でも寂しいの」
確かに今まで数日であっても会わなかったことがないため、寂しくても仕方ないかもしれない。
それほどまでに麻里佳は隆史を弟として溺愛しているのだろう。
出来ることなら弟離れしてほしいが、こればっかりはかなり難しいと断言出来る。
本人がずっと一緒にいると言っているのだから。
「今度は私と旅行行こ?」
「麻里佳と?」
「うん」
普段一緒にいるだけなら姫乃は怒らないだろうが、流石に旅行となると嫉妬するだろう。
なるべく嫉妬させたくないため、旅行は難しいかもしれない。
「二人きり?」
「うん。姉弟水入らずでしたいな」
麻里佳のことだから本当に姉弟水入らずで、と思っているだろう。
姉弟ではなく幼馴染みなのだが、呪縛のせいでそう思い込んでいるようだ。
「俺は姫乃と付き合い出したんだけど」
「おめでとう。でも、私たちは姉弟だから大丈夫だよ」
全くもって大丈夫ではないし、本当の姉弟というわけではない。
「もう俺は姫乃優先だからダメ」
「そんなぁ……」
本当の姉弟だったらまだしも麻里佳は幼馴染みなので、彼女と旅行に行くべきではないだろう。
少し前であれば間違いなく一緒に旅行に行っていたが、今は姫乃という最愛の彼女が出来たから他の人と行きたくない。
「そんな悲しい顔しないの。別に一緒にいれなくなるわけじゃないんだから」
少なくとも姫乃は麻里佳との絡みを許してくれている。
だから麻里佳が姉ぶることは出来るはずだ。
流石に過剰になったら駄目だろうが。
「なんか麻里佳が俺に甘えるの珍しいね。これからは俺がお兄ちゃんになるのかな?」
誕生日は麻里佳の方が早いとはいえ、そこまで離れているわけではない。
「それだけは駄目。私はたっくんのお姉ちゃんでいるの」
どうしても姉でいるだけは譲れないようだ。
「お姉ちゃんだって甘えたくなる時はあるの。たっくんといれなくて寂しかったんだから」
グリグリ、と胸板におでこを押し付けてくる。
少し前であれば本当に嬉しかったが、今となっては嬉しさは半減だ。
彼女が出来たのだから当たり前といえるだろう。
「普通の姉弟ってこんなにくっつくっけ?」
「他所は他所。うちはうちです」
何か物を欲しがっている子供に買わせない母親の言い訳みたいだな、と思ったのは言わないでおく。
「麻里佳には凄く感謝しているよ。お姉ちゃんが死んだショックで落ち込んでた時にずっと一緒にいてくれたから」
麻里佳自身も相当辛かっただろうが、一緒にいてくれたおかげで今の自分がある、と隆史は思っている。
もし、麻里佳がいなかったら最悪姉の後を追いかねなかったくらいのショックを受けたのだから。
本当に香菜と結婚したいと思ってたくらいに小学生の隆史はシスコンだったのだ。
「じゃあずっと私の弟でいてよ。それがたっくんの私への恩返しだよ」
「やっぱり俺は麻里佳に甘いね」
はあ〜、とため息をつきながらも、麻里佳のお願いを断ることが出来なかった。
本当に感謝しているからこそ、とうしても甘くなってしまうのだ。
「やっぱり今度姫乃に言うべきだよね。麻里佳がこうなったことについて」
多少の絡みだったら問題ないにしろ、ここまで過剰となると姫乃には何で麻里佳がこうも姉でいたがるのか説明しなければならない。
「私はいいけど、たっくんは平気なの? 香菜さんのこと思い出しちゃうでしょ?」
「流石にもう大丈夫だよ」
もう何年もたっているし、思い出しても問題はないだろう。
本当は全く動かなくなって冷たい身体になった香菜を思い出したくはないが、麻里佳のことを説明しないといけないから仕方ない。
「説明したら堂々と白雪さんの前でもたっくんのお姉ちゃんになれるわけだね」
「ほどほどにしないと駄目だよ」
本当に麻里佳に甘い隆史だった。
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