心に傷を負った者同士で慰め合っていたら白雪姫(学校一の美少女)とバカップル認定されていた件

しゆの

第心に傷を負った者同士

『ごめんね。たっくんのことは弟のように見てるから恋愛対象にはならないかな』


 高校に入学して二度目の春、高橋隆史たかはしたかしは同い年で姉のような存在の幼馴染みに勇気を出して告白をしてフラれた。


 放課後に校舎裏に呼び出して告白するも、幼稚園の時から一緒にいると友達というより家族扱いになってしまうらしい。


 フラれたショックで未だに学校から家に帰ることが出来ず、ゆっくりと階段を登りながら屋上に向かっていた。


「どう、するかな?」


 何で屋上に向かっているのか分からないし、向かったところで何かあるわけでもない。


 でも、何故か……何故か屋上に向かった方がいい、と本能が訴えかけていた。


 ガチャァ、と屋上のドアをゆっくりと開けると、フラレたばかりの者には眩しい日差しと春に相応しい暖かな風を感じた。


「あれは……泣いている、のか?」


 屋上には先客がおり、床に座り込んで泣いている女の子がいる。


 確か今年一緒のクラスになった白雪姫乃しらゆきひめのだったかな、と隆史は彼女について聞いたことを思い出す。


 学校一の美少女と言われている姫乃は美しくて可憐な少女だ。


 きちんと手入れされているであろう腰下まであるサラサラな白に近い銀色の髪、長いまつ毛に縁取られた藍色の瞳、シミ一つ見られない乳白色の肌は学校一の美少女と言われるに相応しいだろう。


 銀色、青い瞳は四分の一ほどロシアの血が混ざっているクォーターだかららしい。


 隆史は今年から一緒のクラスになったばかりだからあまり良く知らないが、容姿端麗の他に噂では運動神経抜群、テストでは常に学年首位と完璧超人だと聞いている。


 それでいて謙虚で気取らない性格をしているためか凄いモテ、一年の時だけで五十人以上から告白をされたらしい。


 あまりにも美しい容姿をしているため、学校の男子たちは姫乃のことをとある童話で魔法の鏡から世界一美しいと言わせたヒロインと同じ名前の白雪姫と呼ぶ。


「どう、したの?」


 フラれたショックはまだあるものの、隆史は姫乃に話しかけられずにいられなかった。


 こうして二人きりになったのは初めてで緊張するが、流石に泣いている女の子を放って置けるほど薄情ではない。


 それに学校で泣いているのだし、何かしら理由があるのだろう。


「高橋……くん?」


 涙を流している青い瞳がこちらを向く。


 一緒のクラスになってまだ一週間ほどしかたっていないのに名前は覚えてくれているようだ。


「何で泣いているの?」


 フラれたショックでこちらも泣きたい気分だが、隆史は我慢をして姫乃の方へ近づいてから腰を下ろして目線を彼女と同じくらいの高さにする。


 泣いているのだから辛いことがあったはずなので、上から見下ろすようにしては駄目だ。


 女の子は繊細だからあまり見下ろすようにしては駄目、というのは幼馴染みに教わったことで、隆史は何となく実践してみた。


「その……お構いなく」

「お構いなくって……放っておけるわけないだろ」


 どんな理由か分からないものの、一度断られたからって泣いている女の子を放置する性格はしていない。


「あなたも、泣いているじゃない、ですか。何か辛いことが、あったのでしょう?」

「え?」


 姫乃に言われて頬を伝う感触に気付いた。


 頬を触ってみると汗ではなくて明らかに涙で、恐らくは屋上に来る前から泣いていたのだろう。


 フラれたショックが大きすぎて泣いてることすら気付かなかった。


「そう、だね……つい先程幼馴染みに告白して、フラれたんだ」


 フラれた時のことを思い出してしまい、隆史の瞳からはさらに涙が溢れ出す。


 こんなにも泣いたのは久しぶりで、手を使って涙を拭うも止まらない。


「なら、私に構ってる余裕ないじゃない、ですか。辛いのでしょう?」

「そう、だね……でも、泣いている白雪は放っておけないから」


 男なのだから自分が辛いのを我慢し、姫乃の泣いている理由を聞き出すのが先決だろう。


 学校で女の子が泣く理由はいつくかあり、虐められたか好きな人に告白したかの二つが考えられる。


 学校一の美少女と言われる姫乃の告白をフるなんてほとんどないだろうし、恐らくは前者の可能性が高い。


「どんなに断っても、引いてくれそうにありません、ね」

「悪いな」

「いえ……」


 普段ならすぐに身を引いたかもしれないが、フラれたショックが大きくて誰かと話していたい気持ちが強いから頑固になっているのだろう。


「女子の中には私を良く思っていない人たちがいるそうです」


 スーハー、と深呼吸をした姫乃はゆっくりと口を開いた。


 以前女子たちが彼女の話をしていたことを隆史は思い出す。


 モデルや女優以上に整った容姿をしている姫乃は男子から圧倒的人気があるせいで、女子からは良く思われていないらしい。


 妬みや嫌味を陰口で言われているようだ。


「先程女子たちに呼び出されてわ色々言われてしまいました。『少しモテるからって調子に乗ってるんじないわよ。学校では良い子ぶってるだけで外ではイケメンに抱かれるアバズレ女だのお小遣い稼ぎで援交してるんでしょ。学校なんて辞めてしまえ』など色々です。神に誓って私は男性経験、交際経験、援助交際経験はありません。女子たちが言ってることは、事実無根です」


 泣いている理由を姫乃は語ってくれた。


 今まで陰口で言われていた程度だったのに、面と向かってあることないこと言われるのは泣いてしまうほどに辛いだろう。


 もしかしたら色々言ってきた女子の中に好きな人がいて、その好きな人は姫乃が好きなのかもしれない。


 好きな人が自分以外を好きであれば、嫉妬で怒り狂ってもおかしくはないだろう。


 女子の虐めは男子以上と聞くし、本当に辛いことを色々と言われたのかもしれない。


 白雪姫と言われる姫乃であれど、アバズレ女や援交をしているなど、としてもいないことを言われれば傷ついてしまう一人の女の子というわけだ。


 見た目からして暴力を振るわれてはいないだろう。


「嫌味や妬みを直接言われるのって辛い、ですね」


 青い瞳から流れる涙が大粒のものになる。


 隆史も美少女である幼馴染みと毎日のように一緒にいたから嫌味を言われたことがあり、姫乃の辛さは良く分かった。


「……え?」


 その辛さが分かってしまうからこそ、つい無意識の内に姫乃を抱きしめていた。


 華奢な体躯は隆史の腕の中にすっぽりと収まる。


「辛い時は泣いてスッキリしよう。泣き止むまで一緒にいてあげるから」

「でも、高橋くんも、辛いはずなのに……」

「俺なら大丈夫。むしろ誰かといた方が気が紛れるから」


 一人でいるより幾分か楽なのは、姫乃の辛さが伝わってくるかもしれない。


 自分の辛さが彼女の辛さで上書きされているのうな感覚で、フラれた辛さが少しだけ楽になる。


「ありがとう、ございます」


 うわーん、と姫乃は大きな声を上げて隆史の胸の中で泣いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る