お姉ちゃんのヒミツ

ヒペリ

第1話 お姉ちゃんとの、思い出

「わあ~、みてみて! ユカちゃん、とおってもキレイよ!」

 中一にもなって、小さな子みたいに、はしゃぐお姉ちゃんにあきれる。

「あのさぁ、なにやってんだよ。空なんかに、そんなはしゃいで」

 空一面、水色の水彩絵の具でぬったような、快晴。

 たしかに、きれいだけれど、そんなにはしゃぐことでもない。

「でもね、お姉ちゃん思うのよ。こんなキレイなお空、もう見られないかもしれないって」

 いつになく、真面目な顔をしたお姉ちゃんに、ぐっとだまる。

「……もう見られないって? こんなの、晴れた日にいくらでも見れんじゃん」

 この場所かどうかは、わからないけど。

 丁寧にかりそろえられた、芝生。ここは、家の庭。お父さんの転勤が決まり、家族で引っ越すことになった。

「ううん。ちがうの。このお空は、いつか見られるかもしれない。でも、この気持ちのこのお空はもう見られないかもしれないでしょ」

 キモチ……。

 キモチの問題なの? というか、お姉ちゃんは今、どんな気持ちなの?

「……ねえ、ユカちゃん。お姉ちゃんね、一緒に行けないかもしれないの」

「は? なに行ってんの? 一緒に行けないって……」

 そう言うと、お姉ちゃんは、寂しそうに笑った。

「うーん、そこは、『大人のじじょー』ってやつかなあ」

 大人のじじょー?

 わたしは、しかめていた顔を、もっとしかめた。

「変なこと、言わないで。荷物まとめよう」

 すたすたと、家の中へ入って行く。

 お姉ちゃんの、長い髪が風でさらりとゆれる。かぶっていた麦わら帽子も、落ちそうになった。

 あの時、もっと詳しく聞いていれば、あとになって後悔しなかったのだろうか――。

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