二話 勇者紹介 (2)

「話は分かった。で、召喚された俺達にタダ働きしろと?」

「都合の良い話ですね」

「……そうだな、自分勝手としか言いようが無い。滅ぶのなら勝手に滅べばいい。俺達にとってどうでもいい話だ」

 先ほどの笑い方からわかるけど、内心は大喜びの癖にぬけぬけと何を言っているのやら。

 まあ、俺も便乗するか。

「確かに助ける義理も無いよな。タダ働きした挙句、平和になったら『さようなら』なんてされたらたまったもんじゃない。というか帰れる手段があるのか聞きたい。その辺りどうなの?」

「ぐぬ……」

 王様が臣下の者に向けて視線を送る。

「もちろん、勇者様方には十分な報酬を差し上げる予定です」

 俺を含め、勇者達はグッと握り拳を作った。

 よし! 話し合いの第一歩を踏み出した。

「他に援助金も用意できております。是非、勇者様方には世界を守って頂きたく、その為の場を整 える所存です」

「へー……まあ、約束してくれるのなら良いけどさ」

「俺達を飼いならせると思うなよ。敵にならない限り協力はしておいてやる」

「……そうだな」

「ですね」

 どうしてコイツ等は常に上から目線なんだよ。現状、王国が敵になったら一番困るのは俺達だ。

 まあ、ここはしっかりしておかなきゃ骨折り損のくたびれ儲けになりかねないからしょうがないか。

「では勇者達よ。それぞれの名を聞こう」

 ここで俺は気が付いた。これ、さっきまで読んでいた本、四聖武器書に似ていないか?

 剣に槍に弓、そして盾。

 勇者という共通項もあるし、俺達は本の世界に迷い込んでしまっているのかもしれない。そう考えていると剣を持った少年――剣の勇者が前に出て自己紹介を始めた。

「俺の名前は天木錬だ。年齢は一六歳、高校生だ」

 剣の勇者、天木錬。外見は、美少年と表現するのが一番しっくり来るだろう。

 顔の作りは端正で、体格は小柄で一六〇センチくらいだろうか。女装をしたら女の子と間違う奴だって居そうな程、顔の作りが良い。髪はショートヘアーで若干茶色が混ざっている。

 切れ長の瞳と白い肌、なんていうかいかにもクールという印象を受ける。   

 細身の剣士という感じだ。

「じゃあ、次は俺だな。俺の名前は北村元康、年齢は二一歳、大学生だ」

 槍の勇者、北村元康。外見は、なんと言うか軽い感じのお兄さんと言った印象の男性だ。

 錬に負けず、整った顔立ちだ。彼女の一人や二人居そうなくらい、人付き合いを経験しているような雰囲気がある。身長は一七五センチくらいか。

 髪型は後ろに纏めたポニーテール。男がしているのに妙に似合っているな。  面倒見の良いお兄さんって所か。

「次は僕ですね。僕の名前は川澄樹。年齢は一七歳、高校生です」

 弓の勇者、川澄樹。外見は、ピアノとかを弾いていそうな大人しそうな少年だ。

 なんていうのだろう。儚げな、それでありながらしっかりとした強さを持つ、あやふやな存在感がある。身長はこの中で一番低い一五五センチくらいか。

 髪型は若干パーマが掛かったウェーブヘアー。大人しそうな弟分という感じ。

 みんな日本人のようだ。これで外国人とかだったら驚くけどさ。

 おっと、次は俺の番か。

「最後は俺だな、俺の名前は岩谷尚文。年齢は二十歳、大学生だ」

 王様が俺を舐めるように見てきた。背筋が何かむず痒いな。

「ふむ。レンにモトヤスにイツキか」

「王様、俺を忘れてる」

「おおすまんな。ナオフミ殿」

 まったく、抜けた爺さんだ。そりゃあ……なんとなくこの中で俺は場違いな気もするが其処はこう、忘れないで欲しい。

「では皆の者、己のステータスを確認し、自らを客観視して貰いたい」

「へ?」

 ステータスって何

「えっと、どのようにして見るのでしょうか?」

 樹がおずおずと王様に尋ねた。

「何だお前等、この世界に来て真っ先に気が付かなかったのか?」

 錬が、情報に疎い連中だと呆れたように言う。

 知るか! というか、何だその情報通ですって顔は。

「なんとなく視界の端にアイコンが無いか?」

「え?」

 言われるまま、何処を見るでもなくぼんやりとすると視界の端に何か妙に自己主張するマークが見えた。

「それに意識を集中するようにしてみろ」

 ピコーンと軽い音がして、まるでパソコンのブラウザのように視界に大きくアイコンが表示された。


 岩谷尚文

 職業 盾の勇者 Lv1

 装備 スモールシールド(伝説武器)

 異世界の服

 スキル 無し

 魔法 無し


 さらっと見るだけでもまだまだ色々な項目があるけれど割愛する。ステータスとはこれの事か。

 っていうかなんだよこれ! 妙にゲームっぽいな。

「Lv1ですか……これは不安ですね」

「そうだな、これじゃあ戦えるかどうか分からねぇな」

「というかなんだコレ」

「勇者殿の世界には存在しないので? これはステータス魔法というこの世界の者なら誰でも使える物ですぞ」

「そうなのか?」

 現実の肉体を数値化して見ることが出来るのが当たり前なのか、これは驚きだ。

「それで、俺達はどうすれば良いんだ? 確かにこの値は不安だな」

「ふむ、勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです」

「強化? この持ってる武器は最初から強いんじゃないのか?」

「いいえ。召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです」

「その武器が武器として役に立つまで別の武器とか使えばいいんじゃね?」   

 元康が槍をくるくる回しながら意見する。

 それもそうだ。というか俺は盾、武器ですらない物を持たされているのだから必要だ。

「そこは後々片付けて行けば良いだろ。とにかく、頼まれたのなら俺達は自分磨きをするべきだ」

 錬がそういって場をまとめた。

 異世界に勇者として召喚されるという燃えるようなシチュエーション。

 少々マンガじみているが、オタクなら是が非でもやってみたいという思いが沸々と湧いてくる。

 なんていうか胸一杯の状態で興奮が冷めそうに無い。他の連中も同様でみんなご執心だ。

「俺達四人でパーティーを結成するのか?」

「お待ちください勇者様方」

「ん?」

 冒険の旅に出ようとしていると大臣が進言する。

「勇者様方は別々に仲間を募り冒険に出る事になります」

「それは何故ですか?」

「はい。伝承によると、伝説の武器はそれぞれ反発する性質を持っておりまして、勇者様方だけで行動すると成長を阻害すると記載されております」

「本当かどうかは分からないが、俺達が一緒に行動すると成長しないのか?」   

 ん? なんか武器の所に伝説の武器の使い方とかヘルプがついている。

 みんな気が付いたようで目で追っている。

『注意。伝説の武器を所持した者同士で共闘する場合、反作用が発生します。なるべく別々に行動しましょう。』

「本当みたいだな……」

 というか何だこのゲームっぽい説明は。まるでゲームの世界に入り込んだみたいだ。

 まあこんなリアリティのあるゲームは存在しないし、人間が生きているんだから現実なんだけど、 システム的に見て、そういう感想を抱いた。

 ズラーッとこの武器の使い方が懇切丁寧に記載されているけれど、今は全部読んでいる暇はなさそうだ。

「となると仲間を募集した方が良いのかな?」

「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。こちらは明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく」

「ありがとうございます」

「サンキュ」

 それぞれの言葉で感謝を示し、その日は王様が用意した来客部屋で俺達は休むこととなった。

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