第6話 揺れる心
「そうね、貴方の言うことが嘘とは思えないけど、母が私にどうしてこんな指輪を付けさせたのか分からないし、信じたくない気持ちが今は強い。でも・・・この指輪は私の意志では外すことが出来ないのよ」
「それなら、私の屋敷に来ればなんとか外す事が出来るかもしれない。これでもザイラスでは呪術について一番詳しい家紋だ」
「それは・・・とてもありがたい申し出だと思う。でも先に、私は王都を見て回ったら先に母の遺品を受け取りにミケーネス領へ行ってくるわ。その間にじっくりどうするか考えて、そしてまた戻って来てから貴方に連絡をする。それじゃダメかな?今すぐ何かが起こるってわけじゃないんだと思うし・・・」
「いや、ダメって事はない。私もその間に、もう少しそういった呪いについて詳しく調べてみよう。連絡はこれを使ってくれ。ええと、君のこと、ジュジュと呼んでも?」
「ええ、もちろん。私はあなたの事をどう呼べばいい?」
「本当はヴィードと呼んで欲しいところだが、紛らわしいのでそのままヴィートレッドと呼んでもらえれば」
「わかったわ、ヴィートレッド。それに、優しくしてくれてありがとう」
彼は何故か驚いたような顔をした。
こうして話をしていると、
彼の表情は自動人形の様に同じ状態で維持されていない。生き生きと様々に変わるのだ。
そして彼は私に、紙で出来た形代を渡してくれた。白い鳥の形をしている。
「これ、願って飛ばせばよいの?とてもわずかだけど、これから貴方の魔力を感じる」
「そう、魔力は少なくても大丈夫だ。これは私のマナで出来ているから、すぐに連絡がつくだろう」
「色々教えてくれてありがとう。じゃあ、私、まだ王都を見て回りたいからここで失礼したいんだけど・・・まだ来たばかりで泊まる所も決めていないから」
「宿屋なら良い所を紹介してあげられる。食事も人気のある宿屋だ」
「ほんと?ありがとう。でもあなた今は婚約者を探しているのでしょう?」
「探しながら歩くさ。じゃあ行こうか」
「わかったわ。それで貴方の婚約者はどうして家を飛び出したの?」
もしかしたら、私の異母姉妹なのかもしれないから気になる。
「彼女は家を継げない事に納得できないし、私との婚約も嫌っている。今日は彼女と月に一度会う約束の日だったんだが、癇癪を起して出て行ったようだ」
「まあっ、貴族って政略結婚っていうのは当たり前なのかと思ってたけど、彼女は違うのね」
私的にはそういう性格が好ましく思えてしまう。
「そうだな。確かに変わってる。彼女は私と結婚はせずに城の魔導士になりたいらしい。だが父親のブラノア伯はそんな事は許さないだろう。家同士の繋がりは大切だ」
「貴方もそう思っているの?」
「確かに、貴族というものはそういう考えが一般的だ。私も異存はない。だが、やはり嫌われるよりは仲良くやって行きたいと思うのは当たり前の事だ。だから、なるべく会う機会は増やしてお互いの事を知ることが出来ればと思っている」
「そうね。貴方の考えはすごくまともな考えだと思うわ、うまくいったらいいわね」
「ああ」
彼の表情は私の知らないヴィードの表情で、口元は微笑んでいるのに、困ったような瞳の色だった。
そのあと私は彼の良く知る宿屋『銀のスプーン亭』を紹介してもらい再会を約束してそこで別れた。
侯爵家の紹介というのが効いているのか、とても丁寧に宿屋では対応してもらえた。部屋も角部屋の良い部屋だった。
ヴィートレッドが教えてくれたように宿の食事はとても美味しく、文句なしに良い宿屋だと思った。次の日は宿で教えてもらった王都の魔道具街を訪れた。ヨーイは、昨日は上空を飛び回っていたが、今日は私の肩に止まっている。
朝から曇り空で、雨が落ちて来そうな雰囲気だった。私のローブは見た目は悪いけど雨も弾いてくれるので大丈夫だからあまり気にせず外出していた。
「おい、竜騎士団が出動しているぞ、魔物か?」
誰かが空を指さした。見ると、上空には十数の竜が飛んでいる。ポツリと雨粒が顔に落ちて来るのを感じた。
「また、戦場跡じゃないか?そういう場所に魔物が集まるっていうじゃないか」
「多分、そうだろう、あっちは国境方向だ」
戦場跡には瘴気が集まるので、魔物が集まるという話はあるのだ。間違いではない。
「ブラノア将軍も出ているのかな?」
「いや、戦争で隻眼になられたそうじゃないか、まだ療養中だと聞いたがな」
「そうか、早くよくなられたらいいな」
雨が強くなって来たので、店の軒下に雨宿りをする。雨が降るのに竜騎士たちは出動だとは大変そうだ。やはり城勤めというのは私には向きそうにないと思う。竜に乗るのなら、それで好きな場所に旅するのがよい。母のおかげで生活の為に働く必要がない今、そう思えるのは幸せなことなのだろう。
今の私を取り巻いている状況が落ち着いたら、今度は旅に出るのもいいかもしれない。だって私はものを知らなすぎる。
そういえば、さっき通りすがりの人が言っていたブラノア将軍というのは、ブラノア伯爵のことだろうか?
私の心の中で色んなピースを合わせてみても、全ては想像でしかなかった。
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