61試合目 誰じゃい

「うちの連れが申し訳ございません。もちろんあなたがわざとぶつかってきたようには見えませんでしたので謝る必要はありません」

 なんだこの機械みたいにバカ丁寧な話し方は……。

「そうだとしてもけがさせたら一緒ですよ。なんで謝らせてください、すいませんでした」

 俺はそういうと大きく頭を下げた。

「あなたはとてもいい人のようですね、他の男性とは違う何かがあります」

他の男性とは違う=特殊=普通ではない。

「そ、そうですかね???んふふふ……」

「なに笑ってんだ、会長……。こいつ変ですよ」

 お前初対面の癖に失礼だな。この人を見て……。って会長?

「会長ってどういうことですか???」

「なにいってんだ、この人は生徒会長の和倉 凛わくら りんさんだぞ。知らんのか」

「か、会長!???」

 俺は驚きのあまり股間にこっそり手を押さえた。

「そんなあなたの名前は何ですか?」

 やばい……。ここで名前を教えたら一生呪われるかも。

「え、えーっと……わかりません」

「わからない???冗談はよしなさいな」

「わかりません……。」

「くどいですよ?」

「だから!!!ワカリ・マセンです!!!!」

 く、苦しい言い訳だ、さすがの会長も騙されるわけ……

「ワカリさんでしたか、失礼しました……」

 だ、騙せたぁぁぁ!!!??

「ところで質問いいですか??」

「ハイ、ナンですか??」

「お前さっき普通にしゃべってたよな?」

 黙れ、筋肉女。

「西屋敷徹という人物をご存じですか?」

 !? な、なんで俺の名前を……。もしや見つけたら殺されるのでは……。

「ワカリマセン」

「自己紹介は大丈夫ですよ?」

「ワカリマセン」

「だから自己紹介は……」

「分かりません!!!!」

「ああ、そっちですか……。ややこしいですね」

「しかしなぜその男を探しているのデスカ?」

 まあさすがに見つけても殺しはしないはず……

「彼を拘束しようかなと……」

 殺すよりえぐいやんけ。

「な、なぜこうそ……」

「会長、そろそろ時間です。」

 俺が質問をしようとした瞬間、この筋肉女が遮ってきた。

「そうですか、では徹を見つけ次第報告お願いいたしますね。ワカリさん」

「ワカリマシタ……」

 そういうと足早にこの場から立ち去っていった。


「というわけだったんだ」

 俺は家に帰ってから今日あったことを柚希に話した。

「兄さんの好きな人って凛さんって言うの???」

「昔のことだ。だからその包丁をこっちに向けるな」

 柚希は瞳孔を開いたままこちらを凝視している。怖いやめろ。

「生徒会長ではないのですか??」

「その可能性も考えたが、凛はもっと感情を表に出す鈴みたいな性格の奴だったはずだ。生徒会長の性格とは真反対だよ」

 しかし気になるのは俺を探していることだ。まさか名前を俺だけ知らないことを耳に入れて、体に刻み込もうとしてるとか……??

 アマゾネスならあり得る……。

「兄さん……」

「なんだ柚希。そんなあきれたような顔をして」

「それはないと思います」

 


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