第26話

「んじゃ、和泉は近いうちに係長に、そのまま課長へまっしぐらってワケだな」

「そうです。

 和泉さんみたいな目立つ女性社員を役職にして、

 女性の役職者比率上げようってのが会社の方針ですね」


「それでやっかんだ男どもがコソコソ噂話してるってか。

 本庄もそのクチかよ」


綱子ちゃんはビールのジョッキを持ち上げてケンカ腰。


「そんな訳無いだろ。

 俺は柿崎が出来るヤツなのを知っている。

 しかし会社で変な風に言われてるのを気にしてたらいけないと思ってだな」

「そうです。

 会社がどう考えていても関係ない。

 柿崎さんは仕事の能力も有るし、努力もしてます。

 更に部下の面倒見もいい。

 昇進するのはトーゼンです」


応えるのは本庄主任と金津新平くん。


と言うか、女性管理職と言われても。

管理職ってどこから言うの。

そこがまず良く分かってない和泉さん。


「課長です。

 主任とその上が係長、これは役職付きですが管理職では無いです。

 課長から上の次長に部長、これが管理職」


和泉さんのそんな雰囲気を見てささっと餅子ちゃんが説明。


「会社によって違ったりもしますが。

 係長と次長って役職無くて課長補、部長補だったり。

 でも課長より上が管理職なのはだいたいの会社一緒ですね」


まだ遠い話じゃない。

和泉さんは主任。

まだ係長にもなってない。


「だから早く係長にしちまえってコトだよ」


ヤダなあ。

プレッシャーまた増えちゃう。

現在でも後輩の面倒を頼まれてる和泉さん。

部下にカッコ悪いトコは見せられない。

部下の仕事の進捗、資料に相手先の人間まで覚える事がやたら増えていく和泉さんなのだ。


「杏露酒、ソーダ割でもう一杯」


「前から気になってたんだ。

 柿崎、頑張り過ぎだ。

 部下の事は部下に任せちゃえばいいんだ。

 部下の仕事を部下以上に詳しくなろうなんてしたらパンクするぞ」

「そうです、柿崎さん。

 もっと僕に頼ってください」


本庄主任と金津くんはテンポ良く語り掛ける。

何だよー。

あたしの部下なのに、なんでそんなに本庄主任と仲良いんだよ。

かなりトンチンカンな事を考えてるのだが、気付いてない和泉さん。


「とにかくだな、柿崎が努力してるのは俺が知ってる。

 他のヤツの言う事なんか気にするな。

 今日はそれが言いたかったんだ」

「そうか、それで最近柿崎さん憂い顔だったんですね。

 僕、気づけなくて。

 でもその通りです。

 柿崎さんに後ろ指差されるような事は何も無いと思う」


かなり酔いの回ってる和泉さん。

グラスを持ち上げて叫ぶ。


「うっるっさーい。

 みんなして勝手なコト言って。

 あたしが気にしてるのは六郎さんのコトだけだーーっ!!!」

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