第4話

今回も回想だ。

和泉さんが会社に入って間もない頃の話。


お家に帰った和泉さんはいつものように六郎さんに泣きついた。


うわー、やっちゃった。

やっちゃった、やっちゃったよう。


「どうしたんです、落ち着いてください」


いつもの優しい声。

軽く肩を叩く、ポンポン。

落ち着いて、そういうボディランゲージ。


和泉さんは逆に泣きそうになってしまう。

目に溜まってくる水滴。


六郎さんが血相を変える。


「和泉さん、何が有ったんです。

 ちゃんと話してください」


・・・・・・・・


「それは…どう考えても和泉さんは正しい行動をしてます。

 間違った事なんて一つもしていない」


「だって、だって、だって」


あの後のオフィスは凄い空気だったのだ。

みんな一言も喋らない。

何か言わなきゃ。

でも自分から話すのはイヤ。

誰か話題振ってくんないかな。

そんな空気。

全員で牽制しあってた。


和泉さんは社会人なのだ。

大人として見てみないフリ。

そんな事ももしかしたら必要だったのかも。


「そんな事は有りません。

 和泉さんが言って良かった。

 自分はそう思いますよ。

 きっとOLさんもそう思ってくれてる筈です」


そっか。

そうだよね。


えへへへー。

六郎さんの胸元に顔を埋める。

普段くっつき過ぎるとすっと距離を置く六郎さん。

その日はそのままにしてくれた。



翌日、会社に向かう電車の中にいる和泉さん。

頭の中は不安でいっぱい。


どうなっちゃうんだろ。

エライ人に呼び出されたりして。

「キミはわが社には向かないようだね」

そんな事言われちゃうのかも。

はたまた今頃顔も知らないような人達が集まって相談してるかも。

「この柿崎和泉という新人は使えませんな」

「給料を下げましょう」

「ボーナスは生涯無しって事で」

「それがいいですな」

うわー、生涯無しは止めて。

ボーナス貰ったら六郎さんにプレゼント買う予定なのだ。

いつものご飯のお礼。


そんな妄想が止まらない和泉さん。

自分の席に座る。


ホッ、良かった。

いつもと変わらない。

先輩たちも世間話をしてる。

空気も大分回復したみたい。


ところが和泉さんは呼び出された。

課長さんに。

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