第2話

温かいオニオンスープとトースト。

トーストは薄いヤツ。

和泉さんは朝はあまり食べられない。

それにヨーグルトとフルーツ。


グタッと動かない和泉のカラダを六郎さんが椅子に座らせる。

「はい、どうぞ」とスプーンを手に握らせてくれる。

和泉は自動的に右手を動かす。

全てお腹の中に放り込むとようやっと頭が動き出す。


「今、何時ですか」

「7時15分ですよ、いつも通りです」


「大変、急いで支度しなきゃ。

 今日は会議の準備が有るんです。

 30分早く出ます」

「言っておいてくだされば、

 早く起こしましたのに」


だってだって。

会社から帰ってきた時には疲れ切ってたのだ。

ふにゃーんとなってたのだ。

それで六郎さんに甘やかされちゃったら。

仕事の事なんて思い出せないに決まってる。


速攻でシャワーを浴びて、インスタントなメイク。

白いシャツとライトグレーのスーツ。

お仕事スタイルになった和泉さんが家を飛び出たのはいつもの20分前。


よし、セーフだ。

セーフなのか。

大丈夫、電車の中で資料の修正ポイントをまとめる。

会議は午後から。

10時半までに総務の餅子ちゃんにデータを渡せば何とかしてくれる。

いや、11時でも大丈夫かな。

その場合は今日カフェくらいおごらないとダメだろうな。


甘粕餅子。

同じ会社のOLさんだ。

和泉さんとは一緒にランチする機会が多い。


和泉さんの会社では会議資料はデジタル。

課長と係長にはノートPCが渡され、一般社員はモニターに映し出された映像を見るしかない。

紙資料は廃止。

無駄なコスト削減。

地球にだって優しい。

廃止になった筈なのだ。

ところが部長以上にはプリントされた資料が渡される。

そんな謎の風習が残っている。


会議資料に修正を加える。

手元の紙資料とモニターのデータが違っちゃったりすると、それだけでひと悶着なのだ。

これ、おかしくないか。

些細な事にエライ人が茶々を入れる。

無駄な時間が長引くのだ。

場合によっては部長の怒号が飛ぶ。

会議資料一つまともに作れんのか。

一般社員の怨嗟の声が静かに広がる。


餅子ちゃんに渡しておけば大丈夫。

その辺は同僚に信頼を置いてる和泉さんだ。

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