EX第7話 4月1日

※カクヨムコン中間選考突破記念の短編第三弾です、時系列的には第66話「味方」と第67話「条件付き復縁宣言」の間の話です、少しフライングですが、4月1日のあのネタになっています。


 ついに4月1日となり俺は大学の最終学年である4年生となった。

 ここ最近は就職活動で忙しい日々を過ごしていたわけだが、今日は実乃里とデートをする予定になっている。


「実乃里と会うのも久しぶりな気がするな」


 毎日電話やチャットアプリでの会話は欠かさずやっているが、お互いに忙しいため中々会えずにいた。

 四菱商事の人事面談の帰りに予備校の前で偶然会った日以来会えて無かったので、実に半月以上は会えていないのだ。

 俺は就職活動、実乃里は公務員試験の勉強とお互いに自分の夢を追いかけるというポジティブな理由が会えない原因に繋がっていたわけだが、それでも寂しかったので今日のデートはかなり嬉しい。


「よし、行くか」


「お兄ちゃん、いってらっしゃい」


 リュックサックに荷物を詰めた俺は部活前の紫帆に見送られながら部屋を出る。

 そして駐輪場に停めてあるバイクに跨ると、集合場所の駅前広場に行くために駅へ向かって走り出す。

 しばらくして駅前に到着した俺は適当な駐輪場にバイクを停めると、駅前広場の噴水前に向かって歩き始める。

 結構時間に余裕を持って家を出た関係でかなり早く着いてしまったため待たなければならないと考えていたわけだが、噴水前には既に実乃里の姿があった。


「おはよう、実乃里。早いな」


「あっ、春樹君おはよう。今日のデートが楽しみ過ぎて早く着き過ぎちゃったんだよね」


 なるほど、どうやら実乃里も俺と同じで家をかなり早く出たらしい。


「さて、いきなりですが春樹君に質問です。今日の私はいつもと違うところがあるわけですが、それは一体どこでしょう?」


「うーん、いつもと違うところか……」


 突然の質問に実乃里の姿を見ながら考え始める俺だったが、正直全然分からない。

 髪型もいつも通りだし、服装も普段と大きく違うところは無いし、メイクも同じように見えるため俺の目からはどこも変わって無いようにしか見えないのだ。


「あれ、ひょっとして分からないの? まさか彼女の変化に気付けないって事はないよね?」


 俺がしばらく黙って考え込んでいると実乃里は楽しそうな表情でそう声をかけてきた。

 そう言われた俺はもう一度実乃里の全身を上から下まで注意深く観察するが、やはりどこも変わっているようには見えない。

 だとするとひょっとして目に見えないところが変わったのだろうか。

 そう思った俺はしばらく考えてからとりあえず当てずっぽうで答える事にする。


「……シャンプーがいつもと違うとか?」


「残念、シャンプーはいつも通りだよ」


 もしかしたらいつもと匂いが違うのではと思ってそう答えてみたが、どうやら不正解だったようだ。


「あれ、本当に分からないの? もしかして私に興味ないんじゃ……」


 俺が再び黙り込んでいると実乃里は少しいじわるな表情をしてこちらを見つめていた。


「ちょっと待って。今必死に考えてるから」


「もう、しょうがないな。もっと近くでよく見てよ」


 そう言うと実乃里はどんどん俺の方へと近づいて来る。

 そして密着するくらいまで接近してきた実乃里は、背伸びをして顔を近づけるとなんと俺にキスをしてきたのだ。


「嘘だよ、いつもと違うところなんてどこも無いよ。春樹君、見事に騙されちゃったね」


 キスが終わった後、実乃里はまるで悪戯が成功した子供のような表情でそう俺に話しかけてきた。


「えっ、どういう事……?」


 唐突なキスと嘘発言に俺が混乱していると、実乃里は以外そうな表情で口を開く。


「あれ、今ので完全にばれたと思ったんだけど、まだ分からない? ヒントは4月1日なんだけど」


「……あっ!? そう言えば今日ってエイプリルフールじゃん」


 4月1日という単語を聞いてようやく今日がエイプルフールだという事に気付いた俺はそう声をあげた。


「ようやく気付いてくれたね、エイプリルフールだから春樹君を騙してみたんだ」


「完全に引っかかったよ。てか、そもそもエイプリルフールって事も忘れてたからめちゃくちゃ焦った」


 全てを理解した俺は実乃里が嘘をついた理由が分かって安心した気分になっている。


「一度やってみたかったんだよね。春樹君のおかげで夢が1つ叶ったよ、ありがとう」


「一応どういたしましてと言うべきかな……?」


「じゅあ、気を取り直してデートに行こうか」


 それから満足そうな表情をした実乃里と一緒に俺は今日の目的地へと向かい始め、その後もデートを楽しむのだった。

 ちなみにデートから帰った後、紫帆からも全く同じ手口で騙されそうになったが、今度は流石に騙されなかったのは言うまでもない。

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