第42話 望月冴子という女

※今回は望月視点です。


 所属している混声合唱サークルが問題を起こし、仁が逮捕されたと知った私は流石に驚きが隠せなかった。

 サークル内で違法薬物が流行していた事は以前から知っていたし、薬物パーティーの存在も知っていたが、まさかバレて逮捕される事になるとは夢にも思っていなかったのだ。

 私も薬物パーティーには誘われていたが、バイトのシフトが入っていたため参加していない。

 当然メンバーの一員であり、直前まで強化練習で部室にいた私にも事情聴取があり、バイト先のカラオケ店に突然やってきた警察官に呼び出されて身体検査やら簡易の尿検査やらを受けさせられた。

 ただし身体検査で特に問題は見つからず、簡易の尿検査でも陽性反応は出なかったため、現行犯逮捕される事は無かったが。

 私の尿は科学捜査研究所の正式鑑定にまわされて検査されるらしいが、はっきり言って労力と時間の無駄でしかないだろう。

 だって私は生まれてから一度も違法薬物のお世話になった事などないのだから。

 つまり私が陽性になって逮捕されるのは絶対にあり得ないと言うわけだ。

 仁から何度か勧められていたが、違法薬物は老けると知っていた私は断り続けていた。

 そんなものにうっかり手を出して万が一外見が劣化してしまえば、仁から捨てられてしまいかねない。

 サークルには違法薬物を何の躊躇いも無く使っている友達もいたが、はっきり言って私には全く理解ができなかった。

 私の友達はちょっと女子力が低過ぎやしないだろうか。

 まあ、薬物パーティーに参加して逮捕されたようだし、あの子達は今や女子力を気にするような状況ではないのかもしれないが。

 そんな事よりも、今私が一番衝撃を受けている事はテレビで報道されている仁の犯行内容についてだった。


「ねえ、ちょっと。これは一体どういう事よ……!?」


 なんとテレビでは仁が薬物所持の他に、未成年者を含む複数の女性に手を出していたと報道されていたのだ。

 なんでも交際中の女性に多額の借金を背負わせて風俗に沈めていたようで、被害者が何人もいるらしい。

 多額の借金を背負わされて風俗に沈められた頭お花畑な馬鹿女の事は正直どうでもよかったが、私という彼女がありながら他の女に手を出していた事がかなりのショックだった。


「お前だけを愛してるって言葉は全部嘘だったの!?」


 仁からの愛しているという言葉を完全に信じ切っていた私は彼のために、私は今までありとあらゆるものを犠牲にして頑張ってきたのだ。

 派手な格好の女が好きと言ってたから眼鏡をコンタクトに変えて髪を明るい金髪に染め、メイクも派手なものに変えたし、あまり気は進まなかったがボディーピアスなどにまで手を出していた。

 お金がどうしても必要と言うから、まともに授業に出席できなくなって単位を半分近く落としてしまうほどバイトのシフトを入れ、全く好きでもない男と何度もセックスまでしている。

 その結果、親からは見た目の変化や単位の件で大激怒されて関係がかなり悪化してしまったし、売春のやり過ぎが原因で性病に感染して病院に通院する羽目にもなっていた。

 それでも私は仁から愛してもらえていると思っていたので全く後悔していなかった、今日までは。

 だがそれは全部思い込みで、全て嘘だったらしく、私の思いは儚くも裏切られてしまったようだ。


「ふざけんな、マジで二度と外に出てくるな。一生捕まってさいよ、最低ヤリチン野郎」


 もはや仁、いや最低ヤリチン野郎に対しての愛情は既に一切無く、逆に激しい憎悪と怒りの気持ちが芽生えていた。

 もし今目の前に現れたのであれば、多分罵詈雑言を吐いてしまいそうだ。

 身長が高くて顔もイケメンだったから付き合えてラッキーと思っていた昔の自分を本気で殴り飛ばしたい。

 あいつのせいで私にまでとばっちりが来るかもしれないし、それをかわすためにこれからは最低ヤリチン野郎に騙された悲劇のヒロインとして振る舞う事にせいぜい利用させて貰おう。


「あーあ、今回はチャラそうなタイプと付き合って痛い目見たし、次に付き合うならもう少し真面目なタイプがいいな。どこかに良さそうな男いないかな」


 正直もう働きなく無いし、将来は専業主婦になりたいがそれなりに贅沢もしたいと思っているため、大企業のサラリーマンや医者、弁護士のような高収入男を捕まえたかった。


「……そう言えば綾川ってちょっと前から成績優秀者になってるし、割と将来有望なんじゃない?」


 ずっと成績優秀者なのを考えれば、ひょっとすると大企業に入社する可能性も考えられるし、悪くない考えの気がする。

 私の思惑通り大企業に入れそうならとりあえず綾川をキープにしておいて、他に良さそうな男がいなければ冴えない事には目を瞑ってもう一回付き合ってあげてもいいだろう。

 どうせ彼女なんていないに決まっているし、私から復縁を迫ってあげれば泣いて喜ぶに違いない。


「しばらくの間は様子見が必要ね。せいぜい私に相応しい男になれるよう頑張りなさいよ、

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