第16話 色と欲望の中で

 翌日の夜17時。壁掛け時計の鐘が鳴り響く中で海蛇みずち家主催の社交パーティが開かれた。続々と集まる社交界の者達。皆、きらびやかなタキシードやハッスルドレスや着物の礼服を纏い海蛇家の用意した館へと集まる。

 その場には時田聡一ときたそういちもいた。見た目は海蛇諒みずちりょうよりも年上の初老の紳士。服装は着物の礼服を着ている。黒髪には所々に銀髪になった髪の毛が覗く人物だ。髭も彼は顎まである。

 この時田聡一は名のある美術品をオークションに掛けて売買を行う画商である。当然ながら贋作を見破る目はある。この時田家は江戸時代末期に繁栄をした華族と呼ばれる一家で、海蛇家の事も既に既知である。

 部屋で待つ客人のざわめきと共に、主宰を務める今夜の主役が登場した。

 相変わらず端正な顔を見せる海蛇諒。服装は珍しくタキシードで姿を現す。横には夏美なつみも連れて。夏美もハッスルドレスを着て淑女のように姿を見せた。

 海蛇諒は観衆の皆さんに声をかけた。独特な低い声が響く。


「皆様。今夜も我が海蛇家のパーティへようこそ。今宵のパーティも存分に楽しんで下さいませ。こちらの女性は我が娘、海蛇夏美みずちなつみです。どうぞ、お見知りおきを」

「皆様。ごきげんよう。ただいま父の紹介を賜った海蛇夏美です。今宵は皆様の夜が充実しますよう努力して参ります」

「では。今の時間は堅苦しいのは無しに、ごゆるりとお過ごしくださいませ」


 観衆の目は海蛇諒を見つめる。

 神秘的な美貌の男性と聞いていた観衆は、納得がいったように彼に魅入る。元より西欧人のような男性なのでタキシードも似合う。そして誰もが見入ったのは片方の目。深くて吸い込まれそうな青い瞳だ。

 目線を感じるのに馴れている諒は、それを気にする事もなく、そのまま時田聡一のもとに向かった。

 会場にいる観衆はそれぞれ最近あった社会情勢や身近にあった噂話などに花を咲かせた。

 

「こんばんは。海蛇諒さん」

「ご無沙汰しております。時田さん」

「今度の絵画コンクールを楽しみにしているよ。毎回、あのコンクールに審査員として参加する事は、我々美術品を扱う者にとっては名誉な事でね」

「実は我が娘、ここにいる海蛇夏美も今回の絵画コンクールに参加するのですよ」

「こんばんは。時田様。海蛇夏美です。時田様にお会いできて嬉しい限りですわ」

「この淑女が絵画コンクールに?」

「はい。日夜、娘は良い作品にしようと制作に励んでおります」

「美しい女性だ。美雪みゆきさんに似ている」

「時田さん。夏美と一度、お話してみてはいかがですかな。常々、娘も時田さんの話を伺いたいと申しております」

「そうですね。夏美さん…か。私と歓談などいかがかな?」

「ありがとうございます。時田様」

「夏美。くれぐれも粗相の無いように」

「はい。お父様」

「行きましょうか?」

 

 そうして、時田聡一と夏美はふたりきりで話せる個室へと消えていった。 

 

「海蛇様」

滝沢たきざわ殿」


 諒に声をかける男性と女性がいた。

 滝沢重工の社長夫婦の滝沢一智たきざわかずとも和美かずみの2人だった。

 

「こんばんは。海蛇様……いや諒」

「一智じゃないか。和美さんまで。そっちは今の世界大戦のお陰で景気がいいって聞いたぞ」

「海蛇財閥のお陰だよ。もっと言えば諒のお陰だよ。俺達が起業すると聞いて諒は支援してくれたじゃないか。恩を返したいと思って待っていたんだぞ」

「いつでもいいって言っただろう?」

「いつでもいいなら、今、させてくれよ。この戦争景気だっていつまでも続く訳でも無いだろう?」

「まぁな」 

「勘が鋭いのはさすがね。諒は」

「和美もだろう?」

「何かやって欲しい事はある?今ならこちらも口利きはしやすいわよ」

「お願いがあるんだけど、冨岡雅春とみおかまさはるは知っているか?」

「冨岡商事の当主だよな」

「確か、絵画コンクールの審査員を務めている筈だよな。どうにか会えるように仲介を頼めないかな」

「冨岡雅春なら、横の繋がりで知っているよ。彼と直に会いたいんだろう?連絡しておくよ」

「助かるよ」

「諒のその素直な所は好感を持てるわ。社交界では危険だけど」

「せいぜい気を付けるよ」

(夏美は上手くやっているのかな)


 諒が滝沢夫妻と話を始める時、夏美は個室にて時田聡一を誘惑していた。

 実は時田聡一は当代一の好色な男性で、美女を見れば抱いてみたいと思う男性だった。精力は旺盛の一言で、その点では諒に勝るとも劣らない。

 

「時田様……凄い立派な息子……ハアッ…ハアッ…」

「ウッ…うアッ…夏美君……上手いじゃないか」


 夏美は時田に口戯を仕掛けた。

 男の誰もが夢中になる最高の快楽。

 しかも美女が自ら、時田の着物のはかまを外して、襦袢じゅばんを脱がし、ふんどしまで外して、口でいっぱい奉仕をしてくれるのだから堪らない。

 夏美が纏うハッスルドレスを脱がしに掛かる時田。本当ならドレスのままに大輪に濡れる花びらに突っ込みたいが、ハッスルドレスでは無理がある。

 でも手馴れているのはさすがだった。

 ハッスルドレスの構造が頭の中に入っているのか、手早く脱がしていく。夏美の肢体が露わになる。

 彼らは洋式の個室にいる。クイーンサイズのベッドに横たわる夏美は艶やかな表情を浮かべて、時田を切なく求める。

 

「時田様……抱いて?ねぇ……見えます…?私の花びら……こんなになって時田様が欲しいの……」

「美しい濡れ方だ……蜜を舐める者を欲しがっている。ンンッ…」

「アアン…時田様…」


 時田が夏美の花びらに顔を埋めた。

 時折当たる顎髭が何ともくすぐったい。舌先は花の芯を攻撃する。

 そして溢れる蜜を啜るように舐める。

 時田の甘い声が聞こえた。


「何と美味しい蜜だ。海蛇家の財産ですな。これだけでも……」

「時田様……お好きなだけ舐めてください。あなたの欲望を晴らして」

「遠慮なくいくよ」

「アアン!あハア!凄い…!時田様…!時田様ぁ!」


 時田のセックスが段々と激しくなる。

 手のひらは夏美のふくらみを揉みほぐし、やがて口に含み始める。

 激しく吸い、舌で転がす。

 下半身は時田の分身と夏美の花びらが今にも一つにならんとしている。

 夏美の口戯で充分過ぎる程、奮起してしまった時田は夏美の顔を見つめる。

 蕩けきった顔で夏美は時田を求めた。


「時田様を感じさせて…!」

「いくよ……夏美君」

「アアン!アウッ!奥まで来て」

「オオッ…!何て…感触だ…!この中も芸術だ…!」


 時田がゆったりと腰を動かす…。

 まるで芸術作品を堪能するかのように、ゆったりと動き出す。

 その度に夏美は喘ぐ。そして覆いかぶさる時田を抱きしめる。

 二人の顔はお互いにキスまで出来る程近くにある。甘い吐息を吐き、彼らは得難い快楽を貪り合う。


「何て…気持ちいい花びらだ……今までの女とは比較にならない…!」

「時田様……お願いがあるの…!」

「美しい花びらを持つ夏美。どんなお願いかな?」

「絵画コンクールで私の作品を選んでくださらないかしら?御礼はこのセックスはいかが?」


 時田がゆったりとした腰を激しく動かす。

 夏美の脚が時田の腰に回る。


「ハアッ…ハアッ…いかが?時田様…!」

「素晴らしい御礼だ…!こんなに美しい花びらを持つ君を抱く代償が絵画コンクールなら軽いものだ…!」

「時田様の腰も素敵よ…!」

「ああ……出来るなら独占してしまいたい…!」

「時田様のが暴れている!私の中は気持ちいい?」

「気持ちいい!気持ちいいに決まっている!」


 時田の腰が小刻みに夏美の花びらを味わう。その度時田は甘く吐息をつき、夏美の唇を貪り食う。

 夏美も確かな快楽を感じる。

 それは嘘はつかない。それは私を満たしてくれるものだ。

 お互いに快楽が反響するように高まる両者は、激しくキスをしながら欲望をぶつける。


「アッ!アッ!もう…駄目だ!いってしまう!」


 時田の叫ぶ声が聞こえた。喘ぐように絶頂に昇る。

 夏美も時田の首を絞めるように力いっぱい抱きしめる。


「アウッ!アアッ!夏美君…!」


 時田は激しい快楽を味わい、己の欲望を花びらに注いだ。

 すると。夏美が時田をベッドに仰向けに倒して、更に快楽の拷問にかけた。

 時田聡一はその夜。パーティが終わるまで夏美と身体を重ねた。

 そして、見事に夏美の虜となった時田聡一は絵画コンクールで夏美を選ぶというのを書類で残し、御礼として夏美とのセックスを快諾してしまった。


 パーティがお開きになる頃。

 奥の部屋から時田と夏美が出てきた。

 夏美の確信に満ちた顔を見て黙って頷く諒。


「いやぁ…今夜のパーティは楽しめた。また呼んで下さると嬉しいよ。海蛇諒君」

「それは何より……。またお越しください。今度は別の娘も紹介致しましょう」


 隠してはいるが随分と足腰に来てる時田聡一の様子を見て諒はからかった。


「随分と徹底的にやられたらしい。流石だな。夏美」

「私も少し疲れました……」

「……だろうな」


 そうして色と欲望の夜は終わった。

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