第9話 すみれの受難

 その夜。夏美が鈴村すみれを強姦するように依頼した日の夜。

 鈴村はいつものようにアルバイトをしていた。大衆酒場での皿洗いの仕事だった。まだ高校生の身の上ではこれくらいしかアルバイトが無いのも事実。

 いや。この時代では、大衆酒場での皿洗いをアルバイトとしてできるだけでも大した大衆酒場と言える。普通ならとっくに身売りに出されて淫売婦に墜ちるのが関の山だから。

 しかし、鈴村は両親が早くに亡くなり預けられた親戚も鈴村の事を、厄介者として扱い確かに一度、淫売婦になりかけた事がある。しかし、その光景を見たこの大衆酒場の主人がそれを辞めさせた。

 そして、身内という身内に見捨てられた彼女を憐れに想い、大衆酒場の皿洗いの仕事を紹介した。彼女はせめてもの恩返しにとせっせと働き、そして学費を賄っていたのだ。

 今夜も大衆酒場では賑やかな声が聴こえた。世間では日本が戦争に参加して、どうのこうのという話がされているが、鈴村にとっては今日を無事、生き残る事が最優先事項だった。

 そして、夜の21時。鈴村は仕事から上がる。


「ご主人様。もう夜の21時です。すみれちゃんを仕事から上げさせますね。本当ならこんな所で働いてはならない子だし…」

「すまない。すみれちゃんに促してくれ。それにしても親御さんはひどい。彼女の事を、愛人が産んだ子供だからって身売りをさせようだ、なんてね」

「本当。あの子自身には何もやましい事は無いのに……ひどい話です」

「とりあえず警察官が来る前にすみれちゃんをあげよう。何をされるかわからない」


 鈴村は皿洗いに専念している。時間を忘れて、一生懸命に。


「すみれちゃん。もう21時だからあがっていらっしゃい?警察官に見つかったら何を問い詰められるかわからないよ?」

「は、はい!わかりました」

「夜も遅いし、明日に給金を渡すよ。今日の分と明日の給金をね」

「すみません。ありがとうございます」

「気をつけておかえりなさい」

「はい!それではお疲れ様でした」


 大衆酒場の店主の男性に見送られ、鈴村は夜道を歩いて帰る。 

 この時代の夜道は危険極まりない。

 鈴村は急いで自宅のアパートへと歩くが、その道中に、後ろから男に襲われた。


「きゃあああっ!!」

「な、何をするのですか?!」

「うるせえ!中々、いい女じゃねえか?犯し甲斐があるぜぇ!」


 バリバリ!洋服がボロボロに千切られる。

 上半身が下着だけになる。

 スカートの下の下着も破られた。ビリビリと破られる。

 そして強引に男のものが入れられた。


「嫌ああっーーっ!!」

「へへへ……おっぱいは美味えかなっと!」


 下品極まりない音を立てて、男の舌がふくらみを舐め回す。

 乱暴に乳首を噛む。


「いやっ!止めて!やめてぇ!」

「一丁前に感じてやがる。おら!おら!もっとここ締めろや!」


 夜の路地裏。明かりがない暗闇に鈴村の悲鳴が聞こえる。

 暗闇の中で男2人が鈴村を犯す。

 黒い壁に押し込み、後ろから貫く男。乱暴な腰で出し入れさせる。

 鈴村が泣いて、悲鳴を上げた。 


「もう嫌!止めて!赤ちゃん!赤ちゃんできちゃう!嫌!いやああっ!」

「一発目、イクぞ、オラァ!」

「ああぅ!あハァ!あ…熱い…!」

「まだイキ足りねえ。一発入れたら、アソコがぐしょ濡れで動きやすいぜぇ」

「止めて!お願い…止めて…!」

「これだから…女を犯すの止められねえ」

「アン!アン!痛い!止めて!これ以上は…!」


 鈴村の悲痛な悲鳴が響くなか、男2人の強姦は果てしなく続く。

 そうして、何時間と玩弄された鈴村は、最後、余りのショックに放心として、夜道に倒れる。 

 下半身はからは血が流れ、男の無情な愛液も流れている。

 それから数時間後。

 何処かから悲鳴が聞こえるという通報を受けた警察官が、路地裏で洋服をビリビリに破られ、強姦にあった彼女を発見する。

 その頃には犯人は既に逃げ延びた後であった。

 

「こ、これは…!ひどい…!」 

「お前!大丈夫か!?しっかりするんだ!」

「もう……止めて……」

「意識が朦朧としている。担架だ。彼女を病院へ連れて行くぞ」

「は、はい!!」


 その夜の深くに、彼女は病院に運ばれたが、困った事に引き取り手がいないのであった。大正時代に誰かに連絡を取ろうにも、電話は勿論、固定電話だし貧乏人がおいそれと電話回線を回せるはずもない。回した所でアパートには彼女1人の独身。出られる者など皆無である。

 もしかしたらアパートの管理人は電話回線くらいは引いている筈だと思った警察官は彼女の所持品を調べる。

 財布とハンカチ。そんな程度しか無かった。財布にもしかしたら連絡先が入ったメモ用紙くらいはあるかと思い、調べてみると、誰かの連絡先があった。

 この際、誰でも構わない。とにかく、彼女に関係ある人間に報せないと。意識が朦朧として、さっきから「止めて」の一言をうわ言のように呟いている。

 

 真夜中の12時過ぎ、彼女を迎えにきたのは、梅原竜也うめはらたつやだった。そう。この人物の連絡先しかわからなかったのだ。


「鈴村!しっかり!俺が誰かわかるか?鈴村!」

「せ、先生…?」

「ひどい…一体誰が…こんな事を」

「先生…私…」

「しばらく……俺の家に泊まっていけ…鈴村」

「ごめんなさい……先生…」

「お前が謝る必要があるか?謝らせないとならないのはこんなにした奴らだ!」


 深夜の病院で泣き崩れる梅原竜也。

 鈴村すみれはまだ余りのショックから涙を流す事すらできないでいた。


 一方。海蛇みずち家の屋敷では。


「強姦は完了ね。御苦労だったわ」


 連絡役と一言、会話をして、夏美はあっさりと答えた。


「いい気味ね。鈴村すみれ。馬鹿な女。夜中にバイトなんかしているからこうなるのよ」


 と、吐き捨てるように台詞を吐いたのであった。

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