第21話 信頼の証
「どっ、どういうことですか陛下・・・いいや、父上っ!?」
アドルド王子が慌てふためく。
「まさか・・・ボケて・・・」
「ボケていたとしたら、それは今までだ、アドルド。私の創り上げたものの中で胡坐をかいていたお前には、試練を与える。一人で旅をし、自分の力でできることを見つけ出せ」
「ごっ、御冗談でしょ?今まで、そう、誰よりもこの国のために尽くしてきたこの俺が、なんで?」
しかし、国王はいつにもまして真剣な顔でアドルド王子を見据えていた。
その瞳を前にアドルド王子は震えながら、事実を受け入れ・・・
「いや、そんなはずはない・・・そんなはずは・・・。お前たちかっ!父上をたぶらかしたのは!?どうせ、魔法で心を操ったとかそんなところだろうっ!?道理でおかしいと思ったんだ、父上がそんなことを言うはずがないっ!!」
自分を客観的に見れていないアドルド王子が滑稽でかわいそうになった。きっと、世界は自分中心に回っていると考えており、その考えで私のような身近にいた人たちの幸せを踏みにじってきたことに気づいていないのだろう。
「そんな魔法はありません・・・っ」
私はユリウスの背中から顔を出しながら言う。
「ふん、そうやって俺をたばかったのだろう?俺が聞いた時には使えぬと言っていたくせに、この魔女が」
「彼女は魔女じゃない。アドルド。聖女だ」
ユリウスは私を庇うように一歩前へ出て横に腕を伸ばす。
「ああん?ユリウス。大臣ごときがこの俺様を呼び捨てだと?ふふっ無礼を働くなど、例え乳母兄弟といえど、不敬罪だ。そうでしょ、父上」
ユリウスは後継者の話が耳に入っていないのか、いや入っているからこんなに怒っているだろうになんでも都合のいいように記憶をねじまげてしまうようだ。媚びた態度で国王にすがる。
「ユリウスは私の子だ。私とお前の乳母であるマリアの子。つまり、第一継承権はユリウスにある」
「・・・なんとっ」
固まり、震えながらユリウスをもう一度見る。
どうやら、立場は逆転したようだ。
「嘘だっ!!みんな、みんな心が操られているんだっ、そうに決まっているっ!!」
国王は悲しそうに目を閉じる。
「なら、なぜ君はかからないんだい?アドルド」
「それは・・・あれだ、神に愛された俺だからだ。それか、強靭な精神力が不純な魔力を弾いているに・・・決まっている?」
少しずつ自信が無くなってきたアドルド王子。
そんなアドルドに近づいていくユリウス。
グッ
「じゃあ、這い上がって来いよ・・・っ。アドルドっ!!」
ユリウスは胸ぐらを掴んでアドルドにそう吐き捨て、突き飛ばした。
呆然とするアドルド王子。それもそのはず、今まで聞き分けが良く、注意するにしても柔らかく注意していたユリウスが強く言ってきたのだ。それが当然だと思っていた人間にとってはびっくりの連続で戸惑うのも無理はない。
私にはユリウスとアドルド王子の確執なんて全然わからない。けれど、ユリウスは振り返って再び私の傍に返ってくるときに拳を固くしていた。本当は殴りたかったのかもしれないけれど、鼓舞するにとどめたのはきっと―――この人のため。
「アドルド」
国王が再び、アドルドを呼ぶと、放心状態に近いアドルド王子が国王を見る。
「お前も・・・私の息子だ。必ずや、切り開けると、信じている。そして、ユリウス」
「はい」
「アドルドが改心したのであれば、それに応じた・・・立場を・・・用意してやれ」
「はい」
「そして・・・この国を頼んだぞ」
「はい・・・っ」
「三銃士諸君」
「名前で呼べってんだよ、馬鹿王め」
ホルンさんがぐすんとしながら、悪口を言う。
「始めだけ・・・アドルドの面倒を見てやってくれ」
「あぁ・・・」
ベータさんが返事をした。
ダグラスさんは泣いていてそれどころじゃなかった。
「ふふっ・・・ダグラスとホルンもいいか?」
「おうっ」
ホルンさんが元気よく答える。
「たくよ・・・俺たちの旅はあれでお終いだって言っておきながらよぉ、息子を迎えに行かせたり、息子の旅に付き添わせたりよぅ・・・」
睨むようにダグラスさんが王を見るけれど、その優しい瞳を見て、
「わかったよっ」
と不機嫌になりながら返事をした。
「さて・・・最後にメーテル様」
「はいっ」
「うちのせがれが申し訳なかった。そして・・・うちのせがれを頼む」
「・・・はいっ」
国王はニコっと笑った。
「さて・・・そろそろ二人の元へと行こうか・・・な」
バタッ
「「国王っ!!!」」
「陛下っ!!!」
「父上っ!!!」
「父上・・・っ」
建国の父ネイアス王が崩御された。
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