第14話 嫌いなところ

「メーテル・・・」


 私もいっぱいいっぱいだった。

 不安や悲しみはこの1年で徐々に無くなっていったつもりだったけれど、そういった感情はこの豊かな自然が吸収してくれていたわけではなく、どうやら私の心の奥に仕舞いこんでいただけだったようだ。


「・・・っ」


 ユリウスの目がちゃんと見れない私は目を背けた。

 ユリウスも私の拒絶はかなりショックだったようでいつもの心のゆとりはなくなっていた。ユリウスをそんな風にしてしまっているのが、自分だと思うと自己嫌悪になった。


 けれど、私はなんとユリウスに声をかけていいのかわからないし、答えが返ってきたところでちゃんとその言葉に返事や気の利いたことを言える自信がなくて、何も言えなかった。そんな風に戸惑っている私を見て、ユリウスも声を掛けることはなく、重い空気が私たちの部屋に広がった。

 

「聞いてください、メーテル様」


 そんな沈黙を破ったのは、兵士のダグラスだった。

 私はダグラスを見る。


「ユリウス様も初めは知らなかったのです。陛下は自らの死期を悟り、あの日我々や信頼できる側近などを呼んで教えてくれたのです。ユリウス王子のお母様、マリア様と愛を育まれたことを・・・」


「愛を育む?冗談じゃない。そんな不貞行為・・・許されるべきではないっ。母さんがどれだけ・・・どれだけ・・・僕が・・・」


 私は王妃やユリウスもお母様のことはよく知らない。でも、ユリウスとアドルド王子のことはそれなりに知っているつもりだ。

 乳母兄弟・・・それもアドルド王子はあんな性格だったのだから、ユリウスがこんなにも温厚で見識が広いのもいろいろと辛い経験があったのかもしれない。

 

「あの日、陛下はユリウス様が出ていったことに大変気が滅入っておられました。それは自身の過去を後悔されるように」


「後悔?僕を生んだことを?それとも母さんを愛したことをか!?」


 声を荒げたユリウスに私は怖く感じてしまう。


「えっ、いや・・・今のは・・・私の言い方が悪く・・・」

 

 武勇を重ねて今は軍団長レベルであろう、強面のダグラスが必至に弁明する。


「まぁ・・・いいよ。僕は行かない。僕はメーテルがいれば・・・」


 カツカツカツ・・・


 私はユリウスに近づいて行った。


 パチンッ


 私はユリウスの頬をビンタした。

 初めてのビンタで分かったことは、ビンタした後自分の胸もジンジン痛むこと、だ。




 

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