彼は、そういう覚悟を持ってくれる人なのかな

大きな力を行使する為には、同じ目的の為に動く仲間が必要だっていうのは私にも分かる。だから<派閥>っていうものはできるんだろう。


どうしてもあまりいい印象のない<派閥>というものも、ないと困るものなんだろうな。


ただ、そうやって<群れ>を作ると、本来は<ある目的の為に力を合わせる同志の集まり>でしかなかったもの自体に意味が生まれて、その<群れ>そのものを維持することが目的になってしまうっていうことは起こるんじゃないかな。


もちろん、同じ目的の為に力を合わせる仲間は必要だと思うよ? 私にとってのメロエリータやアウラクレアやリレ達奴隷の子らや、キラカレブレン卿もそうだと思う。みんな大事な仲間だ。


でも、<その集まりそのものを維持することが目的>になってしまうと、何か別のものになっちゃう気がするって言うか、集まりを維持する為には目的だって変えるなんてことが起こってしまうのも事実なんだろうな~。


キラカレブレン卿はどうなんだろう? <派閥>を守る為なら本来の目的さえ二の次にしちゃう人なのかな。もしそうなら、いくら私のことを愛してくれてるって言っても、たぶん、一緒にはいられない。


私は、自分の本来の目的を見失いたくないんだ。その為なら、カリン商会だって捨てる覚悟は持っておきたい。


私の目的は、この世界から飢餓をなくすこと。<カリン商会>はあくまでその為の道具でしかない。その道具の為に私の目的を捨てることになったら、それこそ本末転倒だ。


彼は、そういう覚悟を持ってくれる人なのかな。


ツフセフラフト村の復興とカレン商会ツフセレリアス支社の設立が軌道に乗った手応えを感じたことで、一度、クレガマトレンに帰ることにした私は、その日を前に彼に思い切って訊いてみた。


「キラカレブレン卿。あなたは私の力になりたいと言ってくれましたね。じゃあ、もし、私が自分の目的の為に今の地位も立場も捨てると言ったら、あなたはそれでも私についてきてくれますか?」


そこまでのことを思い切って訊けるようになったのは、彼が実際にここまで私の力になってくれたっていう実感があったからだと思う。照れくさいとかドキドキするとか、そういうこと以上に彼に私の目的を達成する為に任せたいことがこれからも出てくると思うからこそ、今、ちゃんとしておきたいんだ。


ツフセマティアス卿の屋敷の庭園で月の光を浴びながら、彼と真っ直ぐ向かい合った。明るいところだときっと顔が真っ赤になってしまうからできないことだけど、夜だから思い切れた。


だけどその時、


「それは……」


と、彼がそう呟いて視線を逸らした。


瞬間、私は決心した。


『ごめんなさい。少なくとも今は、あなたと一緒に人生を歩むことはできないみたいです……』


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