さすがに今まさに自分達が被害に遭ってる状態だからか

さすがに今まさに自分達が被害に遭ってる状態だからか、農民達は真剣そのものだった。私が堆肥を作る為の魔法をレクチャーすると、次々にマスターしていった。


「気を付けてください。びちゃびちゃだったり臭いが残ってるのは失敗したっていうことです。その状態の堆肥は畑には撒かないでください。呪われてしまいます。こちらの本当にただの土のようになってるのがいいんです」


練習用に用意してもらった馬のウンチで試して確認してもらう。中にはやっぱり呪文を間違える人がいて失敗もあったけれど、それはむしろどこが問題なのかっていうのを説明する上で役に立った。失敗した人も自分がどこを間違えたのか理解することで、ちゃんとできるようになっていった。


間違えるというのは、物事を正しく理解する上においてはむしろ必要なことでもあると思う。失敗するのはいいんだ。大切なのはその失敗から学ぶこと。それさえできれば失敗なんて怖くない。


「みなさんもご存知の通り、農というものは一朝一夕でできるものじゃありません。みなさんの祖先が何度も失敗しそこから学んで土を作り上げていったことで良い作物が採れるようになってきたんです。今回のこともそういう失敗の一つだと考えてください。同じ失敗をしなければそれでいいんです。


私がファルトバウゼン王国に豊作をもたらすことができたのは、ただ、畑が持ってる力を上手く引き出す為の方法を見付けられただけなんです。都合のいい便利な魔法を畑に掛けた訳じゃありません。しかもそれは、その畑の素性やその土地の気候によっても使えたり使えなかったりする方法です。


ですが、昨日、私がここの畑を確認したことで、ファルトバウゼン王国でのやり方がそのまま使えるだろうことは確かめられました。なので今から、ブラドフォンセス国王陛下に拝謁賜り、私のやり方を導入していただけるように進言してきます。


ただ、今回の呪いが解けても土は少し弱ってしまいましたので、来年の収穫はいつものそれより落ちるでしょう。しかし、さらにその次の年には持ち直し、またその次の年には大きな収穫を得ることができるようになると私は見ました。


私は、『今すぐ大豊作にしてやる』とは言いません。ですが、三年を目処に今よりは収穫が増やせると断言します。


その為にも、まずは今、畑に掛けられた呪いを解いてください。私がブラドフォンセス国王陛下に謁見している間に呪いを解いていただければ、戻り次第、畑を甦らせる手伝いをさせていただきます…!」


この時集まった人達全員が間違いなく堆肥化の魔法を使えるようになったことを確認した後、私は、メロエリータに言われたことも少し心掛けて、堂々とそう言い放ってみせたのだった。


もっとも、内心ではドキドキものだったけどね。


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