第80話

「え、断られた。」

「はい。」

「どうしてなの?」


王女の言った条件を提示はする前に断られたが彼の行動を見ると無駄だったと推測できる材料は十分にあり自分の考えはおおよその範囲内だと思われた。


「殿下の出した条件を言う前に断られました。

 街に入ることを望んでおりませんでしたので、

 今回は街までの道のりを確認するのが目的だったように感じます。」

「なるほどねえ。

 あなたは私の考えたおもてなしをするとお答えする前に断られたということですね。」

「はい。」

「正直なのは良いことだけど、それでわたくしが納得するとお思いで。」

「思っておりませんがまさか殿下もあろうお方が国民でもないお方にアポすらとらずに押しかけ、はたまた自分の家に招待したいと相手の都合も考えずに強制されるような方ではないと知っておりますがその点を踏まえて今回のことを計画しておいでで。」


彼らと出会った。初めに自分の言った言葉と照らし合わせれば民のために頭を下げることはしても他国には下げてはならない。

ならば他国の人間でもない民でもない変人の恩人にはどう報いるべきか礼節を弁え、その恩人にあった礼を尽くすほかなし。


名誉も金も要らないのならば他のことで報いれることは無いのか考えるのが彼らを持て成す上でもっと良いことではなかろうか。


「ならもし街に訪れた時に他の方々と何ら変わらない対応にしていただくのがいいかもしれませんね。」


それが最良かはわからない。

しかし今回のやり方が良くない方法で会ったことは確かだ。

わざわざ国の暗部を動かして接触しようとするなんて権力を思うがままに使っている悪徳貴族と同じことだ。


「むむむ。」


自分の行いとの葛藤が彼女の今後にどう作用するのかはまだわからない。

でも一歩一歩確実に民を思う王、理想の王と誰もが羨望する野心も兼ね備えた王。

民を決して置いていくことはさせないための王を彼女は見つけようとしている。


「最高のおもてなしを不快にさせないようにするにはどうすればいいでしょうか。」

「なんか、難しいこと考えてんな王女様は。」

「あなたには最高のおもてなしが分かるのですか。」

「わかんねえな。

 でも最高のおもてなしってのはよ。

 相手のためを思って考えて行うから最高のおもてなしになるんだろ。

 アンタが考える最高のおもてなしは贅沢な料理や自分のしてることを差すんだろ。

 俺たちには知らない文化ってものがあるし最高のおもてなしなんてものは存在しねえ。

 いかに相手を笑わせること。

 それが庶民の最高のおもてなしってもんよ。」


ニカっと笑ってとりあえず酒を出す。


「宗教によっちゃ特定の生物を喰わなかったり酒が禁制かもしれねえ。

 まああんちゃんたちは自分で取った自然の恵みしか頂かないってやろうじゃないとは思うがそういうケースもある。

 でも彼らを楽しませることができるのは何もモノを送ることじゃねえんだ。

 あのあんちゃんにはお礼をできないが神牛様にはお礼ができるかもしれないだろ。」

「神牛様にですか?」

「そこの暗部の姉ちゃんにも命じたことだよ。」


色仕掛け。

それを神牛様にやってもらうのだろうか。


「俺が言いたいのはあんちゃんが神牛様と結ばれやすい状況を作れってことだわ。」


シチュエーション作り。

これに燃えない乙女はいない。

何よりも二人の恋仲具合を間近で見られるチャンス。


「最高の酒の肴作りだな。」

「でも面白そうですね。」

「おいおいあくまでもあんちゃんをその気にさせる方法だぜ。」

「ふむ殿方ってどんなことをすればこちらに気を引いてくれるのでしょうか。」


明らかに神牛様は好意を向けていることは確かでそれを気づいている男性の彼に対してその気にさせるのは至難の業ではない。

気づいていて手を出していないのは嫌いなのか興味がない。

もしくは彼自身に何らかのコンプレックスを持っていてその気に慣れないパターン。


前者であるならばそもそも同行を許可していないだろうし興味がないなら構うことはない。

よって後者であるコンプレックスを持っているパターンと考えられるのが妥当だった。


「前も言っていたがあんちゃんは傷跡があったことがトラウマになってる。

 今は神牛様が治したのかは知らねえがきれいさっぱり消えている。

 多分あんちゃんが望んでやったことではないだろ。」

「どうしてですか?」

「傷があると人の悪意も見えやすいんだよ。

 あそこまで大きな傷を持ってれば同情だったり忌避の目で見られることの方が多い。

 傭兵稼業やってたやつらでもあそこまでの傷はそうそうお目にかかれるもんじゃねえ。

 人の本質を勘繰るクセが付いちまうんだ。

 もしその根源を担った傷がぱっと無くなっちまえば誰だって聞きたくなる。

 今まで人間の本質を探ろうとしちまったクセが悪意を感じさせ正直になれないのさ。」

「あなたはとても詳しいですね。

 ただの村人からの盗賊とは到底信じられないと思うほどに博識です。」


元盗賊のあんちゃんは一村人とは思えないほどの知識の豊富さを出していた。


「そちらの方は元々は旅人であった父親から預けられてその村に定着したお方ですので他国についても我々以上に知っていることが多いですよ。」

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