第44話
「見えていても見えていないそれが一般人にとっての霊覚ですかね。」
「これを見てもまだそんな余裕があるとは無知とは罪なものですね。」
拮抗していた形勢が覆しているとでも言いたげ
「いえいえ、これでも未知なる存在に対して脅威を感じ取っているんですよ。」
「そのような口ぶりの割には警戒心がまるで表に出ていませんがポーカーフェイスはお得意なのでして?」
「親の前でも笑顔が嗜みですよ。」
中々壊れたセリフを言う。
刀赤の血筋を考えれば不思議ではないが、決して社会に出ていないモノが話していいセリフではないだろう。
「それを嗜みにしてしまったのはあの腐れ爺いですか。」
孫娘に訓練を強いてきた自分が言えることではないかもしれないが孫娘はまだ自分に悪意を向けている分マシかもしれない。
人の優しさに触れることなく育ったかのような瞳に育て上げた人物がこれ以上なく憎く感じた。
同じ人を育てる立場として目の前にいる人物をことごとく否定しなければ自分を肯定できない。
自己満足のために
「共を極めたモノは霊覚によって感知できる物の理とは別の力を扱えるようになります。
あなたこの霊力を受け止めることができますか。」
気配の身がこちらに襲い掛かる脅威を感じ取る唯一の手段となる攻撃が放たれている。
「あの、おじさま、幹さんには見えないんですか。あのナイフが。」
「お嬢様には見えるんですか。
私には何かしらの妖怪に近い力を感じますがナイフみたいな明確な物体は感知できませんが。」
「良い目だな。
おそらく長いこと神に魅入られていたから既に五覚を会得しているんじゃろう。
神の触れているということはそもそも一つだった感覚のことを思い出しているのだから五覚の会得も早い。
儂にも見えはする。
ナイフのような突起物が幹を襲っているな。
ではなぜ幹とそこの孫娘に見えないのかだがどちらも片方足りて片方無いだけだ。」
幹の方を見ていればとにかく感知している刃物を避けきるしかなかい状況に攻めあぐねていた。
そう攻めあぐねている。
漱歌は自身が推していることは確かなのに防御に回るどころか攻撃するために向かってくる幹に対して脅威を感じ取っていた。
共はとても万能な力に見えてそうではない。
「ほう、幹は気づいたか。」
「何をですか?」
「お前さんも知っているとは思うが霊力を使った力を使うと異形に対して抵抗力が落ちるのは知っているな。
五覚を使った技もその例外ではない。
あの女狐は上手いこと修練して抵抗力が落ちないようには努めているが具現化する事象の術は莫大な霊力を要する。
そして幹はその肉体自体が異形みたいなものだ。
全ての攻撃が弱点になりかねないんだからあのばあさんが倒れるのは時間の問題じゃぜ。」
制空権とでも言うべきか。
人にはあらかじめ身に着けている技能が存在する。
視界に入れた障害物を避ける技能。
焦げ臭い匂いを感じ取ればすぐさま火元を確認しに行く技能。
技能には到底思えないかもしれないそれは確実に技能と呼べるものではある。
「なんて身体をしているのですか。
当たり前の技能を共に組み込むのはまだわかりますが恐ろしきはその技能を可能にする肉体。」
ことごとくを否定しようとして返り討ちに合っている気分でしかない。
否定できないのだ。
彼の避けるための技能は疑いから来るもの。
人間という生物において猿からの進化の過程で最初に獲得したと言っても過言ではない技能。
疑うということは木から降り今までの歩き方を変えることが始まり。
哲学者が生まれ
学者が生まれ
数学者
物理学者と
様々に派生していった。
彼らに共通する点があるとすれば自身の疑問を解消するためならば死すらも受け入れる知を求めたこと。
刀赤 幹の人生は到底共感できるものではない。
だからこそ否定しなければいけない。
しかし共感できないからと言って否定することが正しいとはまた言い切れない。
「時偶流・五覚・死開門」
彼から感じてはいけない筈の代物が見えた。
「私以上に濃い。」
霊力を扱う上でそのエネルギー体の放出量はその術者の力量そのものとなる。
「長くは持たないので短期決戦になると思いますよ。
あとはきちんと全力を出さないと私はあなたがどうなろうと知りませんから。」
初めてこの少年を怖いと思った。
人を人とも思わない目で見る彼に対して。
その考えに行き着いてしまっている過酷な人生を現代社会の人間が遅らせたことについてもだ。
そしてこの人間は一切躊躇しないだろう。
なんせ。
「死合いにおいては全てが平等なのじゃよ。
なあお嬢さんがた筋肉をつけたモノとそうでないモノには差があるのに何故歯や爪と言ったモノを使った方が捕まるか考えたことはあるかのう。
条件は、筋肉のないモノは打ち身のみで筋肉の付いたモノは切り傷を生んでいるとしてじゃな。」
「そんなのけがをさせた方が悪いからじゃないですか?」
「…詩………さん……気づい…て……。
…筋肉を……つけ…ている…人……は…身体を……少な…から…ず……凶器…にしてい…るの…に対し…て…筋肉…のな…い…人…は…元か…ら…持って…い……る…凶器し…か使っ…て…いない……。」
ここで初めてミウスさんが口を開いていた。
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