第29話

「ふう、今日も何とか乗り切った。」


放課後になってからは猛ダッシュで駅にまで向かった。

ミウスさんがこちらを追ってくるのは目に見えていたからだ。

案の定


「mouuuuuuuuuu!!」


ドドドドドドドドドと競馬擬人化ソシャゲのように凄い威勢でこちらに猛突進してくる。


「アレ何かしらね。」

「きっと痴情の縺れよ。」

「確かにそう思うけど彼氏の気持ちもわからないでもないわよ。だってあんなに迫られているんだし億劫な人なら逃げちゃうでしょう。」


偶々オープンテラス付きのオシャレなカフェでお茶会をしていた奥様方が第三者から見た彼らの現状を実況していた。


「でも男の子の方は結構体格はしっかりしていそうだけど。」

「あれじゃない?自信をつけようと筋肉はつけたけど自身は付かないままで臆病なのがばれたとか。」


昨今の男性の草食化が激しいだの、若者の童貞率が上がっているだのだの。

ひたすら話題に事欠かないマダムたちはこの痴情の縺れにしか見えない事象は古今東西からの奥様の話題である。


「でも浮気はいけないでしょう。」

「学生のうちはひと時の過ちで良いでしょう。盛り上がって流されるのはよくあることだわ。」


浮気にも寛容な世代だ。

もちろん不倫は許さないがおしゃべりをする程度なら許容できるヤンデレはあまりいない世代。

むしろ彼女たちからすれば最近の若い子たちは独占欲が強すぎるせいですぐに離婚だとかになるのだと思っている。

自分たちも子どもがいるから結婚している節はあるけれどもそれでも女としての幸せは実感したし子どもは独り立ちするまで守らなければならないと思っていた。


「確かあの子って皮膚に手術跡でできる奴を抱えている子でしょう。前校長が身内贔屓するために追い出そうとしたって言う……。」

「でもそれって結局生まれの問題なのよね。」

「保護者も保護者よ。妊娠するときにもし帝王切開になったときのリスクを知っているのならあの子の傷を理解していて当然なのに。」


刀赤についての情報源は奥様方の間ではいつも懇意にしているもう一人の奥様だ。

刀赤が聞けばそんなこと言うのは一人しかいないと思う人物が思い浮かぶが後ほど答えが出るので割愛させていただく。


「あの子もあの子で親が確か参っちゃって親とは別居しないといけない状態らしいわ。」

「子育てに失敗したのはしょうがないかしらねえ。幼い時からあの傷跡があるんでしょう?」

「ええ、私も知り合いの教師から聞いた話だけどあんまり好意を向けられて育ったことが無いのよ。」

「あの女の子の恋は成熟しそうになさそうね。」


稀にだが好意に鈍感になり過ぎて疑心暗鬼のまま育ってしまう子どももいた。

そういった場合は反抗期になることなく育っていることが多いので非常に危険だ。

奥様方の間にもそういう風に子どもを育てた経験のある人も居るので心配な気持ちでもあるが今は痴情の縺れとはいえ確実に好意を前面的に見せられているのだから安心してお茶菓子として見ていられると踏んでいた。


「あ、そういえばあの外国人の子とは別に今学校を持っている企業グループの娘さんが確かあの子と同じ病院に通っていて興味を持っているそうよ。それでわざわざ同じ学校に編入したって皮膚科の先生から聞いたわ。」


奥様方はトレンドなどに敏感だ。

若者以上に意味を知っているから若者との齟齬を生むこともあるけれどもその情報収集及びそこから算出される予想的中率は馬鹿にならない。

近所の奥様方は伊達に昼ドラを見ていないのだ。


「なら高校生にしてドロドロした関係が見られるのかしら?」

「それはそれで面白いわ。」

「ええ、皮膚科の先生も知っているだろうしきちんと聞いてみましょうよ。」


このあたりの奥様方は刀赤たちが通っているOGが大多数を秘めており学校案内、校内新聞なども読むほどの溺愛っぷり、学校に居ない人たちなのに学校のことを誰よりも知っている人物でもあった。


そんなことはつゆ知らず。

ただひたすらに走らなければ逃げ切れない。


駅のホームに辿り着くとタイムラグ2秒の交通電子マネーの決済をショートカットするためにスライディングと同時に滑り込み電車に駆け込む。


「な、なんだ。」


駅の係員は突然のアクション映画さながらの駅のホームの入り方をする高校生がいることから、

高校生が仲間とはしゃいで迷惑行為でもやっているのかと思った。

しかし、後を追うように凄い踏み込みをした女子高生が来るのだから目を見張った。


「ち、痴情の縺れか……?」


この駅の係員は新入社員で彼女ができたばかりの恋愛新人でもあった。

大学に居た頃は勉学に集中していて自分の魅力に気が付かなかったが社会人になってお金にも勉強にも一通りのペースがつかめてきたので女性との関係を持てるようになっていた。

そして彼は大学の仲間から合コンに誘われてしまった。

彼女がいるにも拘わらず。

だが目の前起こっている状況を見てみれば

ここまで迫り狂う女性のがいると知れば合コンに行く気は完全に失せ今の彼女と幸せになったらしい。


「く、それでも追い付かれる。……なら!」


刀赤はそれでも追い付かれそうになることを悟ると異世界への無料パスポートを発動させた。

少なくともここから人目にさらされるのを避けるために発動させた。

ミウスも何かしらの異世界への移動手段を確立させていることが前提での行動のため逃げ切れるとは思っておらず事実上の負けを認めるために発動させた。


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スライム道

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