正直者は何を見る(法王の正位置)
普段何も話さない『法王』の正位置さんは、目で語ってくる。大体私に対する注意が多いのだが、この日は違った。
「……」
「……えと、お前に問う。正直者は何を見る?」
「……」
「あ、合っているんだね。正直者は何を見るか……」
彼から何かを問われるのは初めての事だった。最初は何かのジョークかと思ったが、彼がそんなことをするはずがないので、真剣に言っているのだと思った。
「一般的に正直者は馬鹿を見るとか言われるけど、貴方が聞きたいのはそういうことではないんだよね。私なりの解釈を聞かせろってこと?」
「……」
「そういうことなんだね、分かった。少しだけ時間をくれる?」
無言の承諾を得た私は、1人考えてみる。自分や他人に正直に生きる事は美徳とされているが、実際は偽りばかりが飛び交っているように思う。最近では正直に言った人の方が損をしたり、叩かれたりする始末だ。
「正直者って、今の世界では損することが多いように思う。本当の事を言っているのに信じて貰えなかったり、罵倒されたり……嫌な事ばかりだな」
「……」
「でも、何時だって正直な人は、人から信頼を得る」
何を信じるのかは、その人次第ではあるが、信じているものだけが全てとは限らない。自分の信じるものを守る為にと否定してしまったものが、後から必要になることもある。真っ向から否定するのではなく、そういう解釈や使い方、捉え方もあると考えてみる方が良い。
「貴方の言う正直者って、そういうことなんだよね。なら私なりの解釈はこう、正直者はあらゆる可能性を見る」
「……」
「正しさと間違い……その両方を見ることが出来るのが、正直者だと私は思う」
私の回答に、相変わらず無言の彼だったが、少しだけ目を細めたのが分かった。
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