Tale6:やはり私たちの女神様は美しいです
はじまりの森から、私たちは一度リリアのいる白い空間に戻ってきた。
『リリア様、おかえりなさい』
いつもそうなのだが、リリアが可愛すぎるせいで、私がこの空間に滞在している時間は長い。
これに関しては、全プレイヤーの中でもトップであると自負している。
今回も長距離移動の経由のために戻っただけなのに、すぐ出ていくのがもったいなくてお喋りを始めてしまうのだ。
「ただいま、リリア」
「女神様、ただいまですっ」
私とスラリアの返事を、優しく微笑みながら受けるリリア。
腰まで流れるさらさらの金髪は、見た目だけでしっとりと指通りが良いことがわかる。
そして、落ち着いた色合いの碧眼は、永遠に眺めていられる宝石のようだ。
『あの、そんなに見つめられると、恥ずかしいです……』
少し頬を赤らめて、リリアは俯きつつ言ってくる。
開いた口は、この世でもっとも美しい小さな紅い花びら。
赤らんだ頬は、思わず食べてしまいたくなる魔性の果実だ。
『うぅ、リリア様が、どんどん私の言うことを聞いてくれなくなっています……』
よし、十分に可愛い成分を摂取した。
あれ? なぜかリリアが顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
なにかあったのかな……?
「女神様っ、私が戦うの見ててくれましたか?」
『ふふっ、見てた見てた。かっこよかったね、スラリアちゃん』
押し倒すぐらいの勢いで、リリアに抱きつくスラリア。
その頭を撫でながら、リリアは女神な表情を浮かべる。
「えへへっ、女神様が鍛えてくれたおかげです!」
ごろごろにゃんと聞こえてきそうなぐらい、スラリアはリリアに甘えていた。
ちょっと嫉妬しちゃうけど、まあリリアならいいか。
「ねえ、リリア」
『リリア様、どうしました? 嫉妬ですか?』
あれ、なにか怒ってる?
顔は笑ってるんだけど、なんか怖いぞ。
「いや、嫉妬はしてるけど、そうじゃなくて……スラリア、強くなりすぎじゃない?」
私がログアウトしている間に、よくスラリアがリリアと特訓させてもらっていたのは知っていた。
しかし、ステータスにおいては同調を使用しているときの方が上だけど、戦いの動きとしてはスラリア単体のときの方が良いのではないだろうか。
『あはは、私がスライムの性質をインストールして動きを見せたら、それを覚えちゃったんですよね』
そう、あっけらかんと言うリリア。
まあ、運営側のリリアが構わないと思っているなら、私にとってはメリットしかないことではあるんだけど。
『私に与えられた権限の中でサポートしているにすぎないので、大丈夫です』
じゃあ、リリアが怒られるようなことはないのか。
そうであれば、甘んじて享受することにしよう。
『ふふっ、ご心配いただき、ありがとうございます』
私の表情から推し量ったのか、もしくは思考を読み取られているのかはわからないが。
微笑むリリアは可愛いから、別になんでもよくなる。
「ところで、さっき倒した狼ちゃんが『ドラゴンに故郷を追い出された』って言ってたんだけど」
『はい、把握しておりますよ』
ゲームとして設定されたイベントだとわかっていても、狼ちゃんの悔しそうな表情を見てしまってはなにもせずにはいられない。
ただ、狼ちゃんに後から聞いた“山をいくつか越えた先の森”という情報だけで故郷を探すのは難しい。
「その故郷の場所、詳しく聞けなくて……リリアに教えてもらえたりするかな?」
『ふむ、そうですね……直接その森まで送ることはできませんが、そこから一番近いであろう街を紹介することはできます』
あれだけ大きい狼ちゃんがいた森だ。
近隣地域まで行けば、きっとなにかしらの情報を得ることができるだろう。
「ほんと? ありがとう、そうしてくれると嬉しい」
『リリア様、ひとつよろしいですか?』
私の感謝に、ふいにリリアは真剣な眼差しを返してきた。
どうしたのだろう……?
とりあえず頷いて、それを返答とする。
『いまの話に出てきたドラゴンにリリア様が勝つのは、現段階では厳しいと言わざるをえません。本来、リリア様がシルバニア・ジャイアントウルフに勝利したこともかなりの番狂わせなのですから』
なるほど、心配してくれてるのね。
わかりやすいな、この女神様は。
「確かに、上手くピースが嵌まったから勝てたみたいなところはあるね」
もう一度戦って勝てるという保証はまったくないし、もしかしたら百回のうちの一回がたまたま起きたのかもしれないのだ。
では、さらに強力であるドラゴンに挑むことは諦めるのか。
答えは否、それはテイマーとスライムの私たち
「無謀と思われるかもしれないけど、それでも、私はあの子たちを故郷に帰してあげたい」
もちろん本当に無謀であるのは嫌いだから、ちゃんと作戦を練ってから挑戦するつもりだけどね。
心配してくれてありがとう、そんな気持ちを込めてリリアを見据える。
すると、しばらく見つめ合った後に、リリアは顔をほころばせた。
『ふふっ、やっぱり、それがリリア様の紡ぐ物語なのですね』
楽しそうに肩を揺らすリリア。
思わず私も笑顔になってしまう。
「面白かったら、本にして『テイルズ』の宣伝に使ってくれてもいいのよ?」
『なるほど、それもいいかもしれませんね……』
私の冗談に付き合ってくれて、リリアは宙を見上げて本気で考えている素振りをした。
まあ、冗談だろう。
ややあって、こちらに向き直って言う。
『さて、どうしましょう、さっそく先ほど言った街に向かいますか?』
ちょっと首を傾けつつ聞いてくるリリア。
本筋に関係ないことだが、スラリアはいつまでリリアに甘えているのだろうか。
まさか、私がいることを忘れているのではあるまいな。
「ううん、
そう伝えると、姉弟仲が良いのは羨ましいことですね、とリリアは微笑むのだった。
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【名前】リリア
【レベル】28
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度8
【名前】スラリア
【使用武器】ローゼン・ソード:習熟度5
【ステータス】
物理攻撃:105 物理防御:55
魔力:80 敏捷:35 幸運:50
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉、魅了、同調、不器用、統率
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ちなみに、統率のスキル効果は、範囲内の任意の対象のステータスを小程度だけ増加。
このステータスというのは物理攻撃、物理防御を指すらしく。
その上昇率はスライム強化ほどではないが、“複数を対象にできる”という点でかなり優秀なスキルなのだそうだ。
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