Tale15:女神の掌上で、よく踊ってください
後ろを振り向くと、真っ白な空間を背景にぷにぷにとした物体がいた。
透き通るような青空がそこに凝縮したかのように、ふよふよと揺れている。
スラリアが聞いているのを知っていて、リリアはスライムが弱いとか煽るようなことを言っていたのか。
「スラリアっ!」
「ぷにゅぷっ……!」
ラグビーでトライするかのような勢いで、私はスラリアに抱きついた。
こんな動きは現実でもやったことなかったけど、すごく綺麗に決まった気がする。
1ポイント獲得、かな?
勢いが余って、私たちは白い世界の摩擦があるのかないのかよくわからない床を数メートル以上滑っていく。
「ごめんね、私がもっと強かったら……」
スラリアのぷにぷにボディに、もう離さないと言わんばかりにしがみつく。
あのハンマーハゲ、こんなに可愛いスラリアを躊躇いなく潰しやがって。
今度会ったら、すでにツルツルなハゲ頭を紙やすりで磨いてもっとピカピカにしてやる。
「ぷにゅににゅぷにゅ……?」
「えっ? あっ、いや、なんか安心したら……」
いつの間にか、私の涙がスラリアの身体にぽたりぽたりと染みていた。
それが冷たかったのか、スラリアはぷにりぷにりと揺れる。
『ふふっ、リリア様、スラリアちゃんと同じことを言っていますね』
後ろからリリアの声が聞こえて、私は座ったまま首だけ振り向いた。
「同じこと……?」
『自分が弱いからお姉様を守れなかった、もっと強い魔物を連れていたら負けなかった――スラリアちゃんは、そう言っていました』
抱きかかえるスラリアの、揺れる水面のような身体を見つめる。
目は見当たらないけれど、なんだか目が合っているような気がした。
「ぷにゅ……」
「バカね、もう」
想いが伝わるように、スラリアを強く締め付ける。
しばらくすると、もう苦しいよ、とでも言いたげに揺れてきた。
確かに、いつまでも
私たちは、いっしょに進んでいくしかないのだ。
「ふふっ……よしっ! スラリアっ、行くよ!」
「ぷにゅにゅっ!」
スラリアを抱えたまま立ち上がり、拳を高く突き上げる。
えいえいおー、ぷにぷにぷー。
『……あなたの物語は、優しいから強いのね』
「ん? なんて言った?」
「ぷにゅっぷに?」
リリアのつぶやきは、私の耳に届く前にぷにぷにと形を崩してあいまいに伝わる。
そろって首を傾げる、私とスラリアは息が合っていた。
『リリア様、スラリアちゃんっ!』
そんな私たちに向かって、リリアは満面の笑みを浮かべて言った。
『シキミ様にリベンジする舞台、欲しくありませんか?』
リリアの笑顔100%に圧倒されながら、私とスラリアは顔を見合わせる。
「それは、もらえるものなら欲しいけど」
「ぷにゅにゅ」
もちろん可能ならば、あの爽やかフェイスがゆがむところは見たい。
しかし現状では、その手立てが機会も能力もないのだ。
『じゃーん! サービス一か月記念イベント! PvP闘技大会が開催されまーすっ!』
私たちの困惑をよそに、リリアは元気よく宣言する。
いつもの黒い画面が私の前に現れるが、そこに描かれた内容は、いつもより楽しげでカラフルだ。
おそらく、いまリリアが言っているイベントについての案内なのだろうけれど。
「ぴーぶいぴーって、なに……?」
「にゅぅぷにゅにゅぅ?」
『PvPとは、プレイヤー・バーサス・プレイヤーの略! プレイヤー同士が一対一で戦う、ガチバトルなのですっ!』
ああ、説明にまで元気が浸透している。
いや、超絶可愛いからいいんだけどね。
『ランダムに会場が割り振られた参加プレイヤーたちは、トーナメント形式でただ一人の勝者を決めるっ!』
「ぷにゅにゅ!」
ああ、スラリアにまで元気が伝播した。
いや、超絶ぷにぷにだからいいんだけどね。
「えっと、でも、ランダムってことは、シキミさんと当たらないかもしれないよね?」
10万人のプレイヤーが全員参加するわけではないにしても、同じ会場になる確率も低そうだが。
私の問いに、リリアは腰に両手を当てて大きな胸を張るようにふんぞり返る。
そのまま後ろに倒れて頭を打ってしまえばいいのに。
『ふふん、私を誰だとお思いですか? リリア様とシキミ様は、絶対に戦います。し、か、も――』
「ぷにゅん?」
楽しそうに、私の顔の前に人差し指を立てた手を掲げてくるリリア。
ちくしょう、胸は大きいけど可愛いから憎めない!
『――第一回戦でね』
そう言って、女神様は悪い笑みを浮かべるのだ。
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【名前】リリア
【レベル】9
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度5
【ステータス】
物理攻撃:20 物理防御:40
魔力:35 敏捷:10 幸運:25
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉、魅了、同調
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