35 その頃の会議室〜学長と魔道教師たちの会話〜
「学生の様子はどうですかな?」
聖王国魔法大学学長サビーノ・マデリは会議室に集まった
サビーノは聖王国辺境の貧しい農村で生まれ、苦労の末に魔道士となり聖王国魔法大学の学長という地位についた。
いつもニコニコと笑っており、風貌も近所のおじいさんという風体のため王国の国民からも愛される学長である。
が、実は聖王国魔道士の大半はこの学長の教育方針によって育成され、数多の高位魔道士を生み出した聖王国魔法教育の第一人者、まあ平たくいうと凄腕の教育者である。
「は、学長。すでにリタイアをしたチームが三チーム出ております。魔導石確保に成功したのは二チーム。それ以外のチームは監視を続けておりますが、今のところサバイバルの点で苦労しているようです」
「現時点で確保に成功したのは我が聖王国出身者で構成されたチームと、帝国貴族の令嬢が率いるチームです」
卓に置かれた水晶から映像が空中に映し出される。
聖王国チームは大学が期待をする聖王国出身の魔道士ジャン・デ・シーカが率いるチームだ。
ジャンは聖王国貴族の子息で、幼い頃からサビーノが教えた弟子の一人。赤毛で気が強そうな外見のあの若者だ。
チームメンバーにも新進気鋭の若者をそろえている。
つまり、このチームは大学側が認識しているいわゆるエリート揃いとなる。
帝国貴族令嬢チーム。これはイベント開始前まで誰もノーマークだったチームだ。
帝国伯爵令嬢アイヴィー・カスバートソンがリーダーとなっているが、実質的にチームを動かしているのはサーティナ王国から留学をしてきた
さらに聖王国出身で治癒魔法を扱える数少ない魔道士アドリアーネ・インテルレンギ……聖王国神官を輩出する名門インテルレンギ家の令嬢、さらに初めてシェルリング王国から留学が認められた肉体派魔道士のトニー・ギーニ。
一風変わったメンバーで構成されたチームだ。
「まさかカスバートソン伯爵令嬢のチームが二番目に魔導石を確保するとは……」
「チームではサーティナ王国のクリフ・ネヴィルという若者が実に的確な指示を出しています」
「この若者が冒険者経験がある、というのも大きいのかもしれませんな」
こういった自由闊達な議論も現学長により認められている。
そう、この迷宮内では事故が起きないように常に監視をされている状況だ。
事故というのも多岐に渡り、ストレスから
イベントの提案を王国首脳部に行った際に、貴族側から事故の発生についての懸念が多く提出された。まあ当たり前の話だが、まだまだ年若い学生が一つ屋根の下、ということは何があってもおかしくない。
そういった懸念を払拭するために大学側が出した答えが、24時間監視安心安全のセキュリティ、というコンセプトだったのだ。
つまり、クリフとアイヴィーの夜に起きた子供じみたちょっとした
監視装置では音声などは取れないため、当日の当番は報告書に「リアジュウバクハツシロ・リアジュウバクハツシロ・リアジュウバクハツシロ」と謎の呪詛を記載し、血の涙を流していた。
というのは後世の大学史に記載があるとかないとかそんな小さな出来事。
「昨年までは対戦形式のイベントを催していましたが、今年の探索イベントはなかなかに好調のようですな」
副学長がサビーノに報告書を手渡す。
「特に冒険者として経験のある学生が何人かいるので、貴族の子弟チームよりもサバイバルの面でリードしやすくなっています」
サビーノはうむ、と頷くと報告書を軽くチェックする。
「近年貴族の子弟が権力を振りかざして不正に勝利を得るケースも散見されたのでな。違った形にしたことで、隠れた才能を発掘できている、と考えるべきだな」
サビーノが満足そうに顔を綻ばせる。
「ところで……このカスバートソン嬢チームの報告書にあるリアジュウバクハツシロという文字はなんだね」
「それがどうも当番が記載していたそうなのですが、要領を得ないものでして……何かあったことは確実のようですが」
「ふむ……」
何かが起きていたことは確かだが、それが特に問題行動でなければ不問だな、とサビーノは興味を他の報告書へと移す。
「魔導石獲得後の対人戦についても解禁をしているが、大事になる前に介入を図ったほうが良いやもしれん。その点については監視班に判断を委ねるが、くれぐれも粗相の無いように」
何枚かの報告書に目を通したサビーノは満足そうに笑う。
実に本年度のイベントはうまく機能している、そして彼としても帝国貴族の子弟の大半が苦戦している、
「帝国貴族チームがうまく機能していないのも、近年起きていた不正疑惑の証拠となるやもしれん。このまま監視体制を強化し、事故のないようにな」
こうして大学によるイベントもいよいよ佳境を迎えようとしていた。
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