第8話 帝国との戦争(3)
広い通りに出ると、金ピカの鎧と大きな盾を持ったでかい男が、子どもを抱きかかえた女の人へ大きな斧を振りかぶっていた。
「姉さん!」
エレンさんが叫びながら走り出す。
僕も走る。
エレンの姉さんが驚いた顔でこちらを見る。
「エレン?」
「姉さん。逃げてくれ」
「ありがとう」
少し足を引きずりながら、逃げ始めた。
でかい男はニヤニヤ笑っている。
「新手か。ゲハハ。逃げても無駄だ。どうせ全員吾輩が殺すんだからな」
「ウィンドカッター」
ビュウウッ
パンッ
振り上げた斧へ向かっていたナンシーさんの魔法が、当たる前に弾けて消えた。
防御の魔法か何かか?
「ゲハハ。無駄だ。大人しくそこで見ていろ」
「お前は邪魔だあ!」
エレンさんが剣で斬りかかる。
でかい男がエレンさんへ斧を振り下ろす。
ガキィンッ
エレンさんが左に吹き飛ばされた。
その隙に僕が切り込む。
ガンッ
大きい盾で殴られ、飛ばされる。
ドシャッ
すぐに起き上がるが、横に右肘と右足と斬られたエレンさんが倒れている。
たくさん血が流れている。
たった一振りでなんて攻撃力だ。
「ゲハハ。吾輩は将軍レバルドゥージ。無駄なことはせずに殺されるのを待っていろ」
「ファイアランス」
ボウッ
パンッ
「無駄だ無駄だ。我が将軍スキルでいかなるスキルも我が配下への魔法攻撃となる。ただし、魔法防御力の高い配下ばかりなので、誰も吾輩へ傷1つつけられんがな。ゲハハハハ」
これじゃあ、ナンシーさんの魔法が通じない。
レバルドゥージから少し離れたところに黒い兵士が大勢おり、全員が将軍と似たように笑って様子を見ている。
王国の兵士や村人はみんな血だらけで倒れているが、中には動いている人もいる。
エレンさんも危ない状態だ。
はやくリリアの治癒魔法で治さないと、死んでしまう。
「ナンシーさん。コイツを倒した後、敵の兵士から僕を守ってください」
「当たり前よ。やりなさい」
いつも助かる。
レバルドゥージは笑うのをやめ、意外そうな顔。
「何を言っておる?お前のような雑魚が吾輩に勝てるわけがなかろう」
エレンさんの姉さんは逃げてくれたので、レバルドゥージの周りには誰もいない。
ドラキュラも倒した僕のスキルなら、なんとかなるはずだ。
僕は両手を前に向ける。もちろん。全力だ。
「はかいビーム」
ギガギャリリリリリー
人間の倍のサイズの太く白い光がレバルドゥージへ向かう。
鼓膜が破れそうな音の後、僕の目の前には大きな穴がまっすぐ伸びていた。
バタバタバタッ
たくさんの人が倒れる音。
なんだろう。動けないから周りが見えない。
「エレンさん大丈夫ですか?ヒール」
リリアがエレンさんにヒールをかけてる。
「何度もありがとうございます。聖女様」
「うん。いーよ。アタシは他の人にもヒールるね」
「村は私が詳しいので案内します」
2人が走っていく。
「エリオット。やるわね」
「ナンシーさん。うまくいきましたよ。良かったです」
「そうね。うまくいき過ぎよ。帝国の兵士が全員倒れているわ。あなたのスキルのダメージを将軍のスキルで帝国軍全員に与えたようね。1人で帝国軍を壊滅させてるじゃないの。じゃあ、私は倒れてる帝国軍を縛り上げていくわね」
どうやら、帝国軍を止められたようだ。良かった。
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その後、村人と兵士の半分ほどはリリアのヒールで治すことができた。
しかし、死んでしまった人は治せない。
今晩は近くに立てたテントで休むことになった。
「あなたがあの時助けに来てくれた勇者様ね?」
「えっと、はい。そう呼ばれています」
お姉さんと小さい女の子が声をかけてきた。親子で美人だ。
「私はエレンの姉よ。弟と娘を助けていただきありがとうございます」
「ありがとー勇者のおにいちゃん」
「あー、あの時の。いえいえ。僕が来るのが早かったら、他の人を救うことができました」
「そう。真面目なのね。あまり思いつめないでくださいね。少なくとも私たちは命を助けてもらいました。それだけはわかってください」
「バババーンってやっててとっても格好良かったよ。わたしが大きくなったら、勇者のおにいちゃんと結婚してあげるわね」
「ははは。ありがとう。お兄ちゃん頑張るね」
助けられなかった命だけじゃなく、助けることができた命があることを、僕は大事にしようと思った。
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翌朝僕たちは砦に戻ると、王様に呼ばれた。
王様はご機嫌な様子。
「おぉ、勇者よ。よくぞ戻られた。お陰で我が軍は次々帝国軍を撃破しておるぞ。なんせ、帝国軍は全員倒れておって、何もできんのじゃからな」
サラ王女も笑顔だ。
笑顔だが、今回は化粧してるし、綺麗なドレスを着ている。
なんだろう。楽勝モードなのかな?
胸とくびれ、お尻のバランスが整っている。王族はいい物食べてるんだろうか。
ということは、第2王女のシルビアさんもいい体なのでは。
「ありがとうございます。勇者様のご活躍にとても助かっております」
「そりゃーそうよ。エリオットは勇者なんだからねっ」
リリアがなぜか自慢げ。
「我が王国軍の勝利は時間の問題じゃ。そこで、勇者に1つお願いなのだが、サラと結婚して次期国王になって欲しいのじゃ」
え?なんで?
「ダメダメ。エリオットは私のエリオットなんだから」
「ほほー、勇者は聖女と恋仲か。ならば、サラは側室として2人目の妻でもよい。どうじゃ?」
「えー、何それ?サラさんもエリオットが好きなの?」
「はい。男らしく強い人が私の好みです」
「んー、そうなの?エリオットはどうなの?」
どうって聞かれてもな……
すごいことになった。
それに、リリアが僕のことを好きみたいなことを言ってる。
よくわからなくなってきた。
バタンッ
急に扉が開く。みんな、扉は静かに開けようよ。
急いだ様子の兵士が、サラさんへ向かって話し出す。
「報告します。勇者スキルをもつ者を発見しました」
「何?どういうことだ?」
「王国で15歳になったシーボルト家の長男。アレン・シーボルト様のスキルを水晶で確認したところ、勇者であることが判明し、聖剣を手にすると、雷の魔法を使用したのです」
「なんと。勇者のみが使える聖剣と雷の魔法だと。言い伝え通りの勇者ではないか」
わお。勇者スキルってことは、本物の勇者が現れたってことだよね?
偽物の勇者の僕はどうなるんだろう?
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