第77話 帰還

"ほんま、お世話になりました"


犯罪組織ラビオのボス、ネブロは深々と頭を下げた。


"こんなところまで送ってもらって、悪いな"


王都アルスニアの東にある草原は暗闇に包まれている。唯一の明かりは馬車のランタンだけだ。


"何をおっしゃりますやら!あんたはんのお陰で無事に戻って来れた。加護を抜かれたら処分されるとこやったんや。命の恩人や"


人の良い商人のような出で立ちだが、これでもスラムを束ねるボスだ。腹に一物を抱えていることだろう。


"それに、そこの奴も連れて行ってくれるなんて……"


ネブロは反神の民に一瞥をくれた。


"もしコイツが日本を気に入ったなら、反神の民はまるっと地球に移住することになる"


"それはありがたいことですわ。加護持ちにとっては天敵ですからね。まるっと居なくなってくれたら助かります"


しかし、遅い。もうそろそろくる筈だが。


「三木。望月には連絡したんだろうな?」


「もちろんですよ。【転移】の筆入れで手紙を送りました」


三木の鼻には俺が渡した鼻ケースがつけられている。クワガタに挟まれた傷はそろそろ塞がっただろうか?


「サブロー、来た」

「来タワン」


黛とコニーが空を見上げて言った。俺には何も見えないが、2人が言うなら間違いない。


ズンと地鳴りがしたと思うと、モチ太郎が姿を現した。ラビオの連中が腰を抜かしている。


「無事だったか!!」


モチ太郎から飛び降りた望月がエジンと三木に駆け寄った。


「エジン、お前痩せたな!今なら私が勝つぞ!」


「馬鹿言え。これは痩せたのではない。研ぎ澄まされたのだ」


エジンが強がる。今もかろうじて歩いているような状態なのに。戦えるようになるのは随分と先だろう。


「三木もフラフラじゃないか!立ってられないなら、四つん這いになった方がいいんじゃないか?」


「やめてくださいよ!もう四つん這いは卒業したんですから」


「大体の奴は2歳になる前に四つん這いは卒業だ!」


望月の言い分はもっともだ。


「さて、感動の再会はそれぐらいにしろ。そろそろ行くぞ」


「よし、全員モチ太郎に乗れ!!」



モチ太郎の背に乗るとすぐにランタンの灯りは小さくなり、アルスター王国は見えなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る