第64話 一撃

「いたたたた。振動が足に響きますねぇ」


足を痛めた富沢さんが座り込み、顔を顰めながら言った。私達のいるコクピットはロボット?の胸の辺りにあり、随分と広い。


「自業自得っす!自分の体重考えてください!」


「富沢は馬鹿だな!!」


2人の言う通りだ。富沢さんの体型で20メートルの高さから飛び降りるなんて自殺行為。いくら加護持ちだからといっても油断し過ぎだ。


「ボス、ポーションはありませんか?」


「馬鹿にやるポーションはない」


「よよよ。厳しい」


そう言いながら、自分のマジックポーチからポーションを取り出し、足にふりかけている。一連のやり取りを見ていると、富沢さんと根岸さんの関係性が分かる。ちょっと羨ましい。


「根岸!もっと速く動かせないのか!?」


【念動】でロボット?を操作する根岸さんを望月さんが煽った。


「ふん。舌を噛むなよ」


ロボット?が徐々に加速し、走り始める。


「おおお!速い!凄い!もっとだ!!」


「ちょっと、パイセン!酔うからやめて下さい!望月さんも黙って!!」


「……ちょっと気持ち悪いです」


「おい五条。吐くなよ。【統計】眼鏡で前方位1キロ以内にいる人間の数を測ってくれ」


「……うぷ。えっ、あっ、はい」


根岸さんの指示に五条さんが慌てて眼鏡をかけた。


「……うぷ。1キロ以内には、人間は、いません」


「2キロ以内ならどうだ」


「……うぷ。120人です」


まだ肉眼では見えないけれど、飛行船はもうすぐそこまで来ているようだ。想定よりも大分はやい。


帝都から充分に離れた辺りで、ロボット?は歩みを止めた。五条さんはギリギリ、大丈夫だった。



#



どれだけ待っただろう。遠くに見えた点が徐々に大きくなり、その全容が視界に入ると圧倒された。


日本で見た飛行機よりも遥かに大きな飛行船に言葉を失う。


「……パイセン、あの飛行船。デカくないですか?なんか光ってますし」


「飛行船の周囲で光っているのが結界だろう。良いマトだな」


こちらに近づくにつれて、飛行船の速度はゆっくりになった。こちらの様子を伺っているのだろう。


「フィロメオ。軽く威嚇してもいいか?」


「もちろんです。皇帝として許可します」


私の合図をキッカケにコクピットが大きく開き、ロボット?が両腕を前に突き出した。


「……いくぞ」


根岸さんがロボット?と同じように両腕を前に突き出す。


「消し飛べ」


大気が震え、悲鳴を上げた。


認識出来ない何かが飛行船に向かって進み、幾重にも重なっていた結界を破る。


飛行船が沈む。


それは私の想像の中だけのことだった。実際はその結界を破っただけ。不可視の一撃は飛行船本体を掠めていってしまった。


「……ほほほ。お優しいことで」


「威嚇だと言ったろ。それに撮影中だからな。殺生はなしだ」


根岸さんが睨みを聴かせていると、飛行船はゆっくりと旋回を始めた。


「おお!飛行船が逃げていくっす!!」


「なんだ、もうおしまいか!つまらんな!!」


イシャーン王国の飛行船は来た時の何倍もの速度で離れて行き、やがて完全に見えなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る