第11話 練兵

和久津にデータを渡した後、俺とマレーンは異世界へ蜻蛉返りしていた。ある男と一緒に。


「ほほほ。ここがリリパットの村ですか。ガリバーの気分ですねぇ」


「富沢、お前はちょっと小さくなれ。葛籠がギリギリだ。それと、ここは村ではない。駐屯地だ」


扇子をバタバタさせながら富沢は周囲を注意深く見渡した。


「それは失礼。ならばあれは練兵場ですか?」


富沢は駐屯地の外れ、リリパット達が槍に見立てた棒を振るっている方を扇子で指した。


「そうだ。歩きながら話すぞ」


「せっかちなボスですねぇ。そうは思いませんか?お嬢さん」


「ワタシハヘイキデス」


「随分と物分かりが良い。まぁ、ボスに逆らっても何にもなりませんからねぇ、賢明ですよ」


富沢がマレーンを構う。たぶん富沢なりの気遣いなんだろうが、とにかく痩せろと言いたい。


「あの老人は?」


富沢が集団の前に立って盛り上げるグランピーを指した。


「グランピーだ。リリパット軍は表面上、奴の指揮下にある。唯一、森の外を知るリリパットだ」


「随分と買ってるんですねぇ」


「奴は役目を果たしたからな」


富沢は興味深い視線をグランピーに向ける。


「それで、私は何を?」


「先ずは奴等でも扱えそうな槍を調達してもらう。あと、見込みのありそうな奴等を20人ぐらい選んでカオスサーガに連れ帰ってくれ」


富沢が巨体を揺すって戯ける。


「それは妖怪ダンジョンへ?言葉は伝わるんですか?」


「心配するな。後で【念話】のスキルオーブをやる。第5階層のフロアボスを倒してスキルオーブを得た奴だけこっちに送れ。4人に1人の割合でカオスサーガのメンバーをつけるんだ。訓練でリリパットを減らすつもりはない」


「過保護ですねぇ。どうしたんです?」


「奴等は重要なコンテンツだ。散る時は華々しく英雄的でなくてはならん」


「ほほほ!そーいうことですか。彼等はカオスサーガのメンバーと同等に扱います。ご安心を」


「あと、訓練の合間に日本語を教えろ。最終的にリリパット軍への命令は日本語で行う予定だ」


富沢は隣のマレーンをチラリと見る。こいつ、やけに構うな。


「……それは戦い方を教えるより大変かも知れませんよ。大丈夫ですか、お嬢さん?」


「ワタシハヘイキデス」


「人のことはいい。お前はすんなり葛籠を抜けられるように痩せろ」


「ボス、私の体型は加護の力を高めるのものなんです。お嬢さん、身体の大きい男性をどう思いますか?」


「ワタシハヘイキデス」


くそ。今日教えた日本語が裏目に出た。

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