第72話 最後に立つ者

「それまで!」


審判の声よりも早く和久津はリングに駆け寄り、マジックポーチから取り出したハイポーションをリングに横たわるゴ右衛門の傷にぶっかけた。


そんなに焦らなくとも致命傷には遠いのだが、今の和久津に言っても無駄だろう。惜しげない追いポーションが更に浴びせられる。


「ゴ右衛門!!」


和久津の呼びかけに呼応してオークキングのスタッフがカメラを寄せた。この辺は絶対に抜かるなと指示してある。感動ポルノは1日にして成らず。


「ウウ、ワクツ?」


「ゴ右衛門!勝手に居なくなって!生きてるなら生きてるって言ってよ!」


「イ、イキテユ」


「もう煙になったかと思ってたんだから!何してたんだよ!?」


「チワワ、ツケテタ」


「チワワ?」


「ボス、チワワ、ホシカ?ゴーウェイモン、チワワ、ホシイ」


クソ。ゴ右衛門の日本語が微妙過ぎていまいち感動が乗り切らない。


「ゴーウェイモン、チワワ、タリナイ。ゴーウェイモン、チワワ、ツケル、ワクツ、ホコロブ」


「ゴ右衛門ーー!!」


和久津が人目も憚らずゴ右衛門を抱き寄せた。何故だか和久津にはゴ右衛門の言いたいことが伝わったらしい。


「ゴ右衛門は強くなったよ!ゴ右衛門って分からないぐらい強くなった!びっくりだよ!」


「ワクツ、ホコロブ?」


「ああ、ほころぶよ!」


和久津がポロポロと泣き始めた。司会の女に視線をやると、コクリと頷き拍手を始めた。拍手は徐々に大きくなり、次第に会場に響き渡った。訳がわからなくとも、和久津の様子に釣られて観衆は拍手し、その波は新宿ダンジョンを揺るがした。


ゴホン。


拍手がひと段落した頃、伊集院がわざとらしく咳払いした。和久津がゴ右衛門を解放し立ち上がる。


そして待ちぼうけをくらっていたコジローに近寄り、その手を取った。


「ゴブ-1グランプリ!優勝はコジロー!!!」


おおおおおおおおーーーー!!!!


今度の拍手はなかなか鳴り止むことなく、伊集院は困った顔をするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る