第56話 カオスサーガ

カオスサーガの拠点は山梨県の山中にあった。新宿から車で1時間半といったところだ。都内からこんなにも近いのに発見されていないのは意外だが、それはダンジョンの入り口が出来た位置に関係している。


カオスサーガが拠点としているダンジョンは産廃業者の敷地の中にあるのだ。その産廃業者の名前は権田商会。カオスサーガの表の顔だ。そして権田商会の社長、権田実(52)がカオスサーガのクランオーナーでもある。


権田商会/カオスサーガのメンバーは約100人。末端の出入りが激しいので数は流動的だ。そのメンバーのほとんどはカオス系の加護持ち。しかも若い。10代も多数在籍している。そしてそれには理由がある。権田商会が不良少年少女の受け皿となっているのだ。


カオス系の加護持ちは一般社会では敬遠される。例えば窃盗の神様の加護持ち。こんな加護持ちをわざわざ雇う会社は少ない。行き場を失うカオス系の加護持ち。そこに権田商会は手を差し伸べる。最初は権田商会の社員として。そして徐々に闇クランのメンバーとして。


カオスサーガでの仕事はメンバーの加護によって異なる。単純に自分達のダンジョンで魔石やドロップアイテムを集めるメンバーもいるし、自分の加護を生かして別の仕事をするメンバーもいる。例えば窃盗の加護持ちはその特殊能力"盗みを働いている時は存在感が薄くなる"を生かしてダンジョン内外で盗みを働く。大企業からの産業スパイの依頼もあるというから驚きだ。


若いメンバーの多いカオスサーガだが、中には幹部と呼ばれる存在が3人いる。一人は三毛猫社に現れた富沢(45)。奴はカオスサーガの古参で暴食の神様の加護持ちだ。奴が加護を意識しながら何かを食べると周囲は吐き気を催し、最終的に気を失ってしまう。自分の周りでは自分以外が食事をすることを許さないという非常に迷惑な加護だ。


もう1人は目々野(24)。怠惰の神様の加護持ち。何もしたくない気持ちが高まると言霊が生まれ、本人に代わって厄介事を片付けてくれる。目々野はもうこちらに転んでいるので問題ない。


不確定要素はもう1人の幹部と権田だ。もう1人の幹部は最近入ったばかりらしく、目々野にも他の二人の記憶にも殆ど情報がなかった。


で、問題は権田だ。権田は強欲の神様の加護を持つ。強欲の加護は最強最悪の加護の一つに数えられている。強欲の加護で知られている能力は一つ。敵対する相手の使ったスキルを一つだけ奪うことができるのだ。


権田が今までどれほどのスキルを奪ってきたのかは分からない。だが、目々野の記憶を見る限りカオスサーガは幾つもの闇クランと敵対関係にあり、中には抗争の末に潰したクランもあるのだ。かなりのスキルを保有していると思った方がいい。


「ん、来たか」


和久津と五条それぞれから準備完了の連絡が入った。


「準備はいいか?」


「うん」


黛はいつも通りに平坦だ。


「危なくなったら一人で逃げろよ」


「危なくなったら全員ナイナイするから大丈夫」


「そうか。任せる」


「任せて」


さて、作戦開始だ。

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