第9話 逃走
さて、そろそろ職務放棄の隠ぺいをするのにも限界がある。
とうとうこの日が来てしまったようだ。
という程待ってないけどね、割と追い出される時はすぐだった。
俺の職務怠慢が判明するよりも前に、まさか他の研究者に濡れ衣を着せられる事になるとは、思わなかった。
研究の成果を盗まれたって、そんな事してないんですけど。
それでもう、研究所はあっちもこっちもばたばた。
急いで端末にソニアを移動させて、ウィズを肩にのせたシロンをつれて、脱出しようとしている所だ。
「シロン、こっちだ」
「う!」
研究成果を横取りした罪に問われて俺は、シロンと共に絶賛逃亡中!
文字にすると壮大っぽいけど、過程をしってるとなんだか間抜けだね!
俺達は、研究者や警備員の目を盗みながら、ソニアナビゲートでこそこそ急いで移動していた。
誰かに見つかった時はウィズに攻撃してもらって、その隙にさっさと逃走。
施設の中を息を切らしながら走ったけど、研究職だから息切れが激しい。
「君はもうちょっと運動した方が良かったね」
「めっそうもございません」
「シロンの方が走れてるじゃないか」
「これが若さというものか」
「ネタに逃げないでおくれよ」
「はい、反省してます」
それで、やっとの事でたどりついた転移装置の前だけど。
待ち構えられていたらしい。
ですよね。
逃げると言ったら、最終的にはここに来るしかないもんね。
かくなるうえは、俺が盛大に暴れているうちに、なんとかシロン達だけでも逃がせられないだろうか。
どうにか逃走ルートを確保しようと、周囲を見つめてみるけれど。
警備員も研究者も、めっちゃ多い!
人が文字通り壁になってるよ!
多すぎぃ
立ちふさがる運命の壁が分厚すぎて、絶望しそうになった。
しかし、
「連れてきた」
ポツリとした呟きが、転送装置のさきから聞こえてきた。
あれ、いつの間にか装置が作動している。
そこから現れたのはイマ先生だった。
そして、何だか仰々しいオーラをまとった女の人。
そしたらシロンがんがその人を見て、仰天発言。
「あっ、お母様だ」
えぇーっ。
どういう状況?
すると、目の前で警備員とシロンのお母様がどんぱちやり始めた。
さすがファンタジー。
超常の力がばんばん飛び交ってる!
あっけにとられていたら、端末のソニアが告白してきた。
「ふぅ、間に合ったようだね。君達だけじゃ不安だったから、イマ君に協力してもらっていたのさ」
ソニア、お前めっちゃ出来る子じゃん。
めっちゃ可愛い子に、めっちゃできる子に、めっちゃかく乱できる鳥って、俺以外全員ステータス高すぎだろ。
「親に死なれる事ほど辛い事はないし、子供に死なれる事ほどつらい事はない。家族なら、当然のことだよ」
あっ、やばい。
まさか人工知能に泣かされる日が来るなんて。
何この子、めっちゃ親孝行してるじゃん。
俺なんて大した事ない形だけの親なのに。
「そんなことないさ、君の優しさが無かったらきっと、シロンは非道な研究の犠牲になってて、ウィズにも会えず、あのお母様は子供が行方不明のままだっただろうからね」
おう、何その地獄絵図。
感動から、イフの話で突き落とすのやめて。
さすがにそこまでの事にならないにでしょ。
何だかんだいって、イマ先生優しかったし。
よく分からんとか思っててごめんよ、先生。
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