第4話 子宮外妊娠
「お願いしま〜す」
そう言えば、今日はオペ日だ。
病理検査も、この前の『細胞診』と一緒で悪性細胞の鑑別が最優先だ。
内視鏡で採取された粟粒ほどの物から全摘された胃や腸のような大きな物まで、バラエティに富んでいる。
今更ながら、これは患者さんから採取された検体全てに言える事だが、その検体は何かのミスで紛失したり、破損したりしてしまったら、もう2度と採取出来なくなる。
例えば、咳が止まらない患者さんの喉や鼻から検体を採取した直後に抗生物質で治療を始めたら、その
特に病理検体は、大掛かりな手術で採取する事も多く『失くしちゃったから、また手術して採り直し』なんて、前代未聞の不祥事になるので、更に神経を遣う。
検体の入った容器と伝票を照らし合わせて、完璧になった
順調に確認を進めていると、小さい病理容器に入れられた『検体』が目に入った。 非常に変わった形状をしている。白くて滑らかで……
……!
次の瞬間、『ドクンッ』と大きな鼓動がして、その
手が凍りついて動かない……。
それは、今でもこの目に焼き付いて離れない……20%のホルマリンで固定された、妊娠2ヶ月目の『胎児』だった。ホルマリンで色素が抜けて白くなっているが、手には黒く小さな爪も出来かけていた……。
「ヒッ!」という私の悲鳴を聴いた深田先輩が「どうした?」 と近づく。その直後、都先輩も心配そうに来てくれた。
深田先輩が、私が持っていた病理容器を覗きこみ、「……
私は、絞り出すように聴いた。「この子……どうするんですか……?」
深田先輩も、都先輩も私の手の中を見つめて、押し黙っている…。
……その沈黙が、答えだった。
この子は『病理検査』に回され、『薄切』……つまり顕微鏡で見られる薄さにスライスされ、染色されて……良性か、悪性か、『診断』されるんだ。
「なぜです? この子は、人間です! 何で検査する必要があるんですか?」涙が止まらない。
深田先輩が言った。「残念だけど、異所性妊娠した胎児は、『腫瘍』なんだ。 たまたま、胎児の形になってるだけで、悪性の物かも知れない……」
『腫瘍』? 『悪性』?
……深田先輩の話の途中、悲しみと怒りがこみ上げて、検査室を飛び出し、職員トイレに駆け込み、声を上げて哭いた……。
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