第7話 二口女
黄昏の香取神宮で殺しが起きた。
千葉県北東部、利根川下流右岸の
古くは朝廷から蝦夷に対する平定神として、また藤原氏から氏神の一社として崇敬された。その神威は中世から武家の世となって以後も続き、歴代の武家政権からは武神として崇敬された。現在も武道分野からの信仰が篤い神社である。
文化財としては、中国唐代の
『日本書紀』(720年)では異伝として、イザナギ(伊弉諾尊)がカグツチ(軻遇突智)を斬った際、剣から滴る血が固まってできた岩群がフツヌシの祖であるとしている。また別の一書として、カグツチの血が岩群を染めイワサク・ネサク(磐裂神・根裂神)が生まれ、その御子のイワツツノオ・イワツツノメ(磐筒男神・磐筒女神)がフツヌシを生んだとしている。その後『日本書紀』正伝では、天孫降臨に先立つ葦原中国平定においてタケミカヅチ(鹿島神宮祭神)とともに出雲へ派遣され、大己貴命と国譲りの交渉を行なったという。なお、『古事記』ではフツヌシは登場しない。
フツヌシと香取の関係については、『日本書紀』一書「斎主神云々、此神今在于東国檝取之地也」とあり、「
祭神の性格としては、フツヌシが国土平定に活躍したという書紀の説話から、武神・軍神と見なされている。名称の「フツ」についても、記紀に見える神剣「フツノミタマ(布都御魂/韴霊)」の名と同様、刀剣の鋭い様を表した言葉であるといわれる。軍神の認識を表すものとしては、『梁塵秘抄』(平安時代末期)の「関より東の軍神、鹿島・香取・諏訪の宮」いう歌が知られる。一方、「楫取 = かじ(舵)取り」という古名から、古くは航行を掌る神として祀られたという見方もある。そのほか、フツヌシとイハヒヌシ(伊波比主/斎主)という異名称の扱いや原始祭祀氏族には不明な点が多く、香取神宮の創祀も含めて諸説がある。
遺体の身元は偽探偵、辺見だった。辺見の生首が要石の上に置かれてあった。
要石は、境内西方に位置する霊石。形状は凸型。
かつて、地震は地中に棲む
「生贄のつもりかな?」と、鈴江。
「辺見を恨んでる人間は山ほどいるだろうな?」
俺は辺見の死がさほど悲しくはなかった。
周辺を聞き込んだところ、ある少年が二口女って怪物を目撃したと話していた。
俺は幼い頃、祖母から聞いた怪談を思い出した。
下総国(現・千葉県)のある家に後妻が嫁いだ。夫には先妻との間に娘がいたが、後妻は自分の産んだ娘のみを愛し、先妻の子にろくな食事を与えず、とうとう餓死させてしまった。それから49日後。夫が薪を割っていたところ、振り上げた斧が誤って、後ろにいた妻の後頭部を割ってしまった。やがて傷口が人間の唇のような形になり、頭蓋骨の一部が突き出して歯に、肉の一部が舌のようになった。この傷口はある時刻になるとしきりに痛み出し、食べ物を入れると痛みが引いた。さらに後、傷口から小さな音がした。耳を澄ますと「心得違いから先妻の子を殺してしまった、間違いだった」と声が聞こえたという。
同書では、傷口が人間の顔のような形になり声を発したり、食べ物を要求したりする「人面瘡」の話を引き、悪い行いをした者が人面瘡を患った話があることから、この二口女も道に外れた行いをしたための悪病だと述べている。このため、同書はこうした妖怪を通じて人道を説いているものとする説もある。
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