侯爵家当主の愛人候補様?
アーエル
見事なニセモノ
「フレイ様、不可思議なことを仰られる方がおいでになっております」
執事にそう言われて書き物をしていた手を止めて顔をあげた。
「お約束は?」
「ございません」
「先触れは?」
「ございません」
ここまで直接いらっしゃったのでしょうか。
この時点ですでに正常な貴族ではないことは確定です。
それにしても……
「不可思議なこと?」
「はい、『こちらのご当主様とは深からぬ仲になっており、すでにご当主様とはこちらで愛人としてお雇いいただく許可証をいただいております』とのことです」
「深からぬって深い関係じゃないってことでしょう?」
「はい、そこは『浅からぬ』の誤用ではないかと存じます」
貴族ぶる平民や下級貴族が難しい言葉を使って知性の高さを謳うが……
このとおり、間違った使い方をするため笑われる結果となっている。
「それにしても……当主ねえ」
「はい、いつものとおり対処いたしましょうか」
「ええ、お願い」
さて、今回の愛人候補生はどのようなダンスを見せてくださるのかしら。
「お待たせいたしました」
応接室の上座に座っている女性が二人、あらら、一人は青ざめた状態で慌てて立ち上がってカーテシーをしたわ。
「いつまで待たせてるのよ。っていうか、ここの当主は⁉︎ この私がきてやったというのに出迎えもできないの⁉︎ はあ……こんなんじゃ伯爵家の評価もガタ落ちね」
みっともなく座ったままで挨拶もできない女が、カーテシーをしたまま頭を上げない女性を蹴り飛ばす。
「自分の方が知性あるなんて思ってんじゃないよ。ああ、アンタ召使い? いい格好してるけど、メイド頭かなんか? ああ、今日から私がここの女主人だから。コイツって没落令嬢とかでさ、身売り斡旋所に来たからついでに連れてきた。愛人になれなくてもさ、ここでメイドにでも使ってやってよ。処女か経験浅いからさ、調教のしがいもあるでしょ」
「そのお話から伺うに、あなたもその斡旋所からきたのではなくて?」
「ああ? そんなのどうでもいいだろ。私は
床に倒れた女性は顔を赤らめて涙目で正座をしている。
黙っているのは貴族のマナーを身につけているからだ。
「貴族の愛人になるって、どういうことかご存知ですの?」
「そんなの知らないわよ。ただ綺麗なドレスを着て、パーティーやお茶会に呼ばれてバカみたいに笑って愛想を振りまいて。あとは当主の子供を妊娠すれば正妻を蹴り落として自分が正妻になれる」
「わけねえだろ、クズが」
おっと、思わず地がでてしまった。
「そういえば、愛人許可証なるものをお持ちだそうね。確認するわ、見せていただけます?」
「何でアンタなんかに!」
「愛人許可証なんて見たことないんですもの。興味あるじゃない」
「ん、まあ……見るだけよ」
そういって丁寧に折り畳まれた証書をテーブルに出してきた。
上質な紙に愛人として採用すると
ただし、見事なニセモノ。
サインには花紋の印も押されることで正式な証書と認められる。
この証書にはその花紋がないのだ。
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