閑話:定例推し活会議 〜都市再生に向けて〜

「じゃ、乾杯!」


「「「乾杯〜!」」」


 もうすぐ日付が変わろうという時間。

 死霊都市の名店『リヴァンデリ』にて、久々の推し活会議が開かれていた。

 次のワールドクエストのPVが公開されてから、それぞれが事前の情報収集と準備に追われ、集まったのは実に2週間ぶりである。


「うん。やっぱりショウ君の島のワインはずば抜けて美味しいね」


 しみじみと語るデイトロン。


「口当たりが良くて飲みやすいよね〜」


「本土のワインはアルコールがキツいですけど、そういうの全くありませんよね」


 と女性陣にも好評な島ワインは、マスターシェフがショウからもらったもの。

 本土に存在する調理器具を買い集めたり、南の島のコラボで追加の食材を用意したお礼ということで中樽一つ分が贈られている。


「それにしても、想像以上に順調にハクが栽培されててビックリだね」


「とても素人とは思えんのう」


「ネット調べればわかることとはいえ、それをきっちり実践できるのもすごいね」


 今日の『ミオンの二人のんびりショウタイム』では、間違いなく豊作といえるハクがショウや妖精たちの手で収穫されていた。

 どんな料理になったとしても、またとんでもないバフがつくのは間違いないだろう。


「調味料もすぐに作るみたいだし楽しみだよ。醤油、味噌、みりん……」


「日本酒じゃな」


「そろそろ寒なってくるし、熱燗でおでんとか食べたいわ〜」


 男性陣は早くも酒の方に気持ちが行っているが、ショウが未成年ということもあって、あまり露骨にお願いできないのが悩ましいところだ。


「さて、それじゃ、各々の報告を。何か新しいことがあればってぐらいで」


 デイトロンがゆるい口調で促すと、さっそくと手を挙げたのは『知識の図書館』ギルドのミイ。


「今日のライブを見た後ですが、竜族区画の大型施設の下見に行ってきました」


 ギルドマスターのミイと『知識の図書館』メンバー3人に、警護と監視と兼ねたゲイラたちが同行する形。

 まずは外周をぐるっと周り、高い壁に囲まれた大型施設の門を確認。


「正門も裏門も祝福が必要な魔導門で、その中に工場のような石造りの建物があるんですけど、そこも祝福が必要な扉みたいでしたね」


 大型施設の外周をまわり、ざっくりと様子を窺うだけで終了となった。

 どちらの門にも竜人族が交代で警備についており、警戒も厳重になっていたと報告するメイ。


「ショウ君から話行って、厳重になったんやろか?」


「だと思います」


 本格的な調査は明日の昼から。

 数日かけて、隅から隅まで調査することで依頼を正式に受注することになった。


「魔導施設を見つけた場合はボーナスが出て、魔導具もショウ君が優先的に買い取れるっていう契約内容でしたけど」


「ずいぶんゆるいというか、優しいというか……」


 苦笑いのデイトロン。

 本来であれば依頼料を気持ち多めにするかわり、発見したものの所有権は全て依頼主に帰属するのが普通だ。


「どないすんの?」


「過ぎたおせっかいも良くないし、一度結んだ契約を変えるのもね。ショウ君がいらないって言う魔導具があるようなら、基本ここのメンバーで引き取るでいいかな?」


「はい」


「さんせーい」


 ミイからの報告は以上ということで、次はマスターシェフから。


「南地区の定例だけど、大型施設が埋まってる場所をどうにかしようって話は進んでないかな。ワールドクエストが始まってないのもあるし、益のない瓦礫処理も飽きるみたいでね」


「あー、まあ、しょうがないよね」


「ワシらだって飽きるじゃろうからのう」


「瓦礫の中に魔導具が埋まってるかもって話が広がればでしょうか?」


「そうだね。そのためにも竜族の区画の調査が重要だと思うよ」


 そこで何かしら新しい魔導具の発見があるようなら、瓦礫除去に本気になるプレイヤーも現れるだろうというのが、デイトロンたちの読みだ。


「魔王国は秘密主義やしなあ。アンシアも黙ったまんまやし、ワークエで先行リードするために黙ってるんか?」


「そんなところだろうね」


 もう一つの区画、魔王国が押さえている北東区画の大型施設に関しては、全く情報が流れてこないまま。

 デイトロンはアンシアから再生魔晶石の作成について聞いたが、それはとてもうまく行っているとはいえない状況だった。


「あんまり進んでないことについては、副制御室を再起動できるのかって問題も大きいみたいだよ。ショウ君が再生魔晶石は作れることを公開してくれたけど、あれで特大サイズの再生魔晶石が作れる気がしないって」


 その言葉に納得する一同。


「今日は魔女ベルがいたから、ショウ君にできるか聞いてみて欲しいって流れになったよ」


「はー、自分たちで試せばいいのに」


「そうは言うても、あんなことできんのショウ君だけやし」


 結局その会合でも、ワールドクエストが始まるまでは様子見でも問題ないだろうという意見に落ち着いたとのこと。


「さて、どうしたものかな……」


 その結果に思案するデイトロン。

 自分が持つ大量の魔石をいつどこで使うべきかと……


「あまり考えてもしょうがあるまい。ワシらはいつでも動けるように準備を整えておくのがよかろうて」


「せやせや」「だよね〜」「です!」


「私もそう思うよ」


 いつの間にか集まっていた視線に肩をすくめるデイトロン。

 ショウのことを予測して動くのは不可能だからこそ、どういう事態になっても対応できるよう、メンバーに次の動きを伝えるのであった。

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