第459話 イメージできるのは一人だけ
「あんまり変わり映えしない夕飯で悪いねえ」
「いえいえー、すごく美味しいですー」
うんうんと頷く俺たち。
昨日一昨日に続いて、ゴーヤチャンプルーやラフテーといった沖縄料理の定番が並びつつ、普通の家庭料理もあって、それがどれも美味しかった。
お腹いっぱい食べて、美味しいお茶をいただきつつ、話題はやっぱりIROに。
「夜はどうする予定なの?」
「教会はそれ以外は特にって感じだったんで、別の場所を散策しようかなと」
コテージの西側にアームラ(マンゴー)の林があって、その北側に丘をくり抜いた感じで教会があったことは報告済み。
で、その教会にも地下があって、等身大の名も無き女神像があったことも。
ベル部長は予想通りフリーズしたんだけど、その名も無き女神像をどうすればいいんだろうという話になって復活してくれた。
「えー、女神像はミオンさんにしないんですかー?」
「えっと……」
「ぁ、私はどちらでも」
ミオンは俺の判断に委ねてくれるみたいだけど、それをしてどうってところなんだよな。
「たとえば翡翠の女神像にするとして、あそこに飾るんです? それとも本土へ持っていきます?」
「我としては、アミエラ領の開拓地に教会を建ててでもというところだが……」
「王都の教会幹部から絶対に何か言われるわね」
と困り顔の2人。
美姫、セスが王国にある教会幹部となぜか知り合いらしく、おそらくそちらから「寄越せ」的なことを言われるんじゃないかと。
「実際に『寄越せ』とは言わんだろうが、それこそ土下座して頼まれる可能性がの」
「は? そこまで!?」
「そこまでしても欲しい代物よ? 現存する神具としての女神像は、厄災があった後に王国、帝国、共和国で分けられたそうなの」
あー、なんかアージェンタさんに聞いたことがあるような無いような。
厄災を引き起こした魔導国家の本国は、今は竜の都と呼ばれる場所だけど、そこにあった女神像は全部人類側に渡したとかどうとか。
ベル部長の話だと、王国、帝国、共和国にほぼ同数渡ってるそうだけど、死霊都市に俺が新たに持ち込んだので……っていう。
「あれ? 魔王国は?」
「彼の国は持っておらんようだの。故に欲しがっておるとも聞くが噂レベルの話よ」
魔王国の存在がいろいろと謎なんだよな。
プレイヤーは普通にプレイしてるけど、今のところレベルが上がったら死霊都市の方へ来るのが定番。
なんでも、魔王国から北や東は禁足地扱い。ようは、まだ行けないエリアってことになっている。
「アンシアさんは欲しがってるでしょうね」
「「え?」」
俺もミオンも『蒼空の女神=氷姫アンシア』にしたいのかと思ったんだけど、そういう話ではないらしい。
「死霊都市で魔王国が持っている教会に、ちゃんとした女神像を置きたいはずよ。本人にそっくりかどうかはどうでもよくて、竜族とショウ君に先を越されちゃってるせいね」
「えー、どうでもいいじゃん、そんなの……」
「ベル殿&レオナ殿と覇を競おうと思っておったところで、兄上がぶっちぎっておるからのう。いまいち思っておった展開にならず困っておるのだろうて」
美姫が得意げにそんなことを言うんだけど、俺としてはぶっちぎってるって感じは微塵もないわけで。
今は竜族が確保してる教会に俺の島から運んだ真なる翡翠の女神像があって、魔族が確保してる教会に蒼空の女神の石像、プレイヤーが確保してる教会に紅緋の女神の銅像と分散している。
「死霊都市に持っていくと、また微妙なことになりそうだよな……」
「そもそも、ショウ君がそれを他の女神像にすることは可能なの?」
「あー、無理っすね。ミオン以外は」
今なんとなく蒼空の女神や紅緋の女神を思い出そうとしても、像として再現できるレベルでイメージできないんだよな。
島の教会で見つけた本、教典で見たはずだけど、いまいち思い出せない……
「でしょうねー」
「そうであろうのう」
「はいはい。ごちそうさま」
とみんなしてニヤニヤされてしまう。
ミオンはニッコリだからいいんだけどさ。
「まずはアズール殿と相談すべきであろう。基本的には兄上から委託された我らと竜族でこの島を抑えることになるのでな」
「そうね。現状で問題が出ていないようなら、慌てて何かをする必要もないかしら」
「名も無き女神像に関してはー、必要な時がくるまでー、ショウ君の島へ持ち帰ってしまってもいいかもですねー」
ヤタ先生の提案もありだなと思ってしまう俺。
ともかく、今日の夜のライブ前か、後にでもアズールさんに話してくれるということになった。
どっちにしても、明日またアズールさんと会うわけだし、その時にどうするか決めればいいか。
***
「っと。ミオン、近い近い」
「?」
結局、ミオンが無人島スタートしたコテージの一室で立ったままログアウトした。
それはいいんだけど、ログインしたら目の前にミオンがいてびっくりっていう。
「いや、うん。えーっと……」
結局、昼は時間が足りなかったのでベッドは作らず。
調達した木材は雨に濡れないように隣の棟まで運んだんだけど、やっぱり作る必要ない気がしてきたんだよな。いずれ引き上げるんだし。
それよりも、
「ワフ」
「ルピ。みんなは?」
俺たちを迎えに来てくれたルピの後をついていくと、トゥルーたちが水辺で遊んでいて、それをロイが見守ってくれていた。
あとは……
「〜〜〜♪」
「リュ〜」「ニャ〜」
「「え?」」
スウィーがパーンとシャルを従えてやってくる。こっちはレダが護衛についてくれてたっぽい。
それはいいとして、パーンとシャルで抱えているのは、アームラの若木だよな。
「〜〜〜?」
「あ、うん。もちろんいいけど、場所はどうするの?」
「〜〜〜♪」
スウィー曰く、パプの木があるあたりのさらに南の方に植えようという話。
それ自体は問題ないし、どうせやろうと思ってたからいいんだけど、
「今から島へ運びますか?」
「〜〜〜♪」
「帰りでいいって話だって。あと、もう何本か欲しいって」
「ふふ。じゃ、私が行ってきますから、ショウ君はトゥルーちゃんたちと」
農業とか園芸はミオンに任せるつもりだし、俺はトゥルーたちと湾内の調査がいいか。
ルピも水中はちょっと厳しいから、ミオンと一緒に行ってもらうことにしよう。
「じゃ、ルピ。ミオンを頼んだよ」
「ワフン!」
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